6.逆にどうして
少し探していると、前方にチョウちゃんがラァインで送ってきた写真と同じ女性、ヒサコさんを発見した。
見つけたヒサコさんは写真のメイド服とは違ってしっかりとしたスーツをピシッと着込んでいて、出来る女性という雰囲気がヒシヒシと伝わってきた。
まぁ、メイド服を着てくるわけないよね。メイド服を普段着に着て歩く人なんてよっぽどじゃないと普通はいないだろうし。
そして、もしヒサコさんが普段着メイド服な人だったら、プラカードを掲げることを恥ずかしかることなんてなさそうなので、やっぱり普通の人でよかったと思う。
そうなると、逆にどうしてこんなピシッとした女性がメイド服を着ることになったのか、その理由が気になる。でも、多分聞くべきじゃないんだろうな。
もう1度写真を見ると、すまし顔で写ってはいるが、頬はほんのりと赤らんでいて、恥ずかしがっていることが見て取れる。
と、そんなことを確認している場合じゃないよね。
正面を向き直ると、ヒサコさんもスマホと僕を見比べてなぜか戸惑っているようにも見えた。
一体チョウちゃん、いや、この場合はまずは母さんか。母さんはチョウちゃんにどんな写真を送ったのか。そして、その中でどんな写真をチョウちゃんはヒサコさんに送ったのか。
そんなことを思っている間に、僕とヒサコさんの距離はなくなり、向かいあった。
「えっと………、主人コウくんで合ってますよね?」
いまだにスマホの写真と僕を見比べてくるヒサコさん。
ホントにどんな写真なんですか!と叫びたかったけど、流石にホントに叫ぶわけにもいかないので気持ちを落ち着かせて頷く。
「はい。あなたがチョウちゃんの代わりに僕を迎えに来てくれたヒサコさんですね」
「えぇ。そうなんだけど………」
やっぱりどこか戸惑いがあるヒサコさん。
ここまで戸惑われると、ホントにどんな写真がチョウちゃんから送られてきたのか気になる。
「ヒサコさん。お互いにチョウちゃんからどんな写真が送られてきたか見せあいませんか?」
多分、確認しあっていたほうがお互いのためのような気もするし、もしおかしな写真だった場合は次母さんが帰ってきた時にお話をしないといけなくなるし。あと、チョウちゃんへのお仕置きの度合いも少しアップする、かな。
「そ、そうですね」
戸惑いながらもヒサコさんの同意を得られたので、僕が先にヒサコさんへスマホを差し出すと、ヒサコさんもスマホを差し出してくれた。
「なっ!」
僕のスマホを見たヒサコさんは驚きながら顔を少し赤くした。
ヒサコさんにとっては恥ずかしい写真だから、この反応は仕方ないか。
対してヒサコさんのスマホにあった僕の写真は、去年、中学最後の体育祭だからとやらされた応援団の格好をした僕だった。
これくらいだったらいいか。
そう思えるくらいの、怒られない程度の写真で抑えてるあたり、やっぱり母さんはしっかり考えている策略家だ。あとでどうなるかを考えず、その場のオモシロさを優先して相手の恥ずかしがる写真を送ってくるチョウちゃんとは大違いだ。
そして、チョウちゃんの考えは見事に的中し、ヒサコはさらに恥ずかしがって顔を赤くしていた。
「えっと!これはね!その!あの!」
僕のことで戸惑っていたところからの恥ずかしい写真を見たことによってヒサコさんは完全に混乱しながらも、なんとか僕に説明しようとするも、うまく言葉に出来ずにあたふたしていた。
さっきまでのピシッとした姿とは真逆の姿にカワイイと思いつつも、このままではらちがあかないのも確かなので、ヒサコさんを落ち着かせよう。
「大丈夫。大丈夫ですから。わかってますから。どうせチョウちゃんあたりにムリヤリ着せられたりしたんですね」
じゃないとここまで恥ずかしがるようなことをヒサコさんが自分からすることはないだろう。それも、写真に残すなんてことまでするなんてとてもじゃないけどありえない。
「そう!そう!」
僕の言葉に反応したヒサコさんはおもいっきり首を縦に振りつつ、理解してもらえていることに嬉しそうだった。
「とりあえず車の方へ移動しませんか?」
ヒサコさんが大きな声を出したことで周囲の注目が僕達に集まりだしていた。混乱しているヒサコさんは気づいてないみたいだけど。
流石に今の状況はあまりよろしくない、かな。
「そうですね!」
僕の意見に同意して車の方へ歩きだしてくれたのはいいのだけど、まだ混乱からは回復出来ていないみたいで、ヒサコさんの声量は少し大きいままだった。
まぁ、仕方ないよね。それに、声の大きさを指摘してさらに恥ずかしくなってもっと混乱されると、その後の車の運転に支障が出ても困るので、そこは指摘しないでおこう。
と苦笑しつつあとをついていき、ロータリーに止めてあった車に乗り込む。
「このあとは確か高校に行ってチョウちゃんから高校についての話を聞くんですよね?」
その前にまずお仕置きから始めるけど。
「はい。そうですね」
車に乗ったことで少し落ち着いたのか、ヒサコさんの声量は普通に戻っていた。
「それじゃあ、チョウちゃんを待たせるとなにをしでかすかわからないので、早いところ向かいましょうか」
「はい」
頷いたヒサコさんは車を走らせ始めた。