第三部 無限を砕く戦国の牙
銀河太陽饅頭を頬張っているかやの背後で、ふっと空気が変わった。
市場の喧騒の中に――
不自然な静けさが混ざる。
ジンの目が細くなる。
「……来たな」
フードを深くかぶった細身の影が、宙に浮く屋台の隙間から現れた。
歩くたびに足元の重力がわずかに歪む。
明らかに一般人じゃない。
「旅人さんたち」
声はやけに柔らかい。
「銀河グルメはいかがかな?」
朔姫が即答。
「最高!」
商人はくすりと笑い、視線を久世へ向けた。
「だが君たちが探しているのは……食べ物じゃない」
「もっと“輝くもの”だろう?」
ジンが一歩前に出る。
「商人、何を知っている」
フードの奥で光る複数の瞳。
「エーテルスターの欠片」
「この都市で最初に見つかったものだ」
一瞬、市場の音が遠のいた気がした。
かやが息をのむ。
「……やっぱりここに」
商人は指を鳴らす。
空中にホログラムが浮かび上がる。
そこには、小さな恒星のように輝く結晶。
だが表面には――
黒い亀裂が走っていた。
「まだ不安定だ」
「放っておけば暴走し、都市一つ吹き飛ぶ」
「だが私なら安全に保管できる」
難波が腕を組む。
「で、条件は?」
商人の笑みが深くなる。
「簡単だ」
「それを“買え”」
「ただし――」
視線が久世に刺さる。
「金ではない」
「君たちの“力”でだ」
夜叉が低く言う。
「依頼か」
「護衛」
「奪還」
「あるいは破壊」
「銀河には欠片を狙う者が多すぎる」
商人はゆっくりと囁いた。
「ネメシスも……もうこの都市を嗅ぎつけている」
ジンが歯を食いしばる。
「もう来ているのか……」
久世は静かに前に出た。
「いいだろう」
「その欠片、俺たちが回収する」
「ついでに狙ってくる連中も片付けよう」
商人の肩がわずかに震える。
「……やはり噂は本当か」
「宇宙を渡る英雄たち」
「契約成立だ、旅人たち」
市場の上空で、警報のような低音が鳴り始める。
遠くの空間が黒く歪み始めていた。
ネメシスの侵入兆候。
ジンが叫ぶ。
「歓迎会が終わる前に戦闘だ!」
朔姫が楽しそうに笑う。
「宇宙初バトル来た!」
久世は刀代わりのエネルギー刃を展開しながら静かに言う。
「旅は始まったばかりだな」
警報音が星海都全域に響き渡った。
空の一部が、紙を破るように裂ける。
黒い裂け目の向こうから――
“それ”が降ってきた。
人型だが関節は逆向き、身体は影と金属の中間。
胸には歪んだ恒星模様。
ネメシス尖兵。
市場が一瞬でパニックになる。
浮遊屋台が落下し
光の飲み物が宙に弾け
種族も文明も関係なく人々が逃げ惑う。
ジンが叫ぶ。
「市街戦になる!市民を守れ!」
尖兵の一体が腕を変形させ、光の刃を射出。
ビルの一角がえぐれる。
夜叉が前に出る。
「通すな」
一瞬で距離を詰め、影の胴体を叩き潰す。
だが――粉々になったはずの身体が再構成を始める。
「再生型かよ!」朔姫が舌打ちする。
次の瞬間。
久世が地面を踏み抜いた。
衝撃波が市場全体を揺らし、尖兵三体がまとめて宙を舞う。
「核を壊せ」
「胸の恒星模様だ」
かやが息を吸い、一気に駆ける。
かつて戦国を駆け抜けた足取りそのままに、空中の敵へ跳躍。
一閃。
核が砕け、光が霧散する。
再生が止まった。
ジンが叫ぶ。
「効いた!それが本体だ!」
だが裂け目から次々と現れる尖兵。
十体、二十体。
街が戦場に変わっていく。
難波が笑う。
「数が多いほうが燃えるな」
ビルを踏み台にしながら敵をまとめて叩き潰していく。
朔姫は高速で街を駆け、逃げ遅れた市民を抱えて安全圏へ。
「動かないで!一瞬で戻るから!」
音より速い。
その間にも久世は前線で敵を押し止めていた。
尖兵の攻撃が同時に降り注ぐ。
だが久世は一歩も退かない。
エネルギー刃が円を描き、まとめて核を断ち切る。
ジンが震える声で言う。
「これが……自然人類の頂点……」
だがその時。
裂け目がさらに広がった。
今までより巨大な影が降下する。
通常尖兵の三倍以上。
