誓いと願いと
お父さん、お母さん、祥太へ
元気ですか?
紙一枚しか送れないので、小さな字でごめんね。
私がこちらに来て十年経ちました。
ええっ!? でしょ? こちらとそちらでは時間の流れが違うようです。じゃあこっちが早いのかというと遅い時もあるみたいで、一定じゃないんだって。同い年だったルドが五歳年上になってて、十五年も待っててくれたの。
実は、ルドの魔法で、こちらの一年に一回くらい、皆のことを少しの時間だけど見ていました。ずっと祥太が高校の制服を着ているから、あたしが家を出てからそんなに時間が経っていなさそうで不思議な感じです。
そうそう、大事なことがあるの。家を出る時に髪の毛を一房切って置いていったでしょ? それがこちらにいるあたしとの繋がりになって、魔法で姿を見たり手紙を送ることが出来るの。だからどうか捨てないでね。
ルドが十年かけて魔法を研究してくれたから、そちらの姿や声を拾うだけじゃなく、手紙を送れるようになりました。これもこちらの一年に一回くらい出来るの。ルドがこれからも頑張って魔法を研究してくれるので、いつか会える日を夢見ています。
こちらには写真がないのが残念ですが、この十年で五人の子に恵まれました。孫と甥っ子姪っ子ですよ。
長男 アルフォンス・幸太郎 九歳
次男 エーリク・凛太郎 七歳
三男 ミシェル・蓮太郎 七歳
長女 ヴィルヘルミナ・花 三歳
次女 ノールチェ・紡 一歳
次男と三男は双子です。五人ともルドにそっくりで、あたしの遺伝子はどこにいった? って感じ。まあ、皆可愛いからいいけど。
王妃なんて柄じゃないけど、ルドがあたしたちを大事にしてくれているから、なんとかやってるよ。
大学で学んだことも、この地で無理が出ないようにルドと相談しながらやってみてる。こっちの学校は裕福な家の子しか通えなかったんだけど、もうすぐ誰でも通える子どもたちの学舎、小学校みたいな学校第一号が出来るの。
忙しいけれど、あたしはルドと子どもたちと楽しく過ごしているので、心配しないでね。皆もどうか身体に気を付けて。
世羅 三十三歳 元気
そのまま残してあるねえちゃんの部屋の机には、綺麗な文箱がある。ねえちゃんが好んで使っていた物だ。
今は『自分の代わり』と切っていった髪が一房入っている。
ねえちゃんが行ってから、やっぱり失った感が大きくて寂しくて、父さんも母さんも表面上は普段通り過ごそうとしているけど、時々どこか一点を見つめてたり溜め息をついたりしている。
そういう自分もフラっとねえちゃんの部屋に来ては、何するでもなく机に座ってしまう。そして文箱を開けて髪があるのを見ると、なんでか安心するのだ。
お守りにねえちゃんの髪の毛入れて肌身離さず持ち歩いているというのに、部屋に来ると落ち着くんだ。
消えたのを目の前で見たというのに、ねえちゃんがいなくなったことを受け入れられていないのかもしれない。
いつものように文箱を開けると、手のひらくらいの小さい紙が入っていた。
昨日はなかった紙を不思議に思いながら、両面にびっしりと書かれた文字を追って、涙で見えなくなった。
「ねえちゃん……っ!」
ねえちゃん、生きてる! 元気そうに生きてる!
しかも十年って……子ども五人って……ねえちゃんと異世界、半端ねえな!?
「こっちはまだ一週間だっつーの……」
まだまだメソメソしているところだわ。
「ああ……でも安心した……」
大事にされている。
とても大事にされている。ねえちゃんも俺たちも。
それが痛いくらいに伝わる文が一番最後にあった。
練習しただろう、たどたどしいひらがなで書かれた文字で、ひしひしと伝わってくる。
「はは……可愛いなぁ。『は』と『む』の字がひっくり返ってる」
離れ離れとなり、繋がりが消えてしまったように感じていたけど、ちゃんと繋がっている。
「アルフォンス・幸太郎……果物か芸名みたいな名前だな。そっか……ハーフなのか。甥と姪が異世界ハーフって、なんかすげーな!」
皆お父さん似なんだ。……アルフォンスなんて名前、ねえちゃん似だったら名前に負けるだろうよ。
会いたいな、うん。……会いたいよ。もう会えないって勝手に思ってたけど、ねえちゃんたちは遠い所にいるだけで、ちゃんと生きてんだ。俺たちだって会いたいと願ってもいいよな?
俺たちは、家族なんだから。
「お父さん! お母さん! ねえちゃんの部屋来て。早く!!」
ねえちゃんは大丈夫だ。幸せにやっている。十年待つことを選び、十五年、ねえちゃんを待ち続けた義兄さんとなら、大丈夫だ。
ねえちゃんがあっちに行くのが、もしも一週間遅れの今日だったら……、義兄さんは二十五年待つことになったんだな……。異世界、マジ怖ぇな。
「なんだ? 大声出して」
二人が上がって来る。
さあ、いつねえちゃんたちに見られても安心してもらえるように、俺たちもねえちゃん家族に自慢出来るくらい、幸せに笑っていないとな!
その前に、きっとボロ泣きだけどな。
ちち はは しょうた
たいせつな せら こどもたち まもる しあわせにする やくそく
るどゔぃと
じじ ばば おじ あいたい
こうた りん れん はな つむぎ
こうた かいた!
読んでくださり、ありがとうございました!
これにて完結です。
冬童話で、星降る夜に落ちた子を書いてから、ルド君視点を書きたくて、ようやく書けました。
がっつりネッチリとした初恋と、言われてみたらそうかもしれないくらいの淡い初恋、実って良かった。
ちなみに、世羅は十年間でルドと一度もやり取りがなかったからこそ、約束を反芻することで研磨されるように、より綺麗にきらめいた初恋が芽吹いたのだと思います。
ルド君の我慢の勝利。
以下はおまけです。完全に蛇足ですが、ダーレスとベーデガー侯爵が仲良しなことを公表したい!
【おまけ】
ベー「ダーレス、何食べてんだ?」
ダー「ああ?(ポリポリ)……セラ様が作ってくれた『ポテチ』だ。芋だ。旨いぞ、ほら」
ベー「(ポリポリ)……これは中々……」
ダー「だろ? なんにも出来なかったセラ様がなぁ。最近はこうやって色々差し入れてくださる」
ベー「あのバカップル……出会った頃はどうだったんだ?(ポリポリ)」
ダー「ルド様は無自覚に滅茶苦茶ギラギラ狙ってて、セラ様は無自覚に火に油をぶっ込むが如く煽ってた」
ベー「わあ青春……(ポリポリ)」
ダー「夜、何度不寝番をしたことか」
ベー「(ポリポリ)当時十二歳だったか?」
ダー「まだ自己処理も知らない子どもだとばかり思っていたが、心は本物だったな」
ベー「お前そんなことまで教えんのか。(ポリポリ)じいは大変だな。まあ、あの執着は遺伝だろ(ポリポリ)」
ダー「王家の、か?」
ベー「そう、(ポリポリ)赤い瞳は王家の血筋。これ、と決めた物や人への執着は代々凄まじい(ポリポリ)」
ダー「それを支えてきた宰相家が言うと重みがあるなあ」
ベー「まあ(ポリポリ)うちも王家の血が入ってるしな(ポリポリ)」
ダー「……そんなに気に入ったか?」
ベー「すまん、もうない(ぺろり)」
ベーデガー侯爵領の特産品にポテチが加わったのは、この後直ぐ。




