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考える足  作者: シュガー


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1/2

考える足(前)

いつもの目覚ましが鳴った。

まどろみがなくなった頃に私はアラームを消し、窓を見る。

カーテンから朝日がこぼれていた。

起きようとして、体を右に向ける。

左足をもって右足側に倒し、その後両手で柵を掴んで体を起こした。

ベッド横につけていた車椅子の固定を外し、引き寄せる。

位置を確かめ、もう一度固定する。

車椅子のひじ掛けに手を置き、反対の手でベッドを押す。

一瞬だけバランスに気を配り、勢いをつけて体を移した。

もう何度も繰り返してきた動作だ。

私は『鳴海 里桜』(なるみ りお)、高校3年生だ。

3年といっても、あと1か月で卒業の身である。

受験も終わり、今は自由登校期間だ。

学校に行ってもやることがないので、時折、図書館へ出向いている。

今日は図書館の気分だったので、朝から準備している。

どんな本を読もうか。それとあの人は今日は来ているのだろうか。



しんさんとは図書館で出会った。

読みたい本があったんだけど、上の棚にあるせいで取れずにいた。

ただ、少し頑張れば取れる位置ではあった。

それを無理して取ろうとしたが、あとちょっとのところで届かない時、進さんがとってくれたのだ。

それがきっかけで、お互い顔見知りになり、何度か図書館で顔を合わせるうちに話し始めた。

進さんは大学一年生。サークルには入っていない。私と同い年の妹がいて、仲がいいらしい。

話題は進さんの大学生活やお互いの趣味の話などだ。

趣味については私の方が熱く語ってしまっている。私の趣味は花だ。

純粋に花を育てることが好きだし、花言葉も好きだ。花全般について私は好きだった。

進さんは今まで花に接することがなかったようで、花の話を興味を持って聞いてくれた。

別の日に会うと、進さんなりに花について調べていたり、好きな花言葉について教えてくれるようになった。

正直、花という地味な話題に気を遣ってくれているだけかと思ったけど本当に興味を持ってくれたみたい。

私はなんだかとても嬉しくて、進さんに会うことがいつしか楽しみになっていった。

ある日、進さんから行きつけのカフェに行かないかと誘われた。

そこの店長さんがこだわり派らしく、バリアフリー設計のようで私でも安心して入れると。

妹さんや大学の友達も紹介したいらしい。

やや戸惑いもあったが、前から妹さんに会ってみたいと思っていた。

そうして、私は喫茶店【リベロ】へ行くことになった。

不安もあるが、正直楽しみだった。明日はいろんな人と仲良くなれるといいな。



俺、室町むろまち しんに新しい友達ができた。

大学のレポートで指定の課題図書を借りに近くの図書館に行ったときに

車椅子に乗った高校生くらいの少女が少し高めの棚に手を伸ばしていたのを見つけた。

届きそうで届かない高さのためか、少女はいつの間にか身を乗り出していて倒れるんじゃないかとひやひやした。

無粋とは思いながらも、駆け寄りお目当てであろう本を取って渡す。

もしかしたら、何か言われるかもとは思ったが、その口からお礼の言葉が出て、とても安心した。

それからも課題図書を借りに、何度か図書館には足を運んでおり、その度にお互いに見かけることが多くなった。

いつの間にか、話すようにもなった。

鳴海さんは、花が好きでよく花の話をしてくれる。育て方だったり、花言葉だったり、その知識は豊富だ。

最初はただ聞いているだけだったけど、次第に興味を持つようになって自分で調べるようになった。

最初は聞くだけだったのが、自分から話題を振れるようになったのは少し嬉しい。

鳴海さんは、高校三年生で今は自由登校期間だという。

友達はまだ受験中とのことであまり会えず、少し寂しい思いをしているようだ。

ある日、鳴海さんを行きつけのカフェ【リベロ】に行ってみないかと誘ってみた。

俺がいつも行くカフェで、友達や妹ともしょっちゅう行く。

妹とも気が合いそうだし、【リベロ】を紹介するついでに妹も紹介しよう。

鳴海さんは少し考えるそぶりをした後、承諾してくれた。

明日、図書館で待ち合わせて一緒に行くことになった。



図書館で鳴海さんと待ち合わせて【リベロ】へ向かった。

ここから遠くはない。

車椅子を押し、【リベロ】へ向かう。

初めて、車椅子を押してみたが思った以上に重く、押し進めるのに力がいる。

いや、鳴海さんが重いというわけではなく、人ひとりが乗った時、こんなにも力が必要とは思ってなかった。

鳴海さんの車椅子は電動で動かすこともできたが、俺が横に並ぶと歩道をふさいでしまうので、俺が手押しで行くこととなった。

鳴海さんは申し訳なさそうにしていたが、特に気にならない。

今歩いている歩道はそんなに広くはないが車椅子と人一人くらいなら歩ける広さだ。

だが、すれ違う人はできるだけ車椅子のスペースを空けるようにすれ違っていく。

またも申し訳なさそうな顔ですれ違う人の会釈をする鳴海さん。

俺も同じように会釈する。

道中、他愛のない話をしていると【リベロ】が見えてきた。

「あれが【リベロ】だよ」

広い敷地の一角、見慣れた光景だが、改めて考えるとバリアフリーを謳っているだけあって広い店舗だ。