胸の核は黒く濁り、鼓動している。
「上位種だ!」ジンが叫ぶ。
「都市破壊級!」
周囲の空気が重くなる。
逃げ遅れた人々が動けなくなるほどの威圧。
久世が静かに前に出た。
「市街戦はここまでだ」
「これ以上、この街を傷つけさせない」
上位尖兵が咆哮し、重力波を放つ。
ビルが傾く。
だが久世は踏みとどまり、真正面から受け止める。
地面が割れる。
「久世!」かやが叫ぶ。
久世は振り返らず言った。
「任せろ」
次の瞬間。
久世の周囲の空間が歪むほどの気配が爆発した。
戦国でも神域でも見せた――
あの“鬼の威圧”。
上位尖兵の動きが止まる。
本能が危険を理解している。
久世は一歩で距離を詰め、核へ拳を叩き込んだ。
恒星のような光が炸裂。
衝撃波が空へ抜け、裂け目ごと敵を吹き飛ばす。
静寂。
市場には破壊の跡と、助かった人々の息遣いだけが残った。
ジンが呆然と呟く。
「……星海都が救われた」
久世は肩を回して言う。
「さて」
「最初の欠片、もらいに行くか」
だが誰も気づいていなかった。
裂け目が閉じる直前――
その奥で“誰か”がこの戦いを観測していたことを。
ネメシスの本隊。
市街戦勝利。
しかし銀河戦争は始まったばかり。
戦闘の余韻がまだ街に残っていた。
煙。
割れた建物。
それでも人々は生きている。
助かった命が、静かに息を取り戻していた。
「欠片の場所へ急ごう」
ジンが端末を操作する。
だが――反応が消えていた。
「……消失?」
久世が眉をひそめる。
「まさか」
その瞬間、空に青白い光が走った。
市場の上空に整列する巨大な船影。
銀色の装甲、統一された紋章。
宇宙警察艦隊。
そしてその中央に、フードを脱いだあの商人が立っていた。
「やはり君たちは期待通りだ」
「ネメシスの排除、ご苦労だった」
朔姫が叫ぶ。
「ちょっと!?契約は!?」
商人は薄く笑う。
「私は“欠片を安全に保管する者”としか言っていない」
背後の宇宙警察が動き、
透明な収容フィールドの中に――
エーテルスターの欠片。
青く静かに脈打っている。
「都市の安全のため、正式に押収した」
「君たちのような無許可の存在には扱わせられない」
ジンが歯を食いしばる。
「銀河条約を盾にしたな……!」
商人は肩をすくめた。
「ネメシスよりは信用できるだろう?」
「少なくとも私は“秩序側”だ」
久世が静かに前へ出る。
「秩序の名で希望を囲うか」
「それで宇宙が救えると思っているなら――」
宇宙警察の指揮官が割って入る。
「これ以上近づくな」
「抵抗は銀河犯罪と見なす」
一斉に砲口が向けられる。
かやが小さく呟く。
「……守るための組織が、希望を縛ってる」
商人は淡々と告げた。
「宇宙は理想では回らない」
「管理と支配こそ平和だ」
「君たちのやり方は美しいが――危険すぎる」
ジンが震える声で言う。
「それは……ネメシスと同じ思想だ」
商人の笑顔が一瞬だけ歪む。
「似ている?当然だ」
「宇宙を救おうとすれば、行き着く先は同じになる」
久世はゆっくりと息を吐いた。
「なるほど」
「つまり――」
「お前たちは“檻の中の平和”を選んだ」
沈黙。
宇宙警察艦がワープ準備に入る。
欠片と共に消える寸前。
久世は仲間たちを振り返る。
「追うぞ」
「奪い返す」
「希望は管理されるもんじゃない」
朔姫が笑う。
「宇宙警察相手とか燃えるじゃん」
ジンは覚悟を決めたように頷く。
「銀河の秩序と戦う旅になる」
ワープ光が走る。
宇宙警察は姿を消した。
星海都に残されたのは、
新たな敵と――より大きな戦いの始まり。
星海都の上空を貫く銀河航路。
ネオンの帯のような光の川を、ジンの小型艇が全速力で突き抜けていた。
「後方三時方向!宇宙警察艇、六隻!」
ジンの声が裏返る。
振り返った瞬間、白と蒼の装甲をまとった高速艇が空間を裂くように迫ってくる。
推進粒子が尾を引き、まるで流星群だ。
「商人め……欠片を売り渡したな」
久世は静かに言う。
その声に焦りはない。
次の瞬間――
ドォン!!
