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久世家戦記・現  作者:
宇宙編
13/16

第二部 宇宙の招きもの

 北海道の空港……ではなく、駐車場。

雪の残る広場に並ぶ車の中で——

ひときわデカいキャンピングカーが鎮座していた。


「……馬?」

久世が真顔で聞く。


難波が胸を張る。

「そうだ殿!」

「現代の鉄の馬だ!!」


巨大ボディをバンッと叩く。

「しかも中で寝れる!」

「飯も食える!」

「動く城だ!」


久世の目が少し輝く。

「ほう……移動要塞か」


「その表現やめて!」

かやが即ツッコミ。


朔姫がぐるっと回りながら言う。

「でっか……城より小さいけど馬としては化け物」


華陽は即理解。

「長旅用の拠点だね」

凛「確実に普通の車じゃない」

難波、ドヤ顔。

「購入してきた!」


「行動力が怖い!」


久世は扉を開けて中へ。

ソファ、ベッド、キッチン、テレビ。

「……贅沢だな」

「戦国なら天下取れるレベルの馬だ」


道明が笑う。

「この馬、餌はガソリンな」

久世「燃料で走る馬……理にかなっている」

もう受け入れが早い。


かやが腕を組む。

「で、誰が運転するの?」

全員、難波を見る。


難波「……え?」

「お前提案したんでしょ!!」


難波、汗。

「いや俺……免許はあるけど……」


久世が一歩前へ。

「俺が操る」


「無免許!!」


「馬の操縦に許可はいるのか?」


「いるの!!」

全力で止められる。


結局、運転は華陽に決定。

エンジン始動。

巨大な車体がゆっくり動き出す。

久世、窓から景色を見て感動。

「速い……風のようだ」


「時速80キロだよ」


「馬にしては異常だな」


車内では早速くつろぎモード。


朔姫がベッドに飛び込み。

「旅って感じ!」


凛と道明がコーヒー。

難波は冷蔵庫を漁る。

かやは久世の隣に座る。

「これから長旅だね」


久世、穏やかに微笑う。

「遠征は嫌いではない」

「だが今回は」

「平和だ」


その言葉に、皆少しだけ笑う。



 キャンピングカーは高速道路を快調に進んでいた。

窓の外を流れる景色。


久世はずっと見ている。

「道が真っ直ぐすぎる」

「敵の奇襲に弱そうだ」


「戦場じゃないから!」


しばらくすると——

「次、サービスエリア入りまーす」

華陽の声。


「さーびす……えりあ?」

久世が首をかしげる。


巨大な駐車場。

明るい建物。

人の波。

車を止めた瞬間。


久世の目が輝く。

「城下町だな」


「規模がでかすぎるだろ」


中へ入ると——

食べ物の匂い、土産物、ゲームコーナー。

「戦が起きそうな賑わいだ」


かやが笑う。

「ただの休憩所だよ」


まずフードコート。

ラーメン、カツ丼、ソフトクリーム。

久世、全部指差す。

「これは何軍だ」


「全部味方です!」


難波は即唐揚げ山盛り。

朔姫はクレープ。

凛と道明はコーヒー。

久世とかやは並んで座る。


久世が一口食べて目を見開く。

「……兵糧革命だ」

「戦国にこれあったら天下取るの5年早かった」

かや「基準そこなの?」


次は土産コーナー。

久世、木刀を手に取る。

「訓練用か」


「観光用だよ!」


「この剣、軽すぎる」


「そりゃ飾り!」


ぬいぐるみコーナー。

久世、熊を持つ。

「……これは守護獣か」


「ただのクマ!!」


だがかやが小さく。

「かわいいね」

久世、即購入。

「守護獣は姫に必要だ」


「また姫って言ってる!」


周囲ざわつく。

「また王族だ……」

「どこ行っても目立つなこの人たち」


外に出ると夕焼け。

久世が静かに言う。

「人が集まる場所は」

「どの時代も活気がある」

「守る価値がある」


かやが微笑む。

「今は戦わなくていいんだよ」


久世も笑う。

「それが一番だな」

こうして

覇王はサービスエリアで文明に敗北しつつ感動した。

 


