第41話 本当の黒幕です
「なるほど。初代獅子族の王と猛虎族の王が交わした約束が原因だったのか」
私はタクオス獅子王に一連の騒動に関する説明をした。
ライもジオもまだ意識が戻らないが医者から命に別状はないと言われたのでとりあえず私は先にタクオス獅子王に事件のことを話すことにしたのだ。
この場にはエリオットとレイオットも同席している。
彼らはジオの身内であり数少ない猛虎族の者たちだ。これから先、獅子族と猛虎族がどのようにしてこのカシン王国を治めていくかを決めるためにはこの二人の意見は欠かせない。
「レイオットとエリオットと言ったな。君たちはこれからこの国を治めるには誰が適任だと思うかな?」
「失礼ながらタクオス獅子王様ではなくライガー将軍が王位に就いた方が丸く収まるのではないかと思います」
タクオス獅子王の問いかけに答えたのはレイオットだ。
そうよね。猛虎族と獅子族の約束を守りながらも表面上は獅子王家が存続するにはそれが一番良い方法よね。
初代猛虎族の王だってライの王としての力を認めたわけだし。
「確かにそうだな。今回のことを穏便に解決するにはそれが一番だ。私は時期を見て獅子王を退位しよう。だがその前にマレオを捕まえなければならない。私が退位したらマレオが自分こそが正当な王位継承者だと言いかねないからね。それにマレオは今回私の暗殺を企てた者だし」
そういえばマレオはまだ捕まっていないのよね。
どこかに隠れたか逃げたか。タクオス獅子王を暗殺するように企てたことは分かっているから捕まえて処罰するのが一番よね。
マレオの部下たちはライによって捕らえられて彼らはマレオから命令されたと証言を始めているらしい。
これで無事にマレオが逮捕されれば事件は解決しタクオス獅子王は憂うことなく退位してライに王位を譲れるだろう。
その時、ふと私の記憶の糸に何かが触れた。
なんだろう……何か重要なことを忘れているような。
「蛇族の暗殺者もマレオに依頼されたと証言しているしマレオを捕まえれば処罰するに十分な証言がある。ミア会長にもレイオットたちにも心配かけたね。とりあえず今日は休んでいいよ」
「私たちはジオと一緒にいたいのですが」
「そうだね。じゃあ、レイオットとエリオットはジオの部屋に泊まるといい。ミア会長はライの部屋ってわけにはいかないから別に部屋を用意するからそこで休むことでいいかな?」
「はい。ありがとうございます。タクオス獅子王」
ライのことが好きでもライと同じ部屋に寝泊りをするわけにはいかない。
たとえライに意識がなくとも未婚の男女が同じ部屋で一晩を過ごすことは認められることじゃない。
それにライはこれから獅子王になる身だ。王位を継ぐ前に醜聞を広めることはできない。
大丈夫。離宮に泊まれば明日の朝一番でライの顔を見られるわ。
自分をそんな風に納得させた私はタクオス獅子王の部屋を出る。レイオットとエリオットは使用人に案内されてジオの部屋へと向かった。
私も別の使用人が部屋へと案内してくれる。
「こちらをお使いください」
「はい」
用意された部屋に入り私は息を吐いた。
もう時間は夜になっている。ライは明日には目覚めるだろうか。
そんなことを考えていた時に私の脳裏に声が響いた。
『うまくいった』
え? 今の声はなんだっけ?
そうだ! 確か、ライが本来の姿に変化した後にその姿を見たジオが猛虎族の虎の姿になった時に聞いた誰かの言葉だ!
うまくいったってどういうことなの? あの言葉は誰の言葉だった? 思い出すのよ、ミア!
あの時、私のそばにいたのは……タクオス獅子王だわ!
なぜタクオス獅子王が「うまくいった」なんて言葉を使ったの? だってその言葉は猛虎族の王とライの関係をあらかじめ知っていなければ出てこない言葉のはず。
私の頭の中に激しい警鐘の鐘が鳴り響く。
もしタクオス獅子王が最初から全てのことを知っていたとしたら?
もしタクオス獅子王が本当は獅子王であることに固執していたら?
タクオス獅子王にとって邪魔になるのはライ……?
タクオス獅子王はライと猛虎族の王の二人を相打ちにさせて亡き者にしようとしたのかも!
だからあんな言葉が思わず出たんだわ!
私は部屋を飛び出す。
ライは今、意識が無い。もしライの命をタクオス獅子王が狙っているのだとしたら今がライを亡き者にするチャンスだ。
本当にタクオス獅子王が王位に固執しているかは分からない。私の単なる勘違いかもしれないがあの時の言葉は確かにタクオス獅子王の声に間違いない。
全ては最初からタクオス獅子王に全て仕組まれていたのだとしたら。
タクオス獅子王の真意が何なのか分からないが今回の黒幕はタクオス獅子王だと私のシャナールとしての直感が告げる。
ライの命が危ない!
タクオス獅子王からライを護らないと!