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告白と求婚で追い込み漁

 

 ルドの父と母は、世羅と結婚することに反対はしなかった。

 ただし、世羅の意思が第一だと何度もルドに念を押した。特に母からくどいくらいに言われた。


 城内の()()はほぼ完了し、ルドの祖母の手の者や息のかかった者は皆捕らえられたり追放されたりした。

 ただ、ルドの祖母側の人間でなくても、独裁を許す形になっていた王家に苦い感情を持つ者は臣下だけではなく国民にも多く、それは時間をかけて(ほぐ)していかなければならないことだとルドは肌身に感じていた。


「……どんな結果になってもセラさんを責めてはダメよ?」


 母、くどい。


 ルドは苦虫を噛み潰したような顔をした。母の腰を抱く父はルドを見て苦笑いをしていた。


 誕生日を祝い、世羅に求婚するルドを見送るために、ルドの両親とダーレスはルドの部屋に来ていた。


 ルドが世羅の世界に行く可能性はゼロではない。

 これが別れになるかもしれないのである。


 ルドは母のまだ膨らんでないお腹に触れ、会えないかもしれない弟か妹にも挨拶をした。

 母は黙ってルドを抱き締めた。


「じゃ、行ってくる」


 そうルドが言うと、魔法で世羅の住む山小屋に飛んだ。


 まだ朝早い時間。

 世羅は洗濯物を干していた。

 ここに来た時は皺を伸ばすのにも一苦労していた世羅も、さすがに手慣れていた。


「世羅」


 背中からルドが声をかけると、世羅は振り向いて驚いて変な顔をして叫んだ。


「ルド!? どうしたの? こんな所に」


 変な顔すら可愛いな。

 ルドはにやけそうな表情筋を引き締めた。


「こんな所って、自分の家に帰って来ちゃいけない?」


「ルドの家はもうここじゃないでしょ。今はあたしの家よ。一人で来たの? 王子様でしょ!」


「十三になったんだ。魔法で来たよ。それより……何で、一緒に来なかったの?」


「え、誕生日なの!? おめでとう! ……ん? 何て?」


「じいさまと、来るものだと思ってた」


「なんで?」


「だって、寂しがり屋でわがままで、言いたい放題言って村の皆を困らせているんだろ。ごはんだって」


「おあいにくさま! 今トリンドの宿屋で働いているの。ごはんは、トリンドのおばさまにやっかいになってるけど、スープ以外も作れるようになったのよ? これからもっと覚えるわ。貯金だって、少しずつだけどできてる。村の皆は……まだ少し遠巻きだけど、もう少ししたらもっと仲良くなれるわ、きっと」


 トリンド。あいつ、あとで潰すか。


 ルドが黒い思考に囚われていると、世羅が殊更ことさら明るい声で言った。


「そう、今度村の祭りがあるの。あたしも参加して良いって言ってもらったの」


 世羅の語尾は震えていた。


「……世羅」


「だから」


「泣かないで」


「だから、ルドは都で元気に暮らしたらいい。あたしは、都に行く理由がないもの」


 ダーレスに言われるまで気が付かなかったなんて、なんて愚かなとルドは思い知った。

 こんなにも世羅を孤独にしたのは、元の世界の家族ではない。


 ルドだ。


「世羅」


「元気で」


「だめ」


「ルド?」


「世羅には選べないよ。ただ、道筋が二つあるだけ。一緒に都に行くか。泉の精霊に願いを叶えに行くか」


 ルドは「世羅の意思を第一にしなさい」という方々のお説教が頭をよぎったが、世羅の泣き顔を見たら吹っ飛んでしまっていた。


「意味が分かんないよ? あたしは叶えてもらったよ?」


「僕の願いに、つきあってよ」


「……だめだよ。ルドはこれからもきっと色々あって大変なんだよ?」


「僕は何があっても自分で何とかするから。だって、僕ならそうするって思ったから、僕じゃなくてお父さん……父上に力を与えるよう精霊にお願いしたのでしょう?」


「それは……」


「で、どっち?」


「……精霊に願わなくたって帰れるかもしれない。だって、来た時は、ただ落っこちて来たんだもん」


「そうしたら、もうこっちに来れないだろ。諦めて、世羅。僕はたくさんのことを諦めてきたけど、本当は諦めが悪いし、もう諦めるつもりもないし」


「意味分かんないよ」


「僕のお嫁さん以外、世羅に選べないよ。一度帰ったとしても、また来てもらうよ」


「……は?」


「僕の名はルドヴィト。世羅と共にることを精霊の名の下に誓うよ」


 精霊の名の下に。

 もう僕は世羅のものだ。


 ルドは妙にすっきりして高揚していた。

 唖然とする世羅の手を握る。


「僕は世羅が好き」


 一瞬の空白の後、世羅が真っ赤になっておののいた。何かを言っているが言葉になっていない。


「世羅は?」


「は?」


「世羅は僕のこと、好き?」


「……っ好き!?」


 明らかに疑問形であったのをルドは無視して「よかった~両思いだ」と言った。


 あわあわとしている世羅の右手を持ち上げて、ちゅ、とキスを落とした。


「な、ななななななななななっ!?」


 混乱する世羅を見つめながら、ルドはトドメを刺した。


「僕のお嫁さんになって?」


「お、YOME!?」


 世羅は大混乱中である。


「うん。それで、このまま僕と城で暮らすか、泉の精霊に願って一旦帰って、また来るか。どうする? あ、この世界に戻りたくないなら、僕が世羅の世界に行くよ?」


「ルド王子様じゃん!? 何言ってるの!?」


「そうだね。でも、僕は世羅の夫になりたい。世羅の産む子の父でありたい。精霊の名の下に誓ったとおり、僕は世羅と共にるためには手段も場所も選ばないよ」


 へなへなと世羅が座り込んだ。腰が抜けたのである。


「……結婚なんて、大人の話じゃない。そんなの言われても……」


 紛れもない世羅の本心であろう戸惑いをルドはぶった切った。


「だって、約束しておかないと僕が安心出来ない。世羅は芯は強いのに優しくて押しに弱い所があるから、誰かに取られそう」


「誰も取らないわよ……」


「なら、いいよね?」


「……好きって、なんで?」


「なんで? どこがってこと? まず、瞳が好き。顔が好き。髪の毛さらさらなのが好き。ルドって呼ぶ声が好き。耳の形が好き。耳たぶはもっと好き。爪が縦長いの好き。自分のことあんまり好きじゃないところも好き。家族に思うところあるのに捨てきれない優柔不断なところも好き。料理をする時半目になっているところが好き。寝相がとんでもなく悪いところが好き。苦い野菜食べる時に鼻の穴ふくらませてるところ好き。独りでこの世界に落ちてきたのに生きようとしている生命力が好き。何気ないことが我が儘だったと後から知った時に奈落の底に穴掘るくらい落ち込んでる背中が好き。僕の秘密をバラしちゃううっかりなところが好き。夜寝る前に時々泣いているうめき声が好き。洗濯物を干す時の鼻歌が音痴なのが好き。もう存在自体が好き。世羅の匂い……」


「わあああああああっ!!」


 世羅は奇声を上げてルドの「好き」攻撃を遮り、顔を覆ってうずくまってしまった。


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