 サービスエリアを出発してしばらく。

キャンピングカーの中は夕焼け色に染まっていた。


「……あ」

かやが気づく。


「そういえば風夏どこ行ってたの?」


後部ドアが開く。

ひょこっと顔を出す風夏。

「呼ばれた気がして」

「ずっと後ろで寝てたよ」


「いたの!?」


朔姫が吹き出す。

「存在感消しすぎ!」


風夏はのんびり座って伸びをする。

「夜叉と交代で運転補助してた」


「さっきサービスエリアで合流したよ」


なるほど納得。

すると風夏がじっとかやを見る。


「……さっきの王族ムーブ見た」


かや一瞬で赤くなる。

「見てたの!?」


「全部」

「お姫様抱っこ」

「米粒キス」

「過保護騎士」 


朔姫がニヤニヤ。

「女子トーク案件きたね」


凛と道明は即退避。

「これは入っちゃだめな空気」


久世だけ状況が読めてない。

「何が始まる」

華陽が肩叩く。

「父上、これは戦場です」

「撤退しましょう」


久世「???」


ソファに集まる女子組。

かや・朔姫・風夏。

風夏が腕組み。

「で?」

「いつからそんな溺愛始まったの?」


かや顔真っ赤。

「いつの間にか……」

朔姫「父上最近完全に恋愛暴君」


風夏うなずく。

「わかる」

「守護神ムーブ超えて王子様」


かやが小声。

「でも……嬉しい」

三人同時にニヤッ。

「ですよねー!」


風夏が身を乗り出す。

「ちなみに夜はどう?」


「ちょっとぉぉぉ!!」


朔姫爆笑。

「聞くよね普通!」


かや必死。

「普通じゃない!」


だが風夏は真剣。

「大事な情報だよ」

「久世は戦場では鬼」

「家庭ではどうなのか確認」


かや小さく。

「……めちゃくちゃ優しい」

「寒いって言う前に上着」

「疲れる前に座らせる」

「何もなくても抱き寄せる」


沈黙。


朔姫と風夏、同時に。

「最高かよ」

「理想の旦那すぎ」

「世界救っただけある」


そこへ久世が遠くから。

「かや」

「寒くないか」


女子三人、悲鳴寸前。

「リアルタイム供給!」

「自然発動が一番破壊力ある!」


かや赤面しながら。

「大丈夫だよ!」


久世「無理するな」


上着持ってくる。

風夏がひそひそ。

「この人国家より妻優先だね」

朔姫「覇王失格、旦那満点」


かや小声で。

「やめてぇ……」


その頃、男性陣。


凛「女子会怖すぎ」

道明「戦場より無理」

華陽「精神削られる」


久世だけ本気でわからない。

「何が起きている」

華陽「父上はそのままでいてください」


こうして

キャンピングカー内では

覇王ラブが女子トークで解剖された。



 キャンピングカーの後方。


男子組が静かにくつろいでいた。


「……なあ」

夜叉がぽつり。

「さっきから女子が騒がしいが」


道明が即目逸らし。

「聞かないほうがいい」

「戦場より危険だ」


夜叉、眉をひそめる。

「敵情把握は基本だ」


そのまま静かに近づく。

角で止まり、耳を澄ます。

風夏の声が聞こえる。

「久世は自動発動型溺愛」

朔姫「しかも無自覚」

かや「ほんとにやめてぇ……」

風夏「で?夜はどうなの?」


夜叉。

完全硬直。

(夜……?)


朔姫「優しさ全振りタイプ」

風夏「戦場の鬼が家庭で天使」

夜叉の世界が崩れる音。

(殿が……天使……?)