警察艇のエネルギー弾が航路を焼き、建造物の一部が爆散した。
星海都の上空に火花が散る。
「街のど真ん中で撃ってくるとか正気かよ!」
風夏が叫ぶ。
「宇宙警察は“秩序”の名で何でもやる」
ジンが歯を食いしばる。
航路が急降下。
巨大な空中市場の間をすり抜けるように突っ込む。
貨物船、観光艇、広告ホログラム――
すべてが障害物になる地獄の迷路。
「右!今だ!」
朔姫の瞬間判断でジンが急旋回。
だが即座に後方から追撃弾。
バリアが悲鳴を上げる。
「このままじゃ削られる!」
その瞬間。
夜叉が立ち上がる。
「殿」
久世は無言でうなずく。
夜叉がハッチを開けると、宇宙の風圧が船内に流れ込む。
「おい正気か!?落ちたら終わりだぞ!」
難波が叫ぶが、
夜叉はすでに外へ躍り出ていた。
――無重力の中を、まるで戦場のように踏み切りながら。
次の瞬間。
警察艇の機体に着地。
「な――」
敵が声を出す前に、夜叉の拳が装甲をへし曲げる。
爆散。
二隻目に跳び、三隻目に跳び。
人間とは思えない軌道で、次々と叩き落としていく。
だが後方から大型拘束艇が出現。
都市一帯を覆う制圧フィールドが展開され始める。
「囲い込みだ……逃げ場を消すつもりだ!」
ジンが叫ぶ。
その瞬間、久世が立つ。
「凛、華陽」
「了解」
二人が同時に動く。
華陽が操縦補助を強制奪取。
凛が推進出力を限界突破まで引き上げる。
だがそれでも――包囲網は閉じる。
久世が静かに外へ出た。
宇宙空間に立つように浮かびながら、警察艇を見据える。
その瞬間、空間が震えた。
久世の存在そのものが重力になる。
「……退け」
ただそれだけ。
衝撃波が銀河航路を歪ませる。
拘束フィールドが粉砕され、警察艇が吹き飛ばされていく。
まるで神の一喝。
都市全体が静まり返った。
「に、人間……?」
警察の通信が震える。
「いや……あれはもう人じゃねぇ……」
ジンの艇はその隙に超光速ラインへ突入。
星海都が光の帯となって後方へ流れていく。
しばらくして静寂。
「……助かった」
ジンが深く息を吐く。
風夏が久世を見る。
「宇宙警察相手でも容赦ないんだね」
久世は淡々と答える。
「正義を名乗る者ほど危険だ」
朔姫が拳を握る。
「欠片、ただの回復アイテムじゃないね」
華陽が静かに笑う。
「銀河そのものの権力争いの核だろう」
夜叉が腕を組む。
「戦になるな」
久世は星々を見つめた。
「もう始まっている」
超光速航行が解け、星々の光が通常の瞬きに戻る。
ジンの小型艇は小惑星帯の影に滑り込むように停止した。
「……ここなら一旦は追ってこれない」
全員が息を整える中――
久世だけが静かに宇宙の奥を見つめていた。
「来る」
その直後だった。
空間が“折れる”。
まるで布を掴んでねじるように、宇宙そのものが歪み、
黒い裂け目が開く。
そこから現れたのは一隻の巨大艦。
宇宙警察のものとは明らかに違う。
装甲は生体のように脈打ち、赤黒い紋様が走っている。
ジンの顔が凍る。
「……ネメシス艦」
朔姫が息を呑む。
「つまりさっきの警察……」
「操られてた、もしくは買収されてた」
華陽が淡々と続ける。
そして艦の中央部が開き、
“人型”がゆっくりと浮かび出た。
いや、人型に似せているだけの存在。
背中には黒いエネルギー翼。
目は星のように光り、体にはエーテルスターの欠片と同じ波動。
ジンが震える声で言う。
「ネメシス幹部……“星喰い(ほしくい)将”グラ=ヴァル」
夜叉が低く唸る。
「強いな」
久世は一瞬で理解していた。
この存在は――
さっきの宇宙警察全軍より格上だ。
グラ=ヴァルが笑うように口を歪める。
「人類の異物……そしてエーテルの守護者たち」
声が直接脳に響く。
「宇宙警察は便利な駒だ。正義という名の鎖で簡単に操れる」
風夏が怒鳴る。
「街を守る組織を利用してたってわけ!?」
「秩序とは、支配の別名だ」
グラ=ヴァルは当然のように言った。
そして久世を見る。
「特に貴様だ……自然と魂を融合した異常存在」
「ネメシスの計画において最大の誤算」
久世は静かに答える。
「エーテルスターを壊したのも貴様らか」
「壊した?違うな」
グラ=ヴァルの翼が広がる。
「宇宙を“正す”ために再構築しただけだ」
「星が争い、文明が滅び続けるこの銀河を――
一つの意思で統一するためにな」
ジンが叫ぶ。
「それがネメシスの正義か!」
「そうだ」
即答だった。
「エーテルスターは生命の源ではない」
「宇宙を従わせる中枢装置だ」
「欠片を集めれば、銀河そのものを管理できる」
全員が凍る。