「こういうお店があったんですね。普段行きなれたところしか行かないので気づきませんでした」

「さぁ行こうか」

そうして、店へ入った。



店内は淡い青を基調とした落ち着いた雰囲気だ。

入店する際には段差は一切ない。

各テーブルには車椅子ユーザーでも気軽に利用しやすいように、テーブル下に十分なスペースがあるものが採用されている。

車椅子使用者対応トイレも完備だ。

さらに、メニューには点字も使われている。

筆談対応可能で、ここの店長は手話も完璧だ。

まさしくバリアフリーである。

「すごいですね、ここまで意識されている店内は初めてかもしれません」

鳴海さんは、店内を見て気に入ったようだ。

そして、妹がいる席へと案内する。

鳴海さんは少し緊張した面持ちだ。

席には2人。早い時間帯にしたためか、来店者は少ない。

友達の丸岡と妹の芽衣がいた。

つつがなく、お互いの紹介を終えた。

芽衣は活発でぐいぐい行くタイプの子で友達も多く、それゆえか鳴海さんとはもう仲良くなったようだ。

同い年というのもあるかもしれない。

芽衣が会話の中心となり、程よく鳴海さんや丸岡に適度に話題を振り、お互いの理解を深めていく。

そこにテンチョーが現れた。

「やあ、みんな。そちらの子が前言ってた進君の友達?」

テンチョー、ここ【リベロ】の店長だ。気さくでいろんなことを知っているみんなのお兄さん的存在だ。

丸岡の親戚で、丸岡経由で【リベロ】を知り、テンチョーと知り合った。

自店のオリジナルメニューを常日ごろから考えている。

たまにテンチョーから試作品と称して芽衣と丸岡の三人でいただいたりする。

もちろん感想を求められ、それが反映されたバージョンが出てくる。

「はい、そうです。こちら鳴海さんです」

「鳴海です。よろしくお願いいたします」

「うん、よろしく何かあったら言ってね」

「はい、ありがとうございます」

これで今日紹介したい人を紹介し終えた。

その後は、テンチョーの試作品の試食、談笑をしたのだった。



図書館で知り合ってから半年ほどが経った。さらに数か月後、鳴海さんは大学一年生になっていた。

連絡先を交換した俺と鳴海さんはたまに連絡を取り合っている。

どうやら、あれから鳴海さんは【リベロ】に通うようになったらしい。

たまにテンチョーとお店について話すようだ。

俺も知らなかったが、テンチョーがバリアフリーのお店を作ったのは、奥さんも障害を抱えていて、

何も気にせず、気楽に過ごしてもらいたいという思いがあって、そういう設計をしたらしい。

ということは、奥さんもたまに来ているかもと思っていたが、肝心の奥さんはまだ呼べてないそうだ。

しばらく営業してみて、抜けている不便がないか確かめているとか、これだっていう自信作ができていないことが理由らしい。

奥さんにはお店の存在自体は知らせているようで、まだ来てはいけない、と言っている様子らしい。

初めて聞くテンチョーのエピソードで盛り上がりながら、明日の予定を確認していた。

明日はみんな【リベロ】に集まる。なんでもテンチョーから相談に乗ってほしいとか。

テンチョーからの珍しい頼みごとに、俺はなんだかワクワクしながらやり取りを続けた。



翌日

いつもの面子が【リベロ】に集まった。

そして、テンチョーからの相談とは。

「お店の入り口に小さい花瓶で花を飾ろうと思うんだ。相談したいこととしては、お客さん目線で花を飾るべきなのか、それと飾るなら何の花を飾るべきなのか、ここを相談したいかな。」

思った以上に普通な相談だった。

そして、皆で審議する。

結論は入り口に花を飾るのは全会一致で賛成。

そして、何を飾るかについては

「テンチョー、鳴海さんは花に詳しいですよ」

鳴海さんはえっ、という顔をしながら照れくさそうにした。

「それはありがたいね。鳴海さん、何かおすすめの花はあるかい」

テンチョーがそう言うと、鳴海さんは考える素振りをしながら

「ブルーデイジーとかどうでしょうか」

知っている。前に図書館で鳴海さんと話したことがある花だ。

「前話した、青い花のことだよね?」

鳴海さんは嬉しそうに

「そうです。このお店は青をイメージカラーとしているので合うかなと。それと花言葉には幸福という意味があるのでぴったりかなと思います」

「これかな」

と芽衣が、スマホで検索した画像をみんなに見せる。

細く伸びた茎の先に、青い花弁が放射状に広がっている。

葉は細長く、少しだけ鋸歯があり、茎に寄り添うように生えている。

全体としては素朴で控えめな印象だが、静かな美しさでこの店に合い、人の目を引きそうだ。

「いいね、これ」

丸岡が呟いた。

俺も鳴海さんが提案した時はいいと思った。

「いいね、この花。採用」

テンチョーも気に入ったようだ。

「里桜は花に詳しいね」

芽衣は里桜の頭を撫でる。

「花が好きで、将来は花に関わる仕事ができたらいいな、って思ってるけど。花の仕事は倍率が高いと聞いたことがあって少し怖いかな」

「きっと就けるよ、そのために色々頑張らないとねー」

うん、と鳴海さんは頷いた。

後日、【リベロ】の入り口に青い花が置かれていた。

それだけで、少しだけお店の雰囲気が変わった気がした。

花が置かれたのを見た、鳴海さんは嬉しそうにはにかんでいた。

その横顔を見ながら、何か彼女のためにできることはないか考えていた。




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