第35話 獅子王の剣の秘密です
私はライの部屋の扉を叩いた。
部屋の中からライの入室許可の声が聞こえたので扉を開けて中に入る。
「ミアか。あのジオって子供の様子はどうだろうか?」
ライの瞳には心配そうな感情が浮かんでいた。
「実はジオが持っていたエリオットの剣に細工がしてあって隠されたメモを見つけたの」
私はその発見したメモからエリオットたちが監禁されている場所を発見したことを説明する。
ただしライには私がシャナールであることは話せないからエリオットたちの監禁場所を見つけたのは私から命令されたマクシオン商会のシャナールだということにした。
「そうか。ならばすぐにでも彼らを助け出さなければならないな。それにしても今回の件にマレオが関わっているとは……」
私はマレオが今回の件に関わっていることはライに話したがジオの正体については話さなかった。
ジオは初代ザキの生まれ変わりだ。
だがエリオットたちの話を聞いているとジオとライの間には秘密の関係性があると思われる。
エリオットたちはその秘密を知ってそうだったからライにはエリオットたちから説明してもらった方がいいと思ったからだ。
第三者が中途半端な情報を流すと真実が伝わらなくなるので注意しなさいというのが私のお父様の言葉でもあった。
シャナールは事実だけを正確に伝えるのが大事。
「ライ。急いでエリオットたちを助けに行きましょう。場所はシャナールから私が聞いてるから」
「ああ。だが王軍を動かすことはできない。今、軍を動かしたら兄上に理由を尋ねられてしまう」
そうか。まだタクオス獅子王にはエリオットたちのことは秘密だもんね。
でも軍を使わずにエリオットたちを救出できるの?
「軍を使わずにエリオットたちを救出できるでしょうか?」
「大丈夫だ。私の親衛隊を使う。親衛隊の者の腕前は確かなものだし私が外出するのに親衛隊を連れて行くぐらいなら目立たない」
なるほど。少数精鋭で乗り込むってことか。
「すぐに親衛隊を連れて行く準備をするからミアは離宮の入り口で待っていてくれ」
「分かりました」
私はライの部屋を出て離宮の入り口まで戻り待機する。
するとすぐにライと10名程度の親衛隊と思われる人物が現れた。
「待たせたな、ミア。エリオットたちのところに案内してくれ」
「はい」
私とライたちは馬に乗り離宮を出発する。
そして「光の泉」にライたちを案内した。
「この泉には地下に行ける入り口があるんです」
私は男たちがやったやり方で地下道の入り口を開いた。
「こんな仕掛けがあったのか。ミアはここで待っていて欲しい。ここからは我々が侵入するから」
そう言うとライは親衛隊の人たちと地下道に突入して行った。
ライにはここで待つように言われたがエリオットたちを無事に助け出せるか自分の目でも確かめたい。
ライたちが突入した後に私も地下道に入る。
えっと、確かエリオットたちが監禁されていた場所はこっちの道だったわよね。
地下道を進んで行くと男たちの怒号と剣戟の音が聞こえた。
親衛隊とマレオの部下たちが戦っているのかもしれない。
戦闘に巻き込まれないように注意しながら私はエリオットたちが監禁されている牢屋の近くまでやって来た。
すると声が声が聞こえる。
「あんたがライガー将軍か。助けてもらった礼は言うがこれ以上獅子王の剣の秘密には関わらない方がこの国とあんたの為だぜ」
この声はエリオットだわ。
地下道の壁に身を隠しながら牢屋の方を見るとそこには牢屋から救出されたエリオットとレイオット、それにライの三人が立っていた。
「なんだと? 私はこの国の将軍だ。国を守る義務がある。そのためには獅子王の剣の秘密を知らなければならない」
「そこまで言うなら教えてやる。獅子王の剣は100代目の獅子王が死んだ後は誰であっても抜けない剣になるように呪術が施された剣だ」
え? 100代目の獅子王が死んだら誰にも抜けなくなる呪術がかけられていたの!?
「何を馬鹿なことを。現在のタクオス王は確かに101代目の獅子王だが101代目だから剣が抜けないと言うのか?」
「そうだとも」
「それならばなぜ私は獅子王の剣を抜けるのだ? その呪術は100代目の獅子王が死んだら誰であっても抜けなくなるんだろ?」
「あんたは純粋な獅子族じゃない。猛虎族の血を強く引いている。だからあんたが獅子王の剣を、いや、猛虎族の王の剣を抜けるのは当たり前だ。獅子王の剣は元々猛虎族の王の剣だったんだ。だから猛虎族の血を引くあんたは剣が抜ける」
初代ザキは獅子王に剣を献上した。
そして初代ザキは猛虎族の王だった。
それなら獅子王の剣が猛虎族の王の剣だと言ってもおかしくない。
「かつて獅子族と猛虎族はどちらが獣人族の王になるか争っていた。だがその時に初代ザキでもある猛虎族の王が獅子族の王にある話を持ちかけた。それは獅子族が100代の間この国を王として治め次の100代の期間は猛虎族がこの国の王として治めるという話だ」
「なんだと?」
「獅子族の王はその話を受け入れ猛虎族の王との約束の証として猛虎族の王から剣を受け取った。それが獅子王の剣と呼ばれる剣さ」
「ではこの国は獅子王が治める時代が終わったと言うのか?」
「その通り。だが獅子族はその約束を破った。だから猛虎族の王は猛虎族の手に王位を奪い返すべくこの世に再び誕生した。今はまだ猛虎族の王として覚醒していないがな。覚醒したらこの国は猛虎族の王によって滅びる運命だ」
覚醒していない猛虎族の王がジオってことね。
「そんなことはさせない。たとえお前の言ってることが真実だったとしても獅子王家はそれを受け入れるつもりはない!」
ライの怒声が響く。
獅子王家の者としてそういう約束だったから猛虎族に王位を譲るということをライが簡単に受け入れられるはずがないのは当たり前だ。
するとそれまで黙っていたレイオットが静かに口を開く。
「獅子王家が今後もこの国を治める方法がひとつだけあります。それはライガー将軍。貴方が獅子王になることです」