第36話 ライが獅子王になることが優先です
「私が獅子王になるだと?」
「そうです。貴方は猛虎族の血を引いているから貴方がこの国の王になれば昔の約束通りに猛虎族の王が誕生する。そして貴方は獅子王家の人間でもある。貴方が獅子王になれば表向きは獅子王家が存続することになり国が混乱することは避けられる。獅子族にとっても猛虎族にとっても平和的解決だ」
「……」
レイオットの言葉にライは黙り込む。
そうよね。獅子族と猛虎族が王位をめぐって争わないためにはレイオットの案が一番良い気がするわ。
「……では仮に私が獅子王になったとしても次代の獅子王はどうするのだ? もし獅子族の妻を迎えたら獅子族の血が濃くなり猛虎族の血は薄まるぞ」
「それを避けるためには猛虎族の女性を妻に迎えるしかないでしょうね」
「それはできない。私には愛している女性がいる。彼女は猛虎族ではなく人間族だ」
え? ライは人間族の女性を愛してるの?
それってもしかして……
「もしかしてその人間族の女性というのはミアさんのことですか?」
「……ああ、そうだ」
ライの返事に私は心臓がドクンと跳ね上がる。
私に多少なりとも好意を持っていてくれているのではないかと思ってはいてもライからハッキリと愛しているという言葉を聞いたのは初めてだ。
だけど同時にその事実が私の胸を苦しくさせる。
だってレイオットの言うように平和的に獅子王家を存続させていくためには獅子王になったライと結婚するのは猛虎族の女性である方が望ましい。
それに私はライに望まれたとしてもマクシオン商会の会長を辞めて獅子王家に嫁ぐことはできない。
私には一流の商人とシャナールになる夢があるのだから。
「人間族なら異種族の子供を産めるし人間族の血は異種族の血に影響を及ぼすことはないからあんたがミアを妻に迎えてもとりあえず産まれてくる子供の猛虎族の血が薄まることはないはず。だからミアと結婚しても大丈夫なんじゃないか?」
今度はエリオットが言葉を挟んできた。
え? 人間族が異種族の子供を産める存在なのは聞いたけど私とライの間に産まれる子供は猛虎族の血を薄めることはないの?
「そうですね。ライガー将軍がミアさんと結婚しても産まれる子供の猛虎族の血が薄まることはないでしょう。しかし産まれてくる子供が人間族でしかない可能性もありますからそこは賭けになるでしょうが」
そうだったわ。人間族と異種族ではその間の子供は人間族か異種族かに分かれるのよね。
私がライの子供を産んでも猛虎族の子供だとは限らないわ。
産まれた子供が人間族だとしたら獅子王の跡継ぎにはなれない。
そんな危険な賭けを獅子王になったライがして言い訳がない。
この国のためにもライとの恋は諦めないと。
私は自分の気持ちに蓋をするように自分に言い聞かせる。
「……それでも私は可能性があるなら諦めない。それにどうしても猛虎族の血が王に必要ならタクオス兄上の子供が次代の王になってもいいはずだ」
そういえばタクオス獅子王だって獅子王の剣が抜けないほど血は薄いけど猛虎族の血が僅かに流れているのよね。
これも賭けかもしれないけどタクオス獅子王に獅子王の剣を抜けるほどの猛虎族の力を持った子供が産まれる可能性はある。
「どちらにしても危険な賭けですがとりあえず今は貴方が獅子王になることが優先順位です。跡継ぎ問題を考えるのはその後でいいでしょう」
「……分かった。タクオス兄上に相談してみよう」
苦々しい表情をしながらもライは自分が獅子王になる必要があると決断したようだ。
三人の話が一段落ついたのを確認して私は三人の前に姿を現した。
「ミア。危ないから外で待っててくれと言ったのに」
「ごめんなさい、ライ。どうしても気になってしまって。レイオットさんもエリオットさんも無事で良かったわ」
私は今ここに来たように取り繕う。
三人が話していた内容を私は知らないでいた方がいいと思ったからだ。
「ライガー将軍のおかげで助かりました。もしかしてエリオットのメッセージを見つけてくれたのですか?」
「ええ。メッセージとうちのシャナールのおかげでここが特定できたの」
「そうでしたか。シャナールの方にもお礼を言っておいてください」
「分かりました。レイオットさん」
目の前の私がそのシャナールだとは言えない。
すると慌ただしく親衛隊の人がやって来た。
「ライガー将軍様。潜んでいた敵は捕まえましたがその中のひとりがこのようなメモを持っていまして」
「見せてみろ」
親衛隊がライにメモ用紙を渡しライがそれを確認してみるみる表情を変えた。
「タクオス兄上の暗殺を今日行うだと!?」
え? タクオス獅子王の暗殺を今日行うですって!?