さらに追撃。

かや「米粒取るつもりがキスされて……」

朔姫「覇王のカウンターやばかった」

風夏「映画超えてる」

夜叉、魂抜ける。

(殿……戦では鬼神……家庭では恋愛怪物……)


その場にしゃがみこむ。


道明が肩を叩く。

「聞いたな」


「聞いてしまった……」


「忘れろ」


「無理だ……」


その時、風夏が後ろに立っていた。

「夜叉」

「……聞いてたでしょ」


夜叉、ゆっくり振り向く。

「戦場より恐ろしいものを知った」


風夏、くすっと笑う。

「真面目すぎ」

「そこが好きだけど」


夜叉の思考停止。

「……今、何と?」


風夏は少し照れながら。

「不器用で」

「殿に忠義一筋で」

「恋愛とか全然わからないとこ」

「全部好き」


完全フリーズ。

道明「夜叉、死んだな」

華陽「即死ですね」

夜叉、ゆっくり顔が赤くなる。

「……戦場より、緊張する」


風夏が笑う。

「かわいいじゃん」


「かわいいは褒め言葉じゃない!」 


「褒めてる」


夜叉、完全敗北。

「殿……」

「恋も戦も強すぎる……」


かやが遠くから。

「夜叉?どうしたの?」


夜叉、即姿勢正す。

「な、何でもありません!」


風夏が小声で。

「バレバレだよ」


夜叉、さらに赤面。

こうして

無敵の剣鬼は

女子会と恋で同時に敗北した。

 


 夜の高速道路。

キャンピングカーは街の灯りへ向かって走っていた。

車内はさっきまでの賑やかさが嘘みたいに静か。


久世は窓の外を見ながら言う。

「遠出というのも悪くない」

「戦がない旅は心が休まるな」


かやが隣で微笑む。

「今は守るためじゃなく楽しむために動けるからね」 


久世は少し照れながら。

「それが一番強い世だ」 


後方では――

夜叉がまだ落ち着かない。

風夏が隣でスマホを触っている。


「……その」

夜叉が小さく言う。

「さっきの話は」 


風夏、ちらっと見る。

「どの話?」


「好……」

言いかけて止まる。

「忠義の話だ」 


風夏笑う。

「全部聞こえてたよ」


夜叉、耳まで赤い。


「不器用なの知ってるから」

「ゆっくりでいい」

「戦場みたいに即決しなくていいんだよ」


夜叉、真剣にうなずく。

「……努力する」


「恋も修行だと思えばいい」


「そうそう」

前方では朔姫が華陽に小声。

「夜叉落ちたね」

華陽「完全に」


やがて夜が更ける。

遠くに久世の屋敷の灯りが見えてきた。

「帰ってきたな」


久世が呟く。

門が開き、広い敷地へ。

静かな庭、灯る回廊。

久世は一度立ち止まり、皆を見る。

「旅は終わりだ」

「だがここが帰る場所だ」


かやが手を握る。

「おかえり」


久世、微笑む。

「ただいま」


風が木々を揺らす。

平和な音。

遠征も冒険も終わり、

また日常が始まる。

そして誰も知らないが――

ここからまた新しい物語が動き出す。

 