つまり――
久世たちが集めているものは
命を救う希望であり
同時に宇宙支配の鍵だった。
グラ=ヴァルは微笑む。
「安心しろ。今は殺さない」
「だが欠片を集めてくれるなら都合がいい」
「集まったところで――我々が回収する」
朔姫が怒鳴る。
「ふざけるな!」
だがグラ=ヴァルはすでに後退していた。
「逃げろ、英雄たち」
「集めるほどに絶望が近づく」
「それがネメシス流の“救済”だ」
次の瞬間、艦は空間に溶けるように消失。
沈黙。
ジンが震えながら言う。
「これが……銀河戦争の本当の構図だ」
華陽が静かにまとめる。
「宇宙警察=表の秩序」
「ネメシス=裏の支配者」
「そして欠片は宇宙の王冠」
夜叉が拳を握る。
「戦争になるな」
久世は星を見上げた。
「最初からだ」
「これは旅じゃない」
「宇宙の未来を賭けた戦だ」
ジンの小型艇は、青白い恒星を周回する静かな惑星へと進路を変えた。
「次に向かう星は――ルメア」
窓の外に広がるのは、海と大陸が穏やかに混ざり合う美しい世界。
戦火の跡もなく、都市はどこか古風で、人々は地上を歩きながら星を見上げて暮らしていた。
朔姫が首をかしげる。
「普通の人間…?」
「見た目はね」
ジンは少しだけ声を落とした。
「でもこの星の人族は“星の記憶を継ぐ民”」
「エーテルスターが生まれた時代からの歴史を語り継いでいる種族だ」
着陸すると、すぐに囲まれる久世たち。
だが敵意はない。
驚きと懐かしさが混じったような視線だった。
その中から白髪の長老が進み出る。
「……その波動」
「まさか、欠片を持つ者が再び現れるとは」
久世が一歩前に出る。
「ここはエーテルスターを知っているのか」
長老は深くうなずいた。
「知っているどころか――守ってきた」
巨大な石碑の広場へ案内される一行。
そこには星の糸、エーテルスター、そして戦争の絵が彫られていた。
長老の声は静かだが重い。
「かつて銀河は今より遥かに荒れていた」
「文明同士が星を奪い合い、滅ぼし合っていた」
「その争いを止めるために生まれたのがエーテルスター」
風夏が息をのむ。
「平和の装置だったんだ…」
「最初はな」
長老の目が曇る。
「だが次第に、星々は自分で生きる力を失った」
「エーテルスターに頼らねば生命を維持できない宇宙になったのだ」
「それを“進化”と呼ぶ者もいた」
「そして“支配の始まり”と呼ぶ者もいた」
ここで久世が理解する。
「ネメシスは後者か」
「そうだ」
長老はゆっくりうなずく。
「彼らはこう考えた」
『争いが起きるなら、意思を一つにすればいい』
『自由が混乱を生むなら、統制こそが救済だ』
朔姫が拳を握る。
「それで星を壊したの?」
「完全支配のためにな」
さらに衝撃の事実。
「欠片は本来“バックアップ”だった」
「万一エーテルスターが壊れても、再生できるように散らされた命の種」
「だがネメシスはそれを“鍵”に変えた」
「集めれば宇宙の生命システムを書き換えられる」
ジンが震える。
「じゃあ私たちが集めてるのは…」
「希望でもあり、最終兵器でもある」
沈黙が落ちる。
長老は久世をまっすぐ見つめた。
「自然と魂を融合した者よ」
「お前はエーテルスターに依存しない生命」
「この宇宙で唯一、“管理されない存在”だ」
「だからネメシスは恐れている」
久世は静かに言う。
「だから俺を消そうとしてる」
「その通りだ」
そして最後に爆弾情報。
「ネメシスの始祖――」
「エーテルスターを最初に起動させた英雄の一人だった」
「宇宙を救った存在が、宇宙を支配しようとした」
長老は欠片の一つを差し出す。
「知ってなお集める覚悟があるか?」
「集めれば戦争は避けられぬ」
久世は迷わない。
「それでも救う」
「支配じゃなく、生きる宇宙を残す」
長老は微笑った。
「ならば我らは協力しよう」
「ネメシスに対抗する“星の同盟”を」
石碑の広場に、星の民すべてが集まっていた。
空には無数の人工衛星が光を放ち、まるで夜空そのものがこの瞬間を見守っているようだった。
長老は杖を地面に突き、静かに宣言する。
「ここに――星同盟の再興を誓う」
ざわめきが広がり、すぐに沈黙へ変わる。
「かつて我らは孤立して滅びかけた」
「だが今、自然と魂を宿す者が現れた」
長老は久世を見据える。
「支配ではなく共存を選ぶ存在だ」
「この者に我らの未来を託す」
久世は一歩進み出る。
「俺は王じゃない」
「誰かを従わせるつもりもない」
「ただ――滅びる宇宙を見捨てないだけだ」
その言葉に、人々の胸が震える。
各星の代表が前へ進み、腕に刻まれた光紋を空へ掲げる。
