掃除の時間
季節は夏に入りかかっている。気温は暑く湿度も上がってきた。セミの鳴き声も騒がしい。
これからもずっと毎日のようにあいつと騒がしい日々を送るのだろうか。
宇宙規模でみたら自分たちの学校生活の方がセミのような短い毎日なんだろうか。
今日の授業とホームルームが終わり放課後が始まろうとしていた。
「やっと今日の学校はおわりかー!帰ったらすぐ寝ようかな」
「まだ。これから掃除の時間があるんだけど」と咲良は言う。
そうだった。熱い空気と帰宅の解放感からつい掃除を忘れていた。
「あ~……ダルすぎる。やりたくねぇ。お前代わりにやっといて」
「はあ?私に押し付けないでちゃんとやりなさいよね」
「しょうがねえか」とりあえず私は納得した。
ていうか咲良、お前も面倒くさそうな表情してるじゃないか。
「掃除の当番もコイツと一緒なんだよな。なんだよこの腐れ縁。腐敗しすぎて土になってるんじゃね」
私がこういう冗談を言うと狐はその言い方に不満そうなツコッミを入れた。
というわけで面倒な掃除の時間が始まった。
まずは教室の全座席の椅子を机の上にあげた後、教室の後ろ側に平行移動するんだ。
「わたし、この作業わりと好きなんだよね!」とひかりは楽しそうな表情を浮かべている。
「へー、なんでまた?」咲良が不思議そうに言う。私も同じく不思議だ。
「なんでだろう??ストレッチになるから?」ひかり自身もよくわかってなさそう。
まあ、理由がよくわからなくてもなんとなくそんな気分になることあるよね。わかる。
座席の片づけが終わったらロッカーから掃除道具を出して教室の清掃活動が始まる。
ひかりと咲良はケモミミ同士でしっぽを振りながら楽しそうに掃除をしている。会話も弾んでいる。
あいつと対立せずに普通に仲良く会話できるこの子が何となくうらやましい気がしてきた。
「は~、めんどくさ」
掃除する気が進まない私はモップの先端ちゃんと掴まずに親指で押しながら作業を進めていた。
「結花、ちゃんとやんなさいよ。だいたいね、めんどくさいならちゃんとやって早く終わらせるようにしなさいよ」咲良が真面目君みたいに注意してきた。
思わず咲良のモフモフのきつねしっぽを右手で掴んで
「咲良のしっぽをモップ替わりにしたら早く終わるかもね」と冗談を飛ばした。
「はあ!?汚いからやめてほしいんだけど! ていうか、あんたのモップ掛けしたところ雑すぎて全然綺麗になってないじゃない。このへたくそ!」
そんなことを言われて段々をムカついてきた。
「ふん、お前だって机拭き雑だろ!机を拭くとき円状に動かして拭いてるし!
知ってた?机って四角いんだよ?丸くないんだよ?フラットデスカーですか?」
「意味わかんないこと言ってないでちゃんと掃除しなさいよ!
あんただってモップの水絞りが雑で床がびっしょり濡れたままじゃない!」
またまたうちらの火がついていつものように対立が始まった。
ここからは掃除の勢いが急に増加した。私は咲良に掃除のペース負けたくないと思い、
せっせと床掃除とかの残りの掃除作業を進めた。無効の同じ腹積もりらしく速度が上がっている。
もちろんお互いで悪口言いながらだけど、いままでの進み具合が嘘のように改善され、
あっという間に掃除が終わってしまった。
「え、もう終わったの?速いね! 結花、咲良、お疲れー!」
ひかりがいつもの対立に呆れた表情をしながらも感心した様子でねぎらった。
「まあね。私はアイツみたいに鈍くさくないし」
「それはこっちのセリフ。私もあんたみたいにチンタラしてないし」
やっと終わった。これでようやく家に帰れる。やっと解放される。
やり遂げた達成感抱いていると、何やら怪しい雰囲気に。そうは言ってられない展開になっていた。
どうやらさっきの対立を先生に言いつけたやつがいるらしい。
教室に近づいてきてくる先生の呆れた声が少し遠くの方から近づいてくる。
うちらは毎回言い争いしているから何回か先生にうるさいぞとか注意されている。
このままだとまた面倒な展開になる。
私は教室の隅にあるロッカーに向かい、そこに隠れた。
え、ちょっとまって、なんで咲良、お前も同じところに隠れようとしてるの?
「おい、なんでこんな狭いところ入ろうとしてんだよ!」
「もとはと言えばアンタが変なことを言いだしたのが始まりでしょ!私だって面倒なことになりたくないからここに隠れるの!」
ふざけんな、こんな狭いところに二人も入ったら隠れるのが難しくなるじゃないか。
そうこうしているうちに先生の声はだいぶ近くになってきた。
「ああ、もう!もっとこっちに寄れ!ロッカーに入りきれないだろ!」
私は咲良を引っ張りロッカーの扉を閉めた。おい、静かにしてろよ。
「ちょっと、顔近いんだけど」
「しょうがないだろ、こんな狭いところにいるんだから」
「おい、顔に息かけるな」
「慌ててここに入ったんだから仕方ないでしょ」
「って変に動くなって、バランス崩れるだろ!」
まるで抱っこが嫌で腕の中で暴れる犬のように、狭い空間で狐が動くせいで姿勢が傾いて不本意にも正面を向きあった姿勢でコイツにもたれかかることになってしまった。
「なんでこっちに密着するのよ、離れて」
「ちょ、暴れんなよ暴れんなよ。お前が大人しくしないで動くからだろ」
あ、やばい。勢いでロッカーの扉が開いてしまった。
……よかった。先生はもうどっかに行ったようだった。
さっきひかりが先生に二人はトイレに行ったと伝えてくれていたっけ。
ひかりの配慮に感謝しつつ、面倒ごとが去ったことに安堵を覚えた。
ひかりの隣には、さっきの騒動を先生に言いつけたであろう生徒が数人立っていた。
「さっきまであんなにケンカしてたので、ロッカーの中で抱えあうなんて
めっちゃ仲良しじゃん笑」
「いつも口論しているけどほんとは素直になるのが恥ずかしいんでしょ笑」