 久世屋敷の朝。

障子越しに光が差し込み、庭の木々が揺れている。

鳥の声。

静かで、平和な朝。

「……落ち着くな」


久世が縁側で茶を飲みながら言う。


「城じゃなくて屋敷って感じだね」

かやが隣に座る。


遠くからドタバタ。

「父上ー!!」

朔姫が全力で走ってくる。

「難波が庭の石割ってる!!」


「筋トレです!」

難波が岩を抱えている。


「やめろ!」

夜叉がすでに止めに入っている。

「屋敷を壊すな」


「強くなるためです!」


「強くなりすぎだ!」


その横で華陽が淡々と。

「修理費が跳ね上がるね」


凛は洗濯物を干しながら苦笑。

「平和ってうるさいな」


風夏はキッチンから顔出す。

「朝ごはんできたよ!」


一斉に集まる。

大きな食卓。

味噌汁、焼き魚、卵焼き。

現代と和の融合。

久世は箸を持ち、しみじみ。

「戦がない飯はうまい」

「神もいない」

「最高だ」


かやが笑う。

「やっと普通の生活だね」

その瞬間。


「普通とは?」

久世。


全員「出た」


食後、庭。

朔姫と凛がキャッチボール。

華陽はスマホで株チェック。

難波は相変わらず筋トレ。

夜叉は剣の素振り。


風夏は縁側でかやとお茶。

「ほんと家族だね」

風夏が微笑む。


かやうなずく。

「守るものがあるから強くいられるんだと思う」


久世は庭を見渡しながら静かに言う。

「この時間こそ」

「俺が戦ってきた理由だ」


かやはそっと手を握る。

「これからは守るだけでいいよ」


久世は小さく笑う。

「それが一番難しい戦かもしれんな」


夕方。

皆で買い出し。

久世がカゴを全部持つ。

「重くない?」

「妻の荷物は軽い」


「また始まった!」

朔姫が頭抱える。


夜。


縁側で星を見る。

静かな風。

久世とかやが並ぶ。

「今日、平和だったね」


「これが日常だ」

「俺は好きだ」

こうして

世界を救った英雄たちは

普通で幸せな一日を過ごした。


 

 久世屋敷の昼下がり。 

庭ではいつもの光景。


難波が岩を担ぎ、

夜叉が素振り、

朔姫と凛がキャッチボール。

縁側では久世とかやが並んで茶を飲んでいた。


「静かだな」

久世が呟く。 


「嵐の前触れみたいで怖いよそれ」

かやが笑う。


その瞬間だった。


――ドゴォォォォン!!!


