表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/96

第26話 ライの特別な存在のようです

 翌日、私は再び離宮にやって来た。自分の名前を告げてライガー将軍に会いに来たと言うと門番は離宮に入る許可をくれる。


 どうやらライが門番に私が来ることを伝えておいてくれたようだ。「ライガー将軍の部屋までご案内しましょうか」という兵士の言葉に「部屋は知っているから一人で大丈夫です」と答え私は離宮に入った。


 廊下を歩いてライの部屋に向かっていると正面から一人の女性が歩いてきた。 

 白銀の髪に銀色の瞳、頭にはウサギのような耳がある。レア王妃に間違いなかった。


 こんなところでレア王妃に会うとは思わなかったわね。でも今日はレア王妃に用事がある訳じゃないからここは頭を下げて通り過ぎるか。


 私は廊下の隅に寄り歩いてくるレア王妃に道を譲るようにして頭を下げる。

 すると頭を下げている私の前でレア王妃は歩みを止めて声をかけてきた。


「あら、貴女はマクシオン商会のミア会長さんよね?」


 レア王妃に声をかけられて無視することはできない。私は頭を上げてレア王妃に答える。


「はい。マクシオン商会の会長のミアでございます」


「やっぱり。今日はライガー将軍に会いに来たの?」


「あ、はい。ライと二人で出かける予定をしていて…」


 私は鍛冶師ザキであるエリオットたちに会いに行くとは言えないので言葉を濁す。


 だってエリオットたちは他の王家の人間には知られないようにして来いって言ってたもんね。

 レア王妃にもまだエリオットたちのことは内緒にしないと。


 するとレア王妃はその銀色の瞳を大きく見開いて輝かせた。


「まあ、もうライガー将軍のことを愛称で呼ぶ仲になったのね! 素晴らしいわ!」


「え? あっ!」


 レア王妃に指摘されて私はついライガー将軍のことを「ライ」と呼んでしまったことに気付いた。


 いけない! 王族を愛称で呼ぶなんて普通なら失礼なことだもんね。

 不敬罪って言われてもおかしくないわ! 謝らないと!


「も、申し訳ございません。私のような平民がライガー将軍様を愛称でお呼びしてしまい失礼致しました」


 慌てて私はレア王妃に謝る。

 するとレア王妃はその美しい顔で「クスクス」と小さく笑って私に近付き小声で話しかけてくる。


「大丈夫よ。貴女がライガー将軍をライって呼んだことはタクオスにも内緒にしておくわ。タクオスに話したらそのことでライガー将軍をからかうでしょうから」


 私の脳裏にタクオス獅子王の顔と言動が蘇る。


 確かにあのタクオス獅子王の性格ならライをからかうのが目に見えるようだわ。


「でもミア会長さん。なんでライガー将軍のことを「ライ」と呼んでいるの? 「ライ」というのは確かにライガー将軍の愛称なんだけどその呼び名はライガー将軍のお母様が呼んでいた愛称でライガー将軍はタクオスとか他の家族が「ライ」と呼ぶのを許さなかったのよ。だからタクオスもライガー将軍のことを「ライガー」としか呼べないの」


「え? そうなんですか?」


 ライから自分の母親が自分のことを「ライ」と呼んでいたとは聞いたが他の家族にその愛称で呼ぶことを許してなかったとは思わなかった。


「ええ、そうよ」


「そ、それは知りませんでした。ライガー将軍の方から「ライ」と呼んで欲しいと言われたので…」


「まあ! ライガー将軍が貴女にそう呼ばれたいって思ったのね。素敵だわ。女性に興味のなかったライガー将軍もミア会長さんには自分の大切な愛称を呼ばせるなんてそれだけライガー将軍にはミア会長さんが特別な存在の女性ってことね」


「っ!?」


 レア王妃に私がライの「特別な存在」と言われて思わず言葉に詰まってしまった。


 そ、そうなのかな。それなら嬉しいけど。


 ライに特別な感情を持っていることは自分でも自覚はある。

 この想いはギオンに抱いていた想いと同じだということも分かっていた。


「それでミア会長さんはライガー将軍のことどう思っていらっしゃるの?」


「え? あ、あの、え~と……」


 レア王妃の単刀直入の質問に私はしどろもどろになり顔が赤くなる。


「フフ、その顔はミア会長さんもライガー将軍に好意を持っているのね。素敵だわ。ミア会長さんならライガー将軍のお嫁さんにピッタリよ」


「っ!? い、いえ、私はとてもライガー将軍のお相手になれるような身分ではなく…」


 自分の言葉で私は改めてライと自分の立場を自覚した。


 ギオンの時もそうだったがライはこの国の王弟。私はただの商人の娘。しかも異種族同士。

 たとえ今後ライと両想いになっても結婚はかなり難しい。


 私って何でそんな人ばかり好きになっちゃうのかな。


 思わず私は少し顔を俯かせてしまう。

 するとレア王妃が私の手を取ってギュッと握ってきた。


「大丈夫よ、ミア会長さん。身分の違いや種族の違いなんてたいしたことじゃないわよ。私だって雪兎族だけど獅子王のタクオスと結婚して王妃になったんだもの。大事なのは相手を想う気持ちよ」


 私はハッとして顔を上げてレア王妃を見つめる。

 レア王妃は真剣な眼差しをしていた。その瞳にはいろんな感情が見え隠れしているように見える。


 そうだ、レア王妃も獣人族とはいえ獅子族ではないのに獅子王と結婚した人だ。

 ライがタクオス獅子王とレア王妃の結婚を後押ししたとはいえ何の障害もなく結婚できたわけではないだろう。


「それに私はライガー将軍がお母様だけに許していた自分の愛称を貴女に許すほど貴女に心を許したのが嬉しいの。それは彼が自分の過去の心の傷を乗り越えるために踏み出した最初の一歩だと思うから」


 え? ライの過去の心の傷?

 それって何?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