光が重なり合い、巨大な星型の紋章が空に浮かび上がった。
ジンが息を呑む。
「星同盟の紋章……伝説の……」
朔姫が小さく笑う。
「なんかすごいことになってきたね」
夜叉は腕を組んだまま低く言う。
「戦になるな」
久世は静かにうなずく。
「ああ。でも守る戦だ」
その時、長老が後ろを振り返る。
「ミラ」
人々の間から、小柄な少女が走ってくる。
銀色の髪と星のように澄んだ瞳。
その後ろから、少し背の高い少年が慌てて追いかける。
「ちょ、ミラ!勝手に出るなって!」
「ルーク、うるさい!」
長老は優しく微笑った。
「この子は我が孫娘、ミラ」
「そしてその親友、ルーク」
久世たちの前に立ち、深く頭を下げる。
「星同盟の証として」
「この二人を旅に同行させてほしい」
場がどよめく。
ジンが思わず叫ぶ。
「長老!?それは危険すぎます!」
「だからこそだ」
長老の声は揺るがない。
「戦場と希望、両方を見る世代が必要だ」
「未来は机の上では守れぬ」
ミラが顔を上げ、まっすぐ久世を見る。
「私、行く」
「星が泣くのを見てきた」
「だから止めたい」
ルークも震えながら言う。
「怖いけど……ミラが行くなら俺も行く」
「一人にはしない」
しばらく沈黙。
久世は二人の目を見つめ、ゆっくりしゃがむ。
「危険だぞ」
「逃げたくなることもある」
ミラは即答した。
「それでも行く」
ルークも強くうなずく。
「後悔するより戦う」
久世は小さく笑った。
「……強いな」
立ち上がり、長老を見る。
「預かる」
「必ず生きて返す」
長老の目に涙が浮かぶ。
「頼んだぞ、宇宙の守り人よ」
星同盟の紋章がさらに強く輝き、空に刻まれる。
ジンが感動で声を震わせる。
「本当に……銀河が一つになった……」
風夏が微笑む。
「旅の仲間、増えたね」
朔姫がミラの肩を叩く。
「よろしく、新人」
ミラは目を輝かせる。
「よろしく!伝説の人たち!」
ルークは若干引き気味。
「……想像以上に濃いメンバーだ」
夜叉が低く笑う。
「すぐ慣れる」
難波が豪快に笑う。
「慣れないと生き残れねぇぞ!」
こうして――
星同盟は正式に結成され、
久世たちの旅は“宇宙を救う戦争”へと変わった。
そしてミラとルークという、未来を背負う新たな仲間が加わった。
星同盟を後にした久世一行は、銀河航路を滑るように進んでいた。
無数の恒星が流星の帯となって窓の外を通り過ぎていく。
ミラはガラス越しに宇宙を見つめたまま、息をのむ。
「……全部、生きてる星なんだね」
「泣いてる星もあるけどな」
ジンが静かに答える。
その言葉にミラは胸を押さえた。
理由はわからない。ただ、遠くの光に懐かしさと痛みが混ざる。
久世はそれを見逃さなかった。
やがて巨大な影が現れる。
惑星ほどの大きさを持つ構造物。
無数の船が出入りし、光の道が蜘蛛の巣のように広がっている。
「宇宙母艦だ」
ジンが誇らしげに言う。
「銀河最大の休憩所であり中継都市。補給、修理、情報、全部ここで揃う」
朔姫が目を輝かせる。
「でっか……町が浮いてるみたい」
難波は豪快に笑う。
「休憩所ってレベルじゃねぇな!」
母艦内部はまさに宇宙の交差点だった。
異なる種族、異なる重力対応装備、空中を泳ぐように移動する生命体。
匂いも音も文化もごちゃ混ぜだ。
ミラは圧倒されながらも一歩ずつ進む。
ルークが小声で言う。
「俺たちの星と全然違う……」
風夏が優しく肩を叩く。
「ここが銀河。怖いけど、希望も集まる場所よ」
その瞬間。
ミラの足が止まった。
胸の奥が――熱く脈打つ。
「……ここ、なにかある」
久世が即座に前に出る。
「感じるか」
ミラはうなずいた。
「欠片……近くにある気がする」
ジンの表情が変わる。
「オルビスに?ありえない……ここは中立区域だぞ」
夜叉が低く言う。
「だからこそ隠しやすい」
その時、上空のホログラムニュースが切り替わる。
《宇宙警察より通達。ネメシス残党の潜伏情報あり。警戒を強化せよ》
ざわめく母艦。
そして一瞬だけ映る影。
黒い装甲に包まれた異形の存在。
赤く光る瞳。
ジンが息を呑む。
「……ネメシス幹部クラスだ」
久世の目が細くなる。
「休憩所で戦争か」
朔姫が笑う。
「面白くなってきたね」
ミラは胸を押さえながら呟く。
「この場所……前にも来た気がする……」
誰も答えられなかった。
だが確かに、ミラの魂はこの宇宙を覚えていた。
オルビス母艦の天井が赤く染まった。
警報音が重なり合い、無数の光が走る。
《緊急事態発生。ネメシス軍侵入確認。宇宙空軍、迎撃開始》