天地がひっくり返るような衝撃。

屋敷全体が揺れ、瓦が跳ねる。

木々が大きくしなる。


「なに!?」

「地震!?」


次の瞬間、庭の奥から黒煙が立ち上る。

地面がえぐれ、巨大なクレーターができていた。


難波が叫ぶ。

「隕石ですかこれ!?」


夜叉は剣を抜く。

「違う……」

「これは“落ちてきた”というより――」

「降りてきた」


煙の中心。

ひび割れた地面の中から、ゆっくりと影が立ち上がる。

人型。

だが明らかに人間じゃない気配。

空気が重く沈む。

朔姫が息を呑む。

「……神?」


影が一歩踏み出す。

足元の石が粉砕される。


「違う」

久世が静かに言った。

「神より古い」


かやが久世の袖を握る。

「久世……知ってるの?」


久世の目が鋭く細まる。

「知っているどころか」

「かつて、世界が生まれる前から戦ってきた存在だ」


煙が晴れる。

そこに現れたのは——

白く輝く鎧のような肉体。

背中には光の羽のようなエネルギー。

目は星のように光っている。

その存在が低く響く声で言った。

「久世」

「人類は神の域に近づきすぎた」

「均衡を壊した責任を取れ」


屋敷中の空気が凍る。


難波が小声。

「これ…神よりヤバいやつですよね」

夜叉「間違いない」


久世は一歩前へ出る。

「均衡など」

「最初から神が握っていただけだ」

「人類はようやく立っただけだ」


存在の目が細まる。

「ならば試そう」

「神を超えた人類が」

「どこまで耐えられるか」


空が歪む。

風が逆流する。

かやが叫ぶ。

「久世!」


久世は振り返り、穏やかに微笑った。

「安心しろ」

「この世界は」

「俺たちの居場所だ」

「誰にも壊させん」


 吸い込まれた先は、やはり宇宙ステーション。


だが――

赤い警告灯は戦闘態勢ではなく、非常事態の色だった。

サイレンが低く鳴り続けている。


「警戒しないでほしい」

人型の宇宙人は、さっきまでの威圧を消して頭を下げた。

「我々は君たちを害するつもりはない」

「むしろ……助けを求めている」


ホログラムが空間に映し出される。

そこにあったのは―― 


崩壊していく星々

飲み込まれる文明

暴走するエネルギー生命体の群れ

銀河規模で宇宙が壊れ始めていた。

「我々の管理システムが限界を迎えている」

「神々も次々停止した」

「もう抑えられない」


かやが震えた声で聞く。

「じゃあ……神様がいなくなったのは……」


「故障だ」

「戦争ではない」

「宇宙の寿命が想定より早く来た」


久世は黙って映像を見つめる。


星が消える瞬間を、何度も。

「そして君が現れた」

宇宙人は久世を見る。

「自然と魂と神格を同時に超えた存在」

「我々の文明史でも前例がない」

「だから賭けに出た」

「君なら――宇宙の崩壊を止められるかもしれない」


難波が低く呟く。

「つまり……」

「宇宙規模の厄災を倒してくれって話か」


宇宙人は深くうなずく。

「もはや我々では手に負えない」

「だが君たちは神すら超えた」

「だから……頼む」

「この宇宙を救ってほしい」


静寂。


星の消える音だけが響く。

久世がゆっくり笑った。

「まったく……」

「戦国も現代も神も」

「最後は全部俺たち頼みかよ」


かやが不安そうに袖を掴む。

「久世……」 


久世は優しく頭を撫でる。

「大丈夫だ」

「宇宙だろうが」

「家族と仲間がいる限り」

「俺は負けん」


そして宇宙人を見る。


「で?」

「ぶっ壊すべき敵はどこだ」


ホログラムに映るのは、

銀河を喰らう“黒い存在”。

物理でも神力でも消えない宇宙災害生命体。

宇宙崩壊因子ネメシス

「文明を終わらせる存在」



 宇宙人は静かに手を振る。

ホログラムが切り替わり、無数の星が浮かぶ。


だがよく見ると――

それぞれの星の中心に、淡く光る核が存在していた。

「これがエーテルスター」


星の心臓。

文明だけでなく、大気・水・生命循環すら制御する生命維持保管器。

「我々は星を“作る”のではない」

「星を“管理し、生かし続けている”」


映像が進む。

エーテルスターが輝く星ほど文明が繁栄している。

「エーテルスターがある限り」

「星は数千万年、生命を育て続けられる」


だが次の瞬間。

黒い影――ネメシスが通過した星が、

一瞬で灰になる。

エーテルスターごと喰われて消滅する。

「ネメシスは文明を滅ぼしているのではない」

「星そのものの寿命を奪っている」


銀河単位で、光が消えていく。

「我々は何千年も戦った」

「兵器を作り、神級演算知性を生み、宇宙艦隊を築いた」

「だが――止められなかった」


宇宙人の声が震える。

「銀河一つを守るために、銀河一つを失う」

「それを何度も繰り返した」

「そして分かった」

「これは戦争ではない」

「宇宙の捕食者だ」


かやが小さく呟く。

「星を……食べて生きてる……」


「そうだ」

「エーテルスターは宇宙でもっとも高純度の生命エネルギー」

「ネメシスはそれを糧に進化し続けている」

ホログラムには、

最初は小さかった黒影が

今では銀河を覆うほど巨大化している姿。

「我々が戦えば戦うほど」

「ネメシスは強くなった」


久世が低く言う。

「つまり……」

「普通にぶつかればぶつかるほど成長するタイプか」


「その通りだ」

「力で倒そうとした文明は全て滅びた」


沈黙。


宇宙の終末が目の前に突きつけられる。

「だが君は違う」


宇宙人は久世を見る。

「君は自然と魂と意思を同時に宿す存在」

「エネルギーではなく“存在そのもの”で戦える」

「ネメシスが喰えない唯一の力だ」


つまり――

神でも兵器でもなく

生きた意志こそが対抗因子。

「だから我々は最後の希望として君たちを選んだ」


 

