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1.ゲスいこと

 僕、主人コウの物語の始まりは夕食終わりに放たれた父さんのこの1言からだった。


「父さん、海外に転勤になったから」

「えっ?いきなりなに?エイプリルフールの嘘?」

「ハハハ。エイプリルフールは3日前だろ」


 もちろんそんなことは理解している。

 でも、そう言いたくなるくらい唐突で、予想外すぎる言葉だったのだ。


「海外に転勤?」

「そう。海外に転勤」

「このタイミングで?」

「そう。このタイミングで」


 このタイミングとは、僕は今年から高校生で、合格した高校の入学式が3日後なのだ。


「なんかこんなこと3年前にもあったよね」


 そう言いながら思い出すのは、中学の入学式の5日前。あの時も夕食終わりに父さんが「父さん転勤することになったから」と言ってきて引っ越しすることになった。


「あったな」


 笑顔で懐かしむ父さん。


 うん。殴っていいだろうか?


 と、考えが暴力的になってきたので1度深呼吸して気持ちを落ち着かせる。


 入学前の引っ越しはタイミング的にはいい。

 しかしだ。それを教えてくれるタイミングがいつもギリギリなのはなんとかならないものか。


「母さんは父さんについてきてくれると言っているが、コウはどうする?」


 マジメな顔になった父さんが聞いてきた。


「そう聞くってことは、日本に残ってもいいの?」

「えぇ。いくつか条件があるけどね」

「条件はなに?」


 もちろんなんの条件もなく日本に残れるとは思っていなかったので母さんの方へ顔を向ける。


「当然ですけど1人暮らしはダメなので、コウにはチョウちゃんのところで居候してもらいます」


 母さんが言ったチョウちゃんとは、母さんの友達の理事校チョウちゃんのことで、僕が小学生の時に住んでいた小説町に住んでいたこともあり、よく家に遊びに来ていた女性だ。

 そういうこともあって僕ともよく遊んでいてよく知った仲なので、チョウちゃんの元で居候するのは僕としてもいいと思えた。


 しかしだ。1つ確認しないといけないこともあった。


「チョウちゃんって今どこ住んでるの?」

「小学生の時に住んでいた小説町に今も住んでいるわよ」

「えっ?」


 小学生の時に住んでいたのは今住んでいる県とは違う県であり、小説町から僕が合格した高校に通うなんて絶対に出来ない距離なのだ。


「じゃあ高校はどうするの!?」


 僕は立ち上がって母さんに詰め寄った。


「それなら大丈夫よ。チョウちゃんが理事長の高校に入学出来るように取り計らってもらえたから」


 母さんは笑顔で言っているが、それってつまり、


「コネ入学じゃない!」

「コネでも高校に通えるのだからいいじゃない」

「それにコネは大事だぞ。社会人になればそれがイヤってほどよくわかるさ」


 父さんも母さんもいい笑顔でゲスいことを僕に言ってきた。


 その笑顔を見ていると怒る気すら起きなくなってきたので、大きくため息を吐きながら椅子に座り直す。


「わかったよ。チョウちゃんのところで居候しながら高校に通うから」

「そう。よかったわ」

「これで安心して明日海外に旅立てるな」

「明日!?明日海外に旅立つの!?」

「そうだぞ」

「そうよ」


 焦った様子もなく当たり前のように言う両親に頭を抱えたくなった。


 なぜなら、今、夜の8時なのに何一つ荷造りが終わってないという状況なのだ。


 いや、朝まで寝ずに頑張ればもちろん出来ないことはないと思うけど、夜逃げじゃないんだからそんな夜中に荷造りなんてしたくないし、もっと前もって教えてくれていればこんな困った状況に陥ることもなかったわけで。


 やっぱりまたふつふつと怒りが沸いてきたが、その怒りをぶつける前にまずは確認しないとね。


「父さん。転勤わかったのっていつの話?」

「去年の年末の話」

「大バカヤロー!」


 いい笑顔の父親の右頬に怒りの拳を打ちこんでやる。


「グハッ!!」


 僕の拳を受けた父親は椅子ごと後ろへ倒れ込んだ。


「ぶっ、ぶったね。妻にもぶたれたことないのブハッ!」


 まだ余裕だった父さんがネタに走っていると、母さんに左頬をぶたれた。


「な、なんじゃこの状況!」


 両頬を触った手を見て震えながら父さんが叫んだ。


「そのネタはわからないし、とりあえず最悪の状況だから早く座ってくれる?」


 これ以上付き合うのはめんどくさいので冷たく言い放つ。


「はい。すいません」


 椅子を起こして座り直した父さんは小さくなった。


 なので、スタンドライトを机の下から取り出すと部屋が暗くなったので、スタンドライトをつけてその光を父さんに向ける。


「で、去年の年末にはわかっていたのに僕には今まで隠していた、と?」

「はい。そうです」

「それはどうして?」

「もしコウが日本に残ると言った場合の居候先が決まってなかったってのもあったから、言うにしてもそれが決まってからとか思っていたから」

「本音は?」

「サプライズがてらギリギリで言う方が楽しいかなと思って」


 その言葉にさらに怒りを覚えたが、まだ色々聞きたいので殴るわけにもいかないので机に拳を「ドン!」と叩きつける。

 その音にビクッとした父さんはさらに小さくなった。


「で、居候先がチョウちゃんのところに決まった後の流れは?」

「とりあえずコウには普通に受験勉強をしてもらいつつ、チョウちゃんの家の近くの高校を受験させるためにどうしたらいいかと考えていたら、チョウちゃんが「だったらうちの高校にゴリ押しで入学させればいいよ~」言ってくれたからそれにノッたわけで」

「へぇ~。高校の件はチョウちゃんから言ってきたんだ~」


 まさかのチョウちゃんも共犯とは。


「はい!そうです!」


 背筋を伸ばした父さんが震えながら言った。


「まぁまぁコウ。そんなに殺気立たないの」


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アルファポリスでも掲載中。

ストックがあるうちは毎日投稿するつもりです。

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