第5話 魔王からシャナールへ依頼するようです
私は一度魔王城を出てからディオンに声をかける。
「ディオン。先に帰っててちょうだい。私はちょっと用事があるから」
「承知しました。でもあまり目立つ行為はしないでくださいね、ミア様」
「分かってるわよ!」
ディオンは私が「透明人間」になれることを知らない。
特殊な能力を持っているということは理解しているが。
なので私がその能力を使って何かをしようと考えたことはディオンにも分かったらしい。
大丈夫よ、ディオン。
透明人間になったら目立つわけないんだから。
心の中でそう言いながら私はディオンと別れて建物の陰に隠れ「透明人間」になった。
そして急いで魔王城の中へと再び侵入する。
どこに魔王たち王族がいるかは分からないがたいがい王城というモノは奥に行くほど身分が高い者たちが暮らすエリアだ。
とりあえず奥に進んでまずは先ほど謁見したオルシャドール殿下を見つけたい。
顔が分かってる王族はオルシャドール殿下だけだもんね。
魔王もその兄たちも顔が分からないから見かけたとしても本人か分からないし。
謁見の間を通り過ぎ私はさらに奥へと進む。
すると他とは格別に豪華な装飾品で飾られているエリアを見つけた。
きっとここが王族の居住区域に違いない。
居住区域には綺麗な花の咲いている中庭があった。
なんとなくその中庭を見たらそこにオルシャドール殿下の姿を見つけた。
見つけたわ。中庭で何をしてるんだろ。
近付いてみるとオルシャドール殿下は池の中を覗き込むように水面を見ていた。
そして水面に向かってオルシャドール殿下が話しかける。
「陛下。そんなに気になるなら直接陛下がマクシオン商会の会長とお話すれば良かったじゃないですか」
え? 今、陛下って言ったわよね?
池の中に魔王がいるの?
透明人間になっていても私の身体は存在するのであまりオルシャドール殿下に近付き過ぎると身体がぶつかってしまう可能性がある。
そのため私のいる位置からはオルシャドール殿下の覗き込んでいる池の中は見ることができない。
「またそのようなことを言って。わざわざ玉座に魔法をかけて私と会話するより王宮にお戻りになられれば良かったんです。おかげで私は玉座と会話する変人だと思われたに違いありません」
玉座に魔法をかけてオルシャドール殿下と魔王は会話してたのか。
それなら玉座には魔王自身はいなかったのね。
オルシャドール殿下の言うとおり玉座に話しかける姿は変人と思われても仕方ないかも。
私の耳には聞こえないが今、オルシャドール殿下が池の中を覗き込んで会話してるのも魔王の魔法のひとつなのだろう。
魔王が人前に出て来ないって話は聞いてたけど王宮にもいないって魔王自身はどこにいるのよ?
秘密主義ってより魔王が変人なだけじゃないの?
「マクシオン商会の会長からもらった本はいつもの棚に置いておきますのでお読みください。それよりあの件について私から提案があるのですが、陛下。マクシオン商会には優秀なシャナールがいると聞いています。「王家の魔法書」をそのシャナールに見つけてもらえるように依頼してみたらいかがでしょうか?」
いきなりオルシャドール殿下からマクシオン商会のシャナールへの依頼の話を聞いて私は驚く。
確か父の顧客に魔族の王族もいたはずだ。だけどそれが誰だったかまでは私も記憶していない。
もしかしたらその人物はこのオルシャドール殿下なのかな。
「大丈夫です。私はそのシャナールと契約していますから。これだけ探しても見つからないならあの時奥の院に出入りできた陛下の兄君たちが関与しているとしか思えません。陛下が自ら動けないならシャナールを頼るのもひとつの手ですよ。「王家の魔法書」がなければ陛下が本当の魔王になれないのは陛下自身がよく分かってることではありませんか」
え? 王家の魔法書っていうモノがないと魔王が本当の魔王になれないってどういうこと?
そもそも王家の魔法書ってなんなのかしら?
「そうですか。それでは陛下自身がマクシオン商会のシャナールに頼みに行くのですね。それならば私からの使いという身分でマクシオン商会の会長のミア様に接触してください。そうすればシャナールに依頼できるはずです。なるべく早く依頼してくださいね」
へ? 魔王自らマクシオン商会に来るの!?
それじゃあ、急いで帰らないと!




