第24話 正しい情報が大事です
「獅子王家がカシン王国を治める時代が終わってるだと!? そんな馬鹿な!」
ライは憤慨したように大きな声を出した。
私はライの部屋に行き、鍛冶師ザキである双子のエリオットとレイオットの話をライに伝えたのだ。
ライの怒りは当然よね。エリオットの言