 宇宙人はホログラムを消し、静かに言った。

「ネメシスは今、次の進化段階に入っている」

「大規模な捕食行動に移るまで――約二年」


「二年……?」

と朔姫が繰り返す。


「この二年間は“嵐の前の静寂”だ」

「銀河全域でほぼ活動を止め、力を溜め込む期間」

「その間、襲撃は起きない」


かやが胸をなで下ろす。

「じゃあ……今すぐ戦わなくていいんだね」


「むしろ戦ってはならない」

宇宙人は首を振る。

「今刺激すれば、予定より早く動き出す」 


久世は腕を組む。

「つまり……準備期間か」


「そうだ」

「そして君たちにはその間――」


ホログラムが再び展開される。

今度は美しい宇宙。

星雲、惑星帯、リングを持つ巨大な星、光る銀河。

「宇宙を旅してほしい」

「戦場ではなく、“生きている宇宙”を知ってほしい」

「星々がどんな暮らしをし」

「どんな文化を持ち」

「何を守ろうとしているのかを」

「それを知らずに戦えば、ただの破壊者になる」


久世は少しだけ笑った。

「なるほどな……武将教育の宇宙版か」

「その通りだ」

「君は戦の天才だが、宇宙の命を知らない」

「知れば――迷いなく守れる」


かやが目を輝かせる。

「宇宙旅行……?」


「正式には“銀河巡行プログラム”だが」

「まあ……観光と思ってくれて構わない」


惑星リゾート

空中都市

重力ゼロの市場

恒星温泉(プラズマ防護付き)


「楽しみながら学べ」

「それが最強の準備だ」


久世はふっと息を吐く。

「戦の前に世界を知れ、か……」

「悪くない」


朔姫が拳を握る。

「二年後、全部守るための旅だね!」


かやは静かに微笑む。

「……うん。きっと無駄じゃない時間になる」


宇宙船の窓の外、無限の星海が広がる。

こうして始まる――

終末まで二年間の宇宙旅編。



 宇宙船が発進準備に入ろうとしたその時だった。

宇宙人がふと立ち止まり、振り返る。

「……一つ、言い忘れていた」


久世が眉を上げる。

「重要そうだな」


「非常に」

ホログラムが切り替わり、崩壊した無数の惑星が映し出される。

爆ぜる星々。

砕け散る大地。

光となって宇宙へ散っていく粒子。

「ネメシスに滅ぼされた星々には共通点がある」

「その中心には必ず――エーテルスターがあった」

「そして星が滅ぶ瞬間」

「エーテルスターは“自己保存機構”を発動させる」


光の欠片が宇宙へ飛び散る映像。

「本体は砕けるが」

「核となる意志とエネルギーは欠片として飛翔する」


「別の星へ」

「無作為に」

「生き延びるために」


かやが息をのむ。

「……じゃあ、まだ生きてるんだ」


「そう」

「だが欠片のままでは星を守れない」

「集め、再構成しなければ本来の力を取り戻せない」


久世が静かに言う。

「それを……俺たちに集めろと?」


宇宙人は深く頷いた。

「強制ではない」

「旅を楽しみながらでいい」

「だが君たちほどの存在なら――」

「銀河に散った希望を拾い集められる」


朔姫がにっと笑う。

「つまり宝探し宇宙編だね!」


「ただし一つ一つが――星の命」


場の空気が少し引き締まる。

久世は星海を見つめたまま答える。

「滅びた星の願いを拾う旅か……」

「悪くない」

「どうせ守るなら」

「全部守ってやろう」


宇宙人は静かに頭を下げた。

「それができるのは――君たちだけだ」


こうして旅の目的は決まる。

宇宙を巡り、エーテルスターの欠片を集める使命。

観光と平和と、

そして滅びを食い止める準備。

 