ミラが思わず耳を塞ぐ。
「なに……この音……」
ジンの顔が引き締まる。
「オルビス直属部隊――宇宙空軍だ」
「銀河航路を守るために存在する最大級の軍隊」
次の瞬間、外壁の巨大スクリーンに戦況が映し出された。
黒い艦隊が母艦へと雪崩れ込み、迎え撃つ白銀の戦闘機群が一斉に展開する。
光線砲が交差し、宇宙が昼のように明るくなる。
爆炎が無重力空間で球体となって広がっていく。
朔姫が息をのむ。
「これ……戦争だよ……」
夜叉は静かに言う。
「いや、本格侵攻だ」
母艦内部も揺れ始める。
床が傾き、遠くで装甲が裂ける音が響く。
難波が歯を食いしばる。
「休憩所どころじゃねぇな!」
風夏がミラを抱き寄せる。
「離れないで!」
ジンがホログラム操作盤を叩く。
「ネメシスはわざと中立地帯を攻めてきている!」
「ここを落とせば銀河の補給線が全滅する!」
久世は窓の外を見つめる。
空軍の戦闘機が次々と撃ち落とされ、それでも陣形を崩さず突っ込んでいく。
「覚悟を決めた軍だな」
その時。
闇の艦隊の中心から、異様な存在が現れた。
通常艦の何倍も巨大な黒の戦艦。
その艦首に立つ一つの影。
人型――だが明らかに生物ではない。
赤いエネルギーが全身から噴き出している。
ジンの声が震える。
「ネメシス指揮官級……!」
「幹部だ……!」
その存在が腕を振るうだけで、
空軍の戦闘編隊がまとめて吹き飛んだ。
光が消え、宇宙が一瞬で静まり返る。
ミラが呟く。
「……星が、落ちてる……」
久世の目が鋭く光る。
「戦争の中心が来たな」
朔姫が剣を構える。
「止める?」
久世は静かに答えた。
「守る」
「ここは、銀河の命綱だ」
そして母艦内部に衝撃。
ネメシス兵が転送され始める。
市街戦と宇宙戦が同時に始まった。
警報が鳴り止まないオルビス母艦。
転送されるネメシス兵を夜叉たちが迎え撃つ中、久世は静かに振り返った。
「かや」
「俺と来るか」
一瞬の迷いもなく、かやは頷く。
「うん。久世のそばにいる」
ジンが叫ぶ。
「待て久世!外は空軍でも押されている!」
「小型艇は戦闘用じゃ――」
久世は淡く笑う。
「戦い方は道具で決まらん」
格納庫の奥。
ジンの母艦に接続されていた細身の小型宇宙船。
本来は偵察用、最高速だけに特化した機体だった。
久世が操縦席に乗り込み、かやが隣に座る。
ハッチが閉じる。
真空へと射出。
次の瞬間。
星海へ解き放たれた二人。
無数のレーザーが飛び交う戦場へ一直線に突っ込む。
空軍の戦闘機が叫ぶ通信が飛ぶ。
《未確認小型艇!退避しろ!》
《そこは死地だ!》
久世の声は冷静だった。
「かや、掴まっていろ」
「ここから戦場を割る」
ネメシス艦隊の隙間へ突入。
砲火が機体をかすめる。
だが久世は“流れ”を読むように軌道を操る。
まるで宇宙そのものが道を開けているかのように。
かやは目を見開く。
「……当たらない……」
「全部避けてる……!」
「いや」
久世は静かに言った。
「避けさせている」
そのまま敵編隊のど真ん中へ。
久世が操縦桿をひねる。
船体が縦回転しながら突っ込む。
エンジンの衝撃波だけでネメシス戦闘艇が吹き飛ぶ。
空軍がざわめく。
《な、なんだあれ!?》
《兵器じゃない…操縦が異常だ!》
そして久世は通信を全域に開く。
「宇宙空軍」
「俺が穴を開ける」
「そこを撃ち抜け」
小型艇が敵旗艦へ一直線。
ネメシス幹部艦の防衛ラインが崩れ始める。
空軍の主砲斉射が続く。
宇宙が白く燃え上がった。
かやが久世を見る。
「久世……楽しい?」
久世は少しだけ笑った。
「ああ」
「戦場だが、生きてると実感できる」
「そして――」
「守るべき人が隣にいる」
ジンは震える手で戦場の映像を見ていた。
「あ、あの小型船は……」
「ただの偵察艇のはずだ……」
設計データにはこう書かれていた。
――高速索敵用・非戦闘機体。
武装なし、防御も最低限。
宇宙空軍ですら戦闘投入しない代物。
それなのに。
今、戦場のど真ん中で暴風のように敵艦を崩している。
ジンの横で古参の整備士が小さく呟く。
「……違う」
「それは“索敵艇”じゃない」
「起動条件を満たした時だけ、本性を現す船だ」
ジンが振り返る。
「起動条件……?」
整備士の声は震えていた。
「あの機体はな……」
「搭乗者の感情エネルギーを推進力と制御補正に変換する」
「理論上存在してはいけない兵器だ」
「特に——」
「“愛情”を最大出力に変える」
ジンの目が見開かれる。
「愛……を……力に……?」
「そんなもの、エネルギーとして成立するはずが……」
