赤の女王逆説
クローン技術の人間への究極的な応用は、その技術が今よりもずっと未熟なころから国際法で禁じられていた。世界政府の創設よりずっと前の話だ。
やがて、技術は進歩し、神の領域まであと少しのところまで近づくと、ヒトクローンの是非は再び俎上に載り、民間人の中からでも推進を主張するものが現れるほどにありふれた議論のテーマになっていった。
ところが、医療の進歩に伴い人間の寿命を大幅に伸ばせることがわかると、次第に人々の関心はクローンから不老不死へとスライドしていった。黒魔術めいた医療技術に関する議論もまた盛んに行われたが、それはまた別のお話だ。
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この宇宙には、はじめから何もかもが揃っていた。
たとえば、まだ人類が文字を持たなかったころ、割れた石や拾い集めた木の実などをひとまとめにし、その上に藁の一本でも載せて、最後に、呪文でも唱えてやれば、それらは蝕のように形を変え、ついには月に辿り着いたかもしれない。
現象としてロケットの表現可能性を含んだ領域内でしか、それを実現しえないことも意味していた。
異界においても同じことだった。
ただ、そのことは問題にはならなかった。
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「復讐せよ」
悪魔がそう囁く。悪魔と名乗られたわけではなかったが、声の持ち主は見るからに悪魔だった。
「感謝なさい」
白い悪魔がそう囁く。悪魔と名乗られたわけではなかったが、声の持ち主は見るからに天使だった。




