第30話 ジオは無事でした
「ライ! 子供って!」
私はライがいる奥の部屋に飛び込んだ。
そこにはライとそのライを涙目で怯えた表情で見つめて立っているジオがいる。
「ジオ! 無事だったのね! 良かった!」
「お、お姉ちゃん…」
私がジオに近付こうとするとライが私を止めた。
「ミア、この子供は剣を持っている。気を付けてくれ」
え? 剣を持っている?
もう一度よくジオを見るとジオの手には小さな短剣が握られている。
だがジオの顔は今にも泣きだしそうだ。
そしてその短剣には見覚えがあった。
エリオットが持っていた短剣と同じだ。
あれはエリオットの短剣ね。
きっと襲撃があった時にジオに身を護るように渡したんだわ。
私はなるべく優しい声でジオに話しかける。
「ジオ。その短剣をお姉ちゃんに渡してちょうだい。もう貴方を傷つける人はいないわ」
「で、でも…」
ジオはライの方を見た。ジオはライとは初対面だからライのことが怖いのだろう。
それに今のライは自分の長剣を持っている状態だ。ジオが怯えても仕方ない。
「ライ。剣をしまってください」
「あ、ああ、そうだな」
ライもジオが自分の剣に怯えていることに気付いたようで私の言った通りに剣を鞘にしまった。
「ジオ。このお兄ちゃんはライガー将軍と言ってね、お姉ちゃんのお友達なの。ジオを傷つけることはないから安心して」
「……うん」
私はゆっくりとジオに近付く。
「その短剣を渡してくれる?」
「うん」
ジオは私に短剣を渡してくれた。
私はその短剣を受け取りとりあえず床に置いてからジオを抱き締める。
「お姉ちゃん! うわ~ん!」
抱き締められて安心したのかジオが泣き始めた。
その身体は小刻みに震えている。
「よく一人で頑張ったわね。もう大丈夫だからね」
私はジオの背中を安心させるように何度も優しく撫でた。
「ミア。その子供はザキの家族なのか?」
「ええ、そうです。ザキの弟のジオです」
「ではこの子供はザキがどうなったか知っているかもしれないが…この様子では落ち着くまで話はできなそうだな」
「そうですね。少しジオを休ませないと」
こんな小さな体でジオはエリオットたちが襲撃者と戦っているのを見たのかもしれない。
子供には凄い恐怖との闘いだっただろう。
どうしてジオだけが助かってここにいたのか分からないしエリオットやレイオットがどうなったのかも分からない。
ジオから話を聞くにしてもまずは安全な場所に移動してジオを落ち着かせる必要がある。
「ライ。ジオは一度マクシオン商会で預かります」
「マクシオン商会で? 離宮に連れて行った方が安全じゃないか?」
「ザキは…エリオットたちはライ以外の獅子王家の者には秘密でここに来て欲しいと言ってました。だからエリオットたちは自分たちの存在を獅子王家の者には知られたくなかった可能性が強いと思うんです」
「確かにそうかもしれない」
「離宮にジオを連れて行ったらタクオス獅子王様に報告しない訳にはいかなくなります。それに襲撃者が私の存在を知っている可能性は低いと思うんです。私とエリオットたちの出会いは偶然だったので」
そう、あの広場の騒ぎの時に私がジオを助けたのは偶然だ。
ジオはあの時点で怪しい男たちに狙われていたのだから私の存在はそいつらにとって予想外だったはず。
襲撃者が何者かは分からないが「獅子族」と「猛虎族」に関わるような案件でジオたちを狙っていたなら関係のない私の正体までは知らない可能性が高い。
それなら離宮にジオを連れて行くよりマクシオン商会で保護した方がいい。
「それに今のジオには顔見知りの私と一緒にいた方がいいと思うんです」
私は泣きじゃくるジオの背中を撫でながらライを見る。
ライも僅かに頷いた。
「そうだな。おそらくそれが最善だろう。とりあえずその子供はミアが預かってくれるか?」
「はい」
「もし話が聞ける程度に落ち着いたら連絡をしてくれ」
「分かりました。ジオ、お姉ちゃんの家に行きましょう」
「ぐすん…うん…」
ジオはまだ涙に濡れた顔をしていたが私の言葉に頷いてくれた。
「じゃあ、行きましょう」
「ま、待って! お姉ちゃん、エリオット兄ちゃんの剣…」
ジオは床に置いてあった自分がさっきまで握っていたエリオットの短剣を鞘に納めて大切そうに胸に抱える。
その短剣はエリオットがジオの身を護るために渡した短剣だもんね。
ジオが手放したくない気持ちは分かるわ。
それから私とジオはライにマクシオン商会まで送ってもらった。
そしてライは離宮に戻っていき私は迎えに出たディオンに簡単に事情を説明してジオを自分のテントで休ませた。
ジオはベッドに横になると疲れと緊張が解けたのかすぐに眠ってしまう。
その眠るジオの顔を見ながら私は決意する。
エリオットやレイオットの遺体はなかった。それなら生きている可能性も高い。
ジオのためにも必ず二人を見つけるわ。