「普通ならな」
整備士は戦場の久世とかやを映すホログラムを見る。
「だがあの二人は違う」
「互いを想う感情が常人の何百倍も強い」
「だからこそ——」
画面の中で、小型艇がまるで意思を持つかのように敵弾をかわし、加速する。
エンジンが通常値を遥かに超えて輝いていた。
整備士はゆっくり言った。
「この船の正式名称は」
「エーテル・ハートドライブ」
「愛を燃料に動く、唯一無二の宇宙機だ」
ジンは呆然と呟く。
「じゃあ……」
「久世とかやが一緒に乗っているから……」
「今、あんな動きが……」
「そうだ」
「片方だけでは起動しない」
「二人の絆が揃って、初めて完全稼働する」
その瞬間、戦場で小型艇が閃光のように突き抜けた。
敵艦隊が一列に割れる。
まるで“愛が銀河を切り裂いた”かのように。
ジンは小さく笑った。
「……偵察艇だと思ってた俺が馬鹿だった」
「これ、宇宙最強の夫婦専用機じゃないか……」
ネメシス母艦は、戦場の中心に静かに浮かんでいた。
黒い恒星のような巨体。
その周囲を包むのは――高密度エネルギーバリア。
何重にも圧縮された防壁は、宇宙空軍の主砲ですら弾かれていた。
ビームは歪み、ミサイルは蒸発し、
触れた瞬間に消し飛ぶ。
空軍司令が歯を食いしばる。
「くそ……近づくことすらできん……」
「このままでは突破不可能だ……!」
その時。
戦場を切り裂くように、一筋の光が走った。
エーテル・ハートドライブ。
久世とかやの小型艇だった。
ジンが叫ぶ。
「無理だ!!」
「あのバリアに触れた瞬間、船体が消滅する!!」
整備士も青ざめる。
「エネルギー密度が恒星炉クラスだ!!」
「突っ込めば――」
だが久世は迷わなかった。
操縦桿を握り、かやを見る。
「かや」
「信じてるか」
かやは微笑む。
「当たり前でしょ」
「久世となら、どこだって越えられる」
その瞬間。
船体が白金色に輝き始めた。
エンジン出力、理論限界突破。
警告音がすべて消え、代わりに一つの表示が浮かぶ。
《HEART DRIVE — FULL SYNC》
エネルギーバリアに突っ込む直前。
周囲の空間そのものが震えた。
愛の感情が粒子化し、船を包み込む。
ドォォォン!!!
普通なら消滅するはずの接触。
だが――
バリアが“割れた”。
ガラスのようにひび割れ、宇宙に砕け散る。
司令が叫ぶ。
「……貫通した!?」
「ありえん!!」
「高密度防壁を正面突破だと!?」
久世の船は減速すらせず、母艦内部へ突入。
バリアは完全崩壊。
ネメシス母艦の防御網が一瞬で無力化された。
ジンは震えながら笑った。
「これが……」
「愛を力に変える兵器……」
「いや――」
「兵器じゃない」
「奇跡だ……」
そして母艦の内部で、警報が鳴り響く。
《侵入者確認》
《想定外エネルギー反応》
《コード:ハートドライブ・ブレイカー》
ネメシス幹部の低い声が響く。
「……ついに現れたか」
「愛を力に変える異端者ども」
「銀河最大の障害だ」
ネメシス母艦の内部は、まるで生き物の腹の中だった。
脈打つように光る回廊。
壁を流れる紫黒のエネルギー。
床の下では巨大炉心が鼓動のように鳴っている。
侵入警報が母艦全域に響き渡る。
《異物侵入確認》
《排除プロトコル起動》
久世とかやは船を飛び降り、母艦の中枢区画へ走った。
すると――
かやの視界が、一瞬歪んだ。
世界が二重に重なる。
「……来る」
久世が振り返るより早く、
右上の通路からネメシス兵が飛び出す未来が“見えた”。
次の瞬間。
その通りに敵兵が現れる。
久世が即座に斬り伏せる。
かやは息をのむ。
「今……見えた」
「数秒先の光景が、はっきりと」
久世が理解する。
「未来視か」
「宇宙のエーテルに触れて、覚醒したんだな」
さらに進む。
今度は床が崩落する未来。
左の壁が爆発する未来。
天井からレーザーが降る未来。
すべて――かやには事前に見えていた。
「止まって!」
「三歩下がって!」
「右に跳んで!」
久世は一切迷わず従う。
爆発が背後で炸裂。
レーザーが空間を切り裂く。
崩落が起こる。
だが二人は一切傷つかない。
ジンの通信が震える。
「かや……それは戦術予知能力だ」
「星の糸に選ばれた者だけが得る“運命干渉視界”」
「銀河でも伝説級だぞ……!」
だが――
突然、かやの視界が黒く揺らいだ。
見えない。
未来が“霧に包まれる”。
「……っ?」
久世が前に出る。
その瞬間。
未来が見えなかった位置から、幹部級ネメシスが出現。
全身を黒い結晶装甲に覆い、重力を歪ませている。
低い声。
「予知か……」