 ワープを抜けた瞬間、窓の向こうの景色が一変した。


星、星、星。

無数の人工光が銀河の闇を昼のように照らしている。


「……でっか」


恒一の時代ですら見たことがない規模だったが、これはもう都市というより一つの惑星だった。

宇宙一の交易都市――

通称《星海都せいかいと》。


エーテルスターの糸がかつて最も集中していた場所でもあり、

今は銀河中の文明が集まる中心地。


空を飛ぶ船

宙を泳ぐ生物型移動体

重力が場所ごとに違う層構造の街

上下左右すら曖昧な世界だった。


「久世、これ迷ったら二年じゃ帰れないやつだよ」

朔姫が笑う。

「むしろ二年で足りる?」


久世は静かに街を見つめていた。

戦場とも

神域とも

地球とも違う

だが――生きている場所だ。

「いいな」

「争いもあるだろうが、それ以上に生きてる」

「こういう場所を守るために旅するなら悪くない」


かやが袖を引く。

「最初の欠片……ここにあるの?」


宇宙人の案内役が頷く。

「星海都の中心核に反応がある」 


「ただし――」

一瞬、言葉を濁した。

「この都市は“中立”だが」

「欠片はすでに誰かの手に渡っている可能性が高い」


難波が腕を鳴らす。

「つまり最初から交渉かケンカかってことだな」


夜叉は静かに言う。

「どちらも覚悟しておけ」


久世はふっと笑った。

「旅にトラブルはつきものだ」

「むしろ無いほうが不自然だろ」


都市へ降下する船の影が、

無数の光の海に溶けていく。

そして誰もまだ知らない。

この星海都で――

エーテルスターを巡る銀河規模の争いが再び動き出すことを。


 

 着陸の衝撃が収まったあと、ハッチが開く。

星海都の空気はほんのり甘く、金属と植物が混ざったような不思議な匂いがした。


久世たちが足を踏み出すと、案内役の宇宙人がくるりと振り返る。

「そうだ、名前を言っていなかったな」


かやが首をかしげる。

「あなた……宇宙人さん?」


少し考えてから宇宙人は胸を張った。

「正式名は長いから省く」

「君たちには――ジンと呼んでほしい」


「宇宙人のジン?」


朔姫が吹き出す。

「そのまんまじゃん!」


ジンは気にした様子もなく頷く。

「覚えやすいだろう」

「私は案内役であり、記録者であり、君たちの旅の補助者だ」


久世はくすっと笑った。

「悪くない」

「これからよろしく頼む、ジン」


ジンの目が一瞬だけ柔らかく光った。

「こちらこそ」

「君たちと旅ができるのを誇りに思う」


こうして正式に仲間入りする

宇宙人ジン。


 

 星海都の大通りは、もう市場というより惑星の胃袋だった。

空中に浮かぶ屋台、地面から生えてるような飲食ブース、光る液体を注ぐだけの自動調理機。

匂いだけで腹が鳴る。


「まずは腹ごしらえだ」

ジンが当然のように言う。

「銀河の問題は空腹では解決できない」


難波が即反応した。

「信用できる理論だなそれ」


最初に連れて行かれたのは、宙に浮く透明な器に入ったスープ。

中では小さな光の粒がゆっくり回っている。

「これは星雫スープ」

「恒星近くで育つ微生物を煮出したものだ」


久世が一口飲む。

一瞬無言。

次の瞬間、

「……うまいな」

「体の奥が温まる」


かやも飲んで目を丸くする。

「甘いのに塩味もある……不思議……」


朔姫は一気飲みして叫ぶ。

「これスポドリより元気出る!」


次は串焼き。

だが肉ではない。

透明でぷるぷるしていて、焼くと金色に変わる。

「重力クラゲの炭火焼きだ」


夜叉が無言で食べて、

「……酒が欲しくなる味だ」


久世が即ツッコむ。

「ここで飲むな」


恒一ポジションの感覚をまだ残してる久世は、屋台を見渡して感心していた。

「どの星でも人は食を楽しむんだな」

「文明が違ってもここは同じか」


ジンは少し誇らしげだった。

「星海都は争いを止める場所ではない」

「だが、分かち合う場所だ」

「種族も歴史も違う者が同じ卓を囲む」


最後に出てきたのは光るパンのようなもの。

割ると中から温かい蒸気と甘いクリーム。

「銀河太陽饅頭」

「星海都名物だ」


かやが一口かじって笑顔になる。

「これ……旅してよかったって味です」


久世はその笑顔を見て満足そうに頷いた。

「よし」

「宇宙を救う前に、まず宇宙を味わうとしよう」


朔姫が拳を上げる。

「グルメ制覇ミッション開始!」


ジンは小さくため息をつきつつ笑った。

「……君たちは本当に英雄に見えないな」


でもその背中を見ながら思う。

この者たちなら、

星も希望も、きっと救っていくと。


 

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