第2話 魔族のイメージです
「ここが王都のデイモン? なんか他の国の王都とあまり変わらないわね」
タファン王国の王都デイモンの入り口にある検問所を通過して見た街並みを見て私は拍子抜けしてしまう。
魔族の国と聞いていたからもっとおどろおどろしいイメージを持っていたのだが王都の街並みは普通の大きな街と変わらない。
王都の奥の方には王城と思える巨大な城があるがそれ以外に特徴的な建物も見当たらない。
「ミア様はどんな王都を想像してたんですか?」
「う~ん、魔族の国だから血の池とか針山みたいな場所があるのかなって。本に書いてある地獄ってそんなイメージじゃない? ディオン」
私は子供の頃に読んだ本の内容を思い出してディオンに答えた。
するとディオンは「ハア」と大きな溜息を吐く。
「ミア様。それは本の中の世界の話ではありませんか。ここは現実世界です。魔族も人間とそう変わらない文化的種族です。本だけの知識で世の中を見ないでください」
「は~い」
そう返事はしたものの異世界転生している私にはこの世界が夢の世界に感じることもあるのが事実。
前世の日本人としての私からしたら異種族が存在するだけでもすごい世界なのだ。
でもこんなことディオンに言っても信じないでしょうね。
この世界以外にいた記憶があるなんて。また「現実を見てください」って言われるのがオチだわ。
「とはいえ、本の知識も必要なことは私も知っています。特にこのタファン王国では」
「それはどういう意味?」
「実は異種族の国で一番本の取引きが多いのがこのタファン王国なのです。この国では本がよく売れるんですよ」
へえ、魔族って本を読むのね。
意外かも。
あれ? でも魔族は己の魔力の強さが全てって種族なのよね?
力こそ全てみたいな魔族に知識なんて必要なのかな。
「魔族って魔力があれば一番になれる種族なんでしょ? そんな力こそ全てみたいな魔族に本の知識って必要なの?」
「……ミア様。それは偏見です。それに魔族の魔力は呪文や魔法陣がないと発動できないものも多いのですよ。だから彼らは「魔法書」を読んで知識を得る必要があるのです」
ふ~ん、そうなんだ。
魔族は魔力があるけど呪文や魔法陣の知識がないと魔力を使えないってことか。
売れる本っていうのは「魔法書」みたいな専門書なのかな。
マクシオン商会も商品として本を扱っている。持ち運びは大変だがけっこう売れるのだと昔、お父様は話していた。
きっと本がよく売れるというのはこのタファン王国のことだったのだろう。
「よく売れる本は「魔法書」みたいな専門書なの?」
「そうですね。専門書の需要は多いですが子供のために買う方もいるのでいつも我が商会は恋愛小説や冒険小説などの本も持って来ています。特に毎回魔王代理のオルシャドール殿下はそう言った小説を持って来て欲しいと願われるので」
「え? オルシャドール殿下って恋愛小説や冒険小説好きなの?」
「オルシャドール殿下自身がお読みになっているかは分かりません。もしかしたらオルシャドール殿下のお子様たちに渡している可能性もありますし」
「ああ、そうよね」
別に大人の男性が恋愛小説や冒険小説が好きでも驚くことじゃないかもしれないけど、その人が魔王代理の魔族の人って言われると余計に私の中の魔族のイメージが変わってしまう。
魔族が悪魔みたいに怖いモノって思うのは失礼かしら。
魔族の「魔」は悪魔の「魔」じゃなくて魔力の「魔」ってことかな。
王都の中を歩き私たちは商売のできる広場にやってきた。
魔王から商売の許可が出ればここで商売ができる。
マクシオン商会が荷解きに入り私の会長用のテントも出来上がった。
そのテントに入りディオンと打ち合わせを始める。
まずはオルシャドール殿下への挨拶に行く時の手土産についてだ。
「さっきオルシャドール殿下には恋愛小説や冒険小説を持って来て欲しいって言われたからそれを献上品にすればいいの?」
「そうですねえ。できれば恋愛小説と冒険小説を一冊ずつ選びたいところですがそれがなかなか難しいんですよね」
「なんで? 適当に選んでいいんでしょ?」
「それがオルシャドール殿下から毎回違う本が欲しいと言われているんです。だから前回までに献上品として渡した本以外を選ぶのがミア様のお仕事です」
ディオンから渡されたのは本の名前が書かれたリストだ。
ひとつは今回持参した本のリスト。もうひとつは今まで献上品として渡した本のリストだ。
二つのリストはかなり厚い。
「え? この中から私が選ぶの? 別に選ぶのはディオンが選んでもいいでしょ?」
「それがもうひとつオルシャドール殿下から注文がありましてマクシオン商会の会長が自ら読んでおすすめの本がよいと」
ただ選ぶだけじゃなくて献上品の本を私も読まないとなの?
それならすぐに選定して読まないと挨拶までに読みきれないじゃない!
そういうことは早く言ってよ! ディオン!