「厄介だが――」
「それを無効化する存在が私だ」
空間が歪む。
かやの未来視が“遮断”される感覚。
見えない。
「能力封殺フィールド……」
「未来を読む者は必ず殺すよう設計されている」
久世が一歩前に出る。
「なら――」
「先を見ずに、力で突破するだけだ」
幹部級ネメシスが重力を歪めながら、久世へ踏み出した瞬間だった。
「予知を失ったな……なら終わりだ」
黒い結晶装甲が軋み、巨大なエネルギー刃が形成される。
久世も構える。
真正面から――力で叩き潰す構え。
だが。
轟音。
宇宙そのものが割れるような衝撃。
母艦の側面が内側から吹き飛んだ。
警報が狂ったように鳴り響く。
《船体損壊》
《中枢区画崩壊》
次の瞬間。
銀色の小型機が壁ごと突き破って突進してきた。
軌道修正なし。
減速なし。
完全な体当たり。
そして――
その進路にいた幹部級ネメシスを、
そのまま押し潰した。
結晶装甲が砕け散り、重力場が崩壊し、
巨体が船体にめり込み爆散する。
一撃。
勝負すら成立していなかった。
通信が入る。
「どいて久世!!」
聞き覚えのある声。
朔姫だった。
機体のハッチが開き、風のように飛び出してくる朔姫。
母艦内部なのに、空気が引き裂かれるほど速い。
「敵のバリア網解析完了!」
「この船、直線突破が一番早い!」
久世は呆然としながら笑う。
「……お前、戦艦の使い方じゃねぇ」
「戦場の突撃だろそれ」
朔姫はニッと笑う。
「父上の娘だもん!」
かやはまだ心臓を押さえていた。
「幹部級が……轢かれた……」
「宇宙で……戦車みたいに……」
ジンが震え声で通信に割り込む。
「そ、そんな……」
「あれは銀河艦隊でも恐れる上位幹部だぞ……!」
「突撃で倒せる存在じゃ……」
朔姫がさらっと言う。
「避けなかったからじゃない?」
「戦場なら突っ込んでくる敵は斬るか潰すかだよ」
久世、静かに納得。
「戦国基準だな」
すると母艦中枢の奥で、
さらに巨大なエネルギー反応が複数点灯する。
幹部級以上。
ネメシス本隊の守護核。
ジンが叫ぶ。
「まずい……!」
「ここからが本番だ!!」
母艦の中枢が赤く染まる。
警報が次々と上書きされる。
《超位存在再構築反応》
《分体展開開始》
《危険度:殲滅級》
かやが息を呑む。
「……さっき倒したはずの反応が」
「増えてる……?」
未来視が走る。
次の瞬間、次の瞬間、次の瞬間――
幾つもの“同じ存在”が生まれる未来が見えた。
「分裂する……!」
「いや、分身じゃない……全部本体と同じ質量と力!」
闇の回廊に黒い結晶が浮かび上がる。
砕けたはずの幹部級が、
十体、二十体、三十体と形成されていく。
声が重なって響く。
「愚かな有機生命体よ」
「我は一にして無限」
「潰すほど増える存在」
朔姫が舌打ちする。
「めんどくさっ!」
一斉に動く分身体。
重力刃、エネルギー砲、空間圧縮。
母艦内部が戦場を超えた破壊領域になる。
久世が一歩前へ。
「なるほど」
「戦場で一番厄介なタイプだな」
「斬っても増える」
「潰しても終わらない」
かやの未来視がまた走る。
見える未来のほとんどが――
仲間が押し潰される。
包囲される。
削り殺される。
「……このままじゃ勝てない」
分身体の一体が嗤う。
「理解したか?」
「物量は絶対」
「英雄とは数の前に必ず沈む」
その瞬間。
久世の気配が変わった。
重力が沈む。
空間が軋む。
「なら」
久世は静かに言う。
「数そのものを無意味にする」
床を踏み抜く。
衝撃波が母艦中枢を貫く。
久世の背後に、巨大な鬼神のようなエネルギー像が立ち上がる。
「戦場でな」
「無限に増える敵に勝つ方法は一つだけだ」
久世の拳が空間を殴る。
空間そのものが粉砕される。
分身体の列がまとめて崩壊。
だが――すぐ再生が始まる。
幹部級たちが嗤う。
「無意味だ」
「何度でも蘇る」
その時、かやの目が輝いた。
未来視が“一本の勝利ルート”を捉える。
「久世……!」
「全部を倒さなくていい!」
「“核”がある!」
「分身体を生み出してる中枢が母艦の心臓部に!」
朔姫が即反応。
「一直線で行く!」
久世が頷く。
「道を開く」
無数の分身体が殺到する中、
久世が前線を破壊し続け、
朔姫が時間を切り裂く速度で突破し、
かやが未来を修正し続ける。
三人の連携が完全に噛み合う。
母艦の最奥。
脈動する黒いコア。
そこに分身体すべての意識が収束している。
幹部級の本音が漏れる。
「やめろ……そこは……」
久世が静かに拳を握る。
「戦場でな」
「本陣を落とされた軍は終わりだ」




