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星降る夜に惑う子  作者: 千東風子


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10/11

育てた想いは芽吹いて溶け合う

 

 そして、世羅も見上げる王城のバルコニーに、ルドが現れた。


 世羅の視界が潤んでぼやけた。

 奇しくも、十年前とほとんど変わらない広場の片隅に世羅は立っていた。


 大歓声の中、ルドが右手を挙げると皆口を閉じて聞く体勢となった。


 相変わらず豆粒だな……なんて世羅は冷静に思っていた。

 この距離が、王子であるルドと自分の距離だと、十年前も思った。

 願われて戻って来ても、豆粒王子は豆粒王でしかない。距離が縮まることはなかったのだと、涙が落ちていった。一粒、二粒、止まることなく滴が連なって流れた。


「今日は我が伴侶について、皆に告げ、宣誓する」


 魔法で行き渡るルドの声は世羅の知る声ではなく、低く心地よい声だった。


「王という役目を得ている以上、血を継ぎ、次代の王を育てることも責務の一つであると、しかと考えている」


 広場が瞬時にワッと沸いた。


 続いて『王妃』がバルコニーに現れ、王の伴侶として紹介されるのだと皆が思った。


「我が妻の名は世羅」


 ザワッ!

 どういうことかと皆がざわついた後、広場の喧騒が徐々に止み、場が張り詰めた。


 ルドがこれから何を話すのか、一つも聞き漏らさないようにと、皆が口をつぐんだのである。


「世羅は星降る夜にこの世界に落ちてきた異国の娘である。私が精霊の名の下に共にることを誓った女性だ」


 国民は皆、ルドがセラという一人の女性を待ち続けていることは知っていた。

 しかし、前王と同じく、精霊に誓ったものであることを初めて聞かされたのである。


 ルドは一人でバルコニーに立ち、皆に語りかけている。

 その横に、皆が期待した『王妃』が現れることはなかった。


「王である我が身は国のものである。これまでもこれからも。私はこの国の安寧のために王の職務を果たそう。だが、一人の男としての身と心はすべて世羅のもの。それをくつがえす者は精霊により罰が下るであろう」


 世羅の目が見開いた。


 広場に集まっている皆も、声が届けられている国中の皆も息を飲んだ。


「我が妻はただ一人。一生涯、ただ一人、世羅のみである」


 世羅は僕のお嫁さん。

 ルドはそう言ってくれた。

 今もただ一人、世羅だけだと、言ってくれた。


「次代は弟のアーネルがこの国を導く」


 ルドが声を張った。


「宣誓する。この身が果てるまでこの国に尽くし、この身が果てようとも我が妻を求め待つ」


 しん、と辺りが更に静まりかえった。


「たとえ世羅が遠い地にいようとも、今日ここに、私と世羅は夫婦となり、一生涯をかけて愛することを誓う」


 それはまごうことなき宣誓だった。

 ルドが世羅に愛を捧げる、神聖な言葉だった。


 誰もが思いがけなかったルドのその言葉に困惑し、身じろぎ一つ出来なかった。


 そんな中、涙も拭わずに人混みをかき分け、世羅はルドに向かって全力で走り出した。

 そしてフードを払い、腹の底から力の限り叫んだ。


「ルド!!」


 ドンッ!


 世羅は大柄な男性に体当たりしてしまい、「ぎゃっ!」とはじけ飛んで尻餅をついた。

 すぐさま立ち上がろうと手をついた先に靴が見えた。綺麗で立派な男性の靴。


「世羅」


 呼ばれた世羅はハッと顔を上げた。

 すぐそこには、靴の主であるルドがいた。


 目が合った。


 世羅は時が止まった気がした。

 何の音も周りにはなく、ただ、ルドと二人。


 背が高くなっている。(当たり前か)

 全く幼さがない大人の男性になっている。(当たり前だ)

 ものすごい偉そうな軍服みたいな服を着て王子様みたいだ。(いや王か)

 声も低くて、ルドがルドじゃないみたいだ。


 でも、ルドだ。

 綺麗な赤い瞳は、変わっていなかった。


 世羅はルドの変わっていないところを見つけることが出来て、安心して嬉しくて微笑んだ。


 ルドは「んん゛っ」と声を詰まらせた後、その綺麗な赤い瞳を潤ませて、震える声で愛おしい名を紡いだ。


「世羅」


 豆粒ルドの耳はしっかりと世羅の声を拾い、ルドの目は群衆の中でこちらに向かってこようとする世羅を見つけた。そして瞬時に魔法で飛んで来たのである。


「世羅……来てくれた……来ることを望んでくれたの?」


「来たよ……ルド」


 水晶で見た男は誰だとか。

 星は降っていないのにいつ来たのかとか。

 どこかのお姫様と結婚するって話は何だとか。

 言いたいことも聞きたいことも二人はたくさんあった。

 でも、そんなことはどうでもよくなった。


「待たせ過ぎだ!」


 ルドは世羅をふわりと抱き上げ、ぎゅうぎゅうに抱き締めて声を絞り出した。


 歯を食いしばって耐えた辛かったことも、涙が枯れるほど寂しかったことも、互いに伝わる温もりが洗い流してしまった。


 僕とることを望んで来てくれた。


 あたしをずっと待っていてくれて、これからもあたしだけだと言ってくれた。


 それが全てだと思った。


「祝砲!!」


 パンッ! パンパパパンッパンパンッ!!


 いきなりの破裂音に世羅の肩が跳ね上がった。

 宥めるようにルドが世羅の背中を撫でる。


「王の御成婚である!! 皆の者、ルド王とセラ妃に祝杯を挙げよ!!」


 ベーデガー侯爵が高らかに告げると、広場はルドがバルコニーに現れた時以上の大歓声に包まれた。


 祭りだ!

 王様の結婚だ!

 王妃様を迎えられるぞ!


 歓声は大きくなるばかりで、収まる気配はない。国民は、ルドが幸せならばそれでいいのである。


 ルドは世羅を抱き上げたまま魔法でバルコニーに戻り、広場に向かって叫んだ。


「我が妻の世羅だ! 皆、よろしく頼む!!」


 ルドの声を聞いた国中が祝福に包まれた。


 よかった王様!

 ホントによかった~!

 セラ様実在した!

 セラ様来てくれた!

 王様の妄想じゃなかった!

 王様にしか見えない幻じゃなかった!

 エアセラ様じゃなかった!

 ドゥリーミングボーイ卒業?

 卒業か? 卒業するだろ!?

 よかったねぇ!

 ガンバッ!!


 なんて声が、御祝いの後に混じっていたが、世羅にちゅっちゅするのに忙しいルドの耳には入らなかった。



挿絵(By みてみん)


相内充希さまよりいただきました『星降る夜に落ちた子』のファンアートです。

ようやっと再会しました……(^^)。


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