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ルドの危機 世羅の願い

 

 ある日、世羅とルドがお使いで村に行った時。

 世羅が村の子どもの挑発に乗って「ルドは王様の子どもなんだからね!」と叫んだ。


 自分のために言ったことだと、ルドには痛い程分かった。


 でも、もうここにはいられなくなった。


 村人は兵に報告するだろう。ルドの祖母の息のかかった兵たちが確認のためにすぐに来る。

 ルドはここから逃げなくてはならなくなった。


 世羅を連れて行く理由が一つも見つからないまま、ルドは山小屋に向かって黙って走り、ダーレスに「バレた」とだけ言うと、ダーレスは世羅の様子から察して何も言わなかった。

 世羅も一緒に、とはダーレスは言わなかった。


 別れは突然に呆気なくやってきたのである。


「僕たちはもうここにはいられない。行くね。この家は世羅が住んでいいから」


 震えながら謝る世羅を置いていきたくない。


 けれども、ルドはダーレスに守られる身でしかない。

 ダーレスに促されるまま、ルドは世羅を置いて山小屋を後にした。


 瞬間。

 もう遅かった。


「ダーレス!!」


 現れた魔法使いに魔法で攻撃され、ルドを庇ってダーレスが吹っ飛んだ。


 ルドが短剣を抜いたが、魔法使いは難なくルドの意識を落として王城へと魔法で移動した。


 ルドが最後に見たのは、血まみれで倒れるダーレスと山小屋の入り口で恐怖に固まる世羅の姿だった。


 十三歳にさえなっていれば、こんなヤツに捕まらなかったのに……。


 ルドは何も出来ない自分の無力に打ちのめされながら意識を手放した。





 ルド。





 世羅の声が聞こえた気がした。

 ルドが目を覚ました時、そこは地下の薄暗い部屋で、手足をきつく縛られていた。


「……世羅、泣いているよな……」


 ルドの声は自分で驚く程、弱々しい声だった。


 魔法もろくに使えない。父は助けに来られない。自分で抗う力もない。


 ルドの心はとても弱っていた。


 ふと見上げると、高い所にあるとても小さな窓が見え、そこから星が流れる空が見えた。

 星降る夜は、あの山の泉の精霊が誰かの願いを叶えた夜である。


「世羅が、願いを叶えて自分の家に帰った……のかも」


 そう思うと、ルドは色々な感情が溢れ出して、堪えきれずに涙を零した。


 ルドが、ひとりぼっちで死んでいくだろう自分を自分で哀れんで泣いていると、声が聞こえた。


 ルド。


 ルドには世羅の声が聞こえた。

 はっきりと聞こえた。


 世羅は独りでこの世界に放り出されて、精一杯生きようとしていた。

 間違いはきちんと認め、泣きながらでも世羅は謝った。


 ルドは世羅の手の温もりを思い出した。


「世羅は、きっと、僕を助けに来る。たった一度の自分の願いを、僕のために使って、来る」


 なのに自分が諦めてどうすると、ルドは縄を解くためにもがき始めた。

 抗えなくても逃げることはきっと出来る。

 何もせずに素直に死んでなどやるものかと、ルドの心は気概を取り戻した。


「ルド!」


 部屋のドアが勢いよく開け放たれた。


 逆光でルドからはよく見えないが、男性が走って近寄って来て、ルドを縛っているロープをナイフで切った。

 更に、擦れて傷になっているルドの手足に手をかざし、魔法で傷を治した。


 男性はルドをひょいと抱きかかえると、スタスタと歩き出し、地下の部屋を出て城の奥へと進んで行った。


 無言で運ばれる格好のルドは、灯火に照らされた男性の顔を見て驚愕した。

 自分によく似た顔かたち、黒髪に赤い瞳。


「……赤子の時以来、自分の子を抱けた喜びを噛みしめているところなんだ。このまま抱かれていてくれ」


 ルドは無言で頷いたが混乱した。


 自分を助けたのが父であるならば、祖母に反抗したことで隣国と戦争になってしまうのではないのか。

 だから今まで、戦争を避けるため、自分は隠れて逃げていたのではないのか。


 どんどん城の奥に入り、ルドが連れてこられた部屋には、ルドが泉の精霊に願おうとしてまで探し求めていた母がいた。


「ルド! 会いたかった……!! ああ、顔をよく見せて? 大きくなって……」


 抱っこされたままのルドに母が抱き付いてきた。

 事態を飲み込めないルドに、男性が説明をした。


「星が空を流れたと思ったら、精霊が突然現れて『力』をくれた。隣国の犬どもをまとめて捕まえて、……王太后も確保した。罪状には事欠かない。一生幽閉となるだろう。もう安心だ、息子よ」


「力? ……精霊の魔法?」


「そうだ。お前が面倒を見ていた少女が願ったと精霊は言っていた。『ルドのお父さんが、ルドとルドのお母さんを助けて、ずっと一緒にいられますように。そのための力をルドのお父さんに』と。たとえ隣国と戦争になったとしても、押し返せる程の力だ」


「なんで……お父さんに?」


「……聡明な子だ。お前に力を与えたら、お前が一人で全部やらなければならなくなるだろう。そうではなく、私にやれ、ということだ。お前は自分の力で生きていけるということでもある。なあ? 息子よ」


 ルドは顔を真っ赤にした。


 ルドは自分の力で生きていける。

 世羅からルドへ、なんという信頼か。


「……無理強いはするなよ」


 愛した女性を諦めなかったルドの父が、悪い顔をする自分によく似た息子に忠告したのは、無理のないことだった。





 そこからのルドは忙しい日々だった。


 王宮内を始め国内に潜む隣国の手の者を排除し、様々な機構の機能を正常に戻していく。


 ルドの祖母がやりたい放題していた王宮内が落ち着きを取り戻すには、時間が必要だった。失った臣下の信は、容易には取り戻せないことをルドは痛感した。

 まだまだ道程は果てなくとも、一区切りが付いたここで慶事をと、ルドの父母の結婚式を挙げることになった。

 とうの昔に結婚はしているが、式は行っておらず、お披露目もしていなかった王妃と王子を周知する目的でもある。


 ルドはすぐにでも世羅を城に呼び寄せたかったが、世羅を迎える態勢が整わなかった。

 ルドを守ってけがをしたダーレスもまだ動かせる状態ではなかったので、結婚式を終えてダーレスの帰還と併せて世羅を迎え入れることにした。


 ルドは、ダーレスが世羅を連れて来てくれるものだとばかり思っていたのである。


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