12.あわさると
さて、話し合いとなるとやっぱり最初に聞かないといけないことは1つだった。
「ねぇチョウちゃん」
ビクビク震えながらも顔をあげたチョウちゃん。
「なにかな?」
「なんで母さんに僕を女子高校に入学させようなんて提案したの?」
今回の件の発端は父さんの転勤なのだが、それがここまでややこしく厄介な事になったのは確実にチョウちゃんが母さんに僕を女子高校に入学させようと言ったことから始まっているのだ。
何度も言うが、女子高校は男子校なので、女の僕が入学するなんて絶対にありえないことだ。例えそれが理事長のチョウちゃんが決めたことでも、だ。
もし、女子高校ではなく男子高校への入学だったら僕もここまで怒ることはなく、チョウちゃんへのお仕置きも駅でのことについてだけだったので、もう少し優しいものになっただろう。
「それは軽い冗談だったんだよ。
流石に先輩でも女の子のコウくんを女子高校に入学させるわけないと思ってたから、だから軽い冗談で言ってみたらまさかノッてくるとは思わなくて」
申し訳なさそうに話すチョウちゃん。
その申し訳なさそうな態度が本当かどうかを見極めるためにしっかりと見ていたが、長年の付き合いからして、本当に申し訳ないと思っている態度だったので本当なのだろう。
「もし、母さんがちゃんと断った場合はどうしていたの?」
それを考えていなかったらそれはそれで問題だろう。
「その時は男子高校の理事長と知り合いだからそっちに入学出来ないか聞いてみるつもりだったよ」
しっかりと先のことまで考えての冗談はとてもいいと思う。
昔は考えなしで色々やらかしていたチョウちゃんが、今では先々のことまで考えて冗談を言えるようになったなんて。ちゃんと成長しているのだね。うんうん。
「えっと………なんで私、今少し涙目のコウくんから微笑ましそうに見られてるの?」
「私に聞かれてもわかりませんけど………」
戸惑っているチョウちゃんがヒサコさんを見上げるも、ヒサコさんにわけがわかるはずもないので同じように戸惑っている。
おっといけない。感動していたらおかしなテンションになってしまった。まだ話し合いの途中なんだしちゃんと気持ちを切り替えないと。
ゴホンとわざとらしく咳払いをしてから話を続ける。
「チョウちゃんがちゃんと先々のことを考えながら軽い冗談を言った、というのは理解したよ」
僕の言葉にホッとするチョウちゃんには悪いけど、僕の言葉はまだ終わっていない。
「しかし、だ」
ビクッとして僕を見上げてきたチョウちゃん。
「普通なら誰もノッてくる人がいないそんな軽い冗談でも、悪ノリしてくるのが母さんだってことをチョウちゃんのほうが理解しているはずだと思うのだけど」
そう問いかけるとチョウちゃんはうつむいてしまった。
チョウちゃんと母さんの付き合いは母さんが小学生のころからあるらしく、幼なじみといっていいくらいの関係らしい。そして、それだけ長い付き合いだということは、母さんの悪ノリするクセもわかっているということでもある。
しかし、わかっていてもそういった軽い冗談をノリで言ってしまうところは、昔から変わらないところでチョウちゃんの悪いところでもある。
さっきは成長したと思ったのだけど、思いすごしか。
「そうだよね。先輩ならこんな軽い冗談にも悪ノリしてくるよね」
後悔するように呟くチョウちゃん。
「絶対してくるだろうね。それをするのが母さんだから」
悪ノリしてこないほうがおかしいと言えるぐらい母さんの悪ノリはたちが悪かったりする。まぁ、それと同じくらいチョウちゃんの冗談やイタズラもたちが悪かったりするけど。
今回の女子高校に通う件はそんな2人の悪いところが1つになったせいで起きた僕にとっては最悪のことだろう。
「1つ聞くけど、今から男子高校に通うように相手の理事長に話をつけられないの?知り合いなんでしょ?」
「流石に入学式まで1週間もないのにムリだね」
だろうね。わかっていたことではあるけど聞かずにはいられなかった。
となると、やっぱり女子高校に通うしかないのか。
大きくため息を吐くと、チョウちゃんがビクッとした。
今回は手を組むつもりもなかったわけだけど、僕の知るトラブルメーカー達の中でも2大トラブルメーカーと言っていい2人があわさるとホントに厄介なことしかおきないよね。
「とりあえず、女子高校に通う件については母さんが悪い、ということはわかったよ」
もちろん母さんの悪ノリする性格を知っていながらノリでそんな冗談を言ったチョウちゃんも悪いのだが、それ以上にやっぱり悪ノリした母さんのほうが悪いので、女子高校に通う件の主犯は母さんだろう。
僕の結論を聞いたチョウちゃんはバッと顔を上げてパッと表情を明るくさせたが、あいにくとまだ話し合いが終わったわけでもチョウちゃんへのお仕置きが終わったわけではない。