第27話 純粋な獅子族ではありません
「ライガー将軍様の心の傷って何ですか?」
気が付いたら私はそうレア王妃に質問していた。
本来なら私みたいな者が王族のしかもプライベートな部分を聞くことは失礼になる。
それでも私は聞かずにはいられなかった。それはライが時々見せる寂しそうな悲しそうな表情を見ていたからだ。
もしライに過去に負った心の傷があるなら癒してあげたい。
「そうね。ミア会長さんはライガー将軍が心を許した相手だから知っておいた方がいいわね」
レア王妃は真剣な表情になる。
「でもここは廊下だから私の部屋に来てくださるかしら?」
そこで私もここが離宮の廊下だったと思い出した。
今は周囲に人がいなくてもいつ使用人や兵士が来るか分からない。
なるべく早くライの部屋には行きたいけど何時に来るってことまでは約束してた訳じゃないからここはレア王妃の部屋に行ってライの話を聞いた方がいいわね。
「分かりました。レア王妃様のお部屋へお邪魔します」
「どうぞ。こちらよ」
レア王妃が廊下を歩き始めたので私はその後に続く。
そして一つの扉の前にやってきた。
護衛の兵士が頭を下げて扉を開ける。
レア王妃は悠然とその部屋に入って行った。当然、私も部屋の中に入る。
その部屋は女性らしい薄い桃色の壁紙が使われた可愛らしい部屋だった。
なんか可愛いレア王妃にピッタリの部屋ね。
「ミア会長さん。ここに座っていいわよ」
「はい。失礼します」
部屋にあったソファに座るとレア王妃も私の向かいのソファに座った。
「ここなら誰にも聞かれないわ。だからミア会長さんも質問があるなら遠慮せずに言ってね」
「はい。分かりました」
私は返事をして頷く。
「さっきの話の続きなんだけど、ミア会長さんはタクオスやライガー将軍のお母様がどんな方だったか知ってるかしら?」
「いえ、知りません。不勉強で申し訳ございません」
現在のカシン王国の王族たちのことさえ知らない私がライたちの母親のことについて知っていることはない。
「そう。まずはそのお母様のことを話さないといけないわね。私もタクオスから聞いただけなんだけど、タクオスとライガー将軍のお母様は実は純粋な『獅子族』の方ではなかったらしいの」
「え? そうなんですか?」
私は驚いて目を見開く。
ライの話では父親も母親も純粋な『獅子族』という話だったはずだ。それにライの外見はまさに『黄金の獅子』と思うぐらいの姿なのに純粋な獅子族じゃないなんて。
あれ? でもそれならもしかしてライが獅子族の特殊能力が使えないのはお母様が純粋な獅子族ではないからかしら。
でもタクオス獅子王は特殊能力が使えるはずよね。
私の脳裏にそんな考えが浮かぶ。
「ええ。でも完全に獅子族の血を引いてなかった訳ではないの。お母様は『獅子族』とある他の種族との間に産まれた方だったのよ」
「そのもう一つのある種族とは何ですか?」
「それはこの獣人族の中でも希少種族と言われる『猛虎族』らしいわ」
猛虎族!? それってエリオットたちの種族じゃない!
それじゃあ、ライとエリオットたちは親戚になるってこと?
「で、でもレア王妃様。ライガー将軍様からはお母様は純粋な獅子族だったとお聞きしましたが」
レア王妃は溜息を吐く。
「そうよ。表向きはそうなってるわ。なぜならお母様の両親は正式に結婚してた訳じゃないの。お母様の父親、タクオスたちにとってのおじい様は獅子族の女性と結婚していたの。だけど『猛虎族』の女性と愛し合ってしまってタクオスたちのお母様が産まれてしまった」
え? それって不倫の子供だったってこと?
「そしてその猛虎族の女性はお母様を産んですぐに亡くなったらしいわ。そしておじい様と正式に結婚していた獅子族の女性がお母様を実の娘として引き取ったの。だからお母様、前王妃は記録上、純粋な獅子族となってたらしいわ」
「ではその後にライガー将軍様のお母様は先代の獅子王様と結婚されたんですか?」
「そうなの。先代の獅子王様は事情をお母様から聞いてもその秘密を隠して公には獅子族の女性となっているお母様と結婚したのよ。国民もみんな疑う人はいなくて平和な生活が続いた。二人の間に産まれたタクオスは幸いにも『獅子族』の特徴を持って産まれたし獅子族の特殊能力も使えたから安心していたのね。でもそんなときにライガー将軍が産まれて大変なことになったの」
「大変なことって……ライガー将軍様が獅子族の特殊能力が使えなかったということですか?」
私が尋ねるとレア王妃は少し困った顔になる。
「使えないというより使えるけど特殊能力の「力を制御できない」というのが正しいの」
え? 力が制御できない?
「そしてある日そのことで悲しい事件が起こってしまった」
レア王妃の顔には悲し気な表情が浮かぶ。
ライが「力が制御できない」ことで起こった悲しい事件って何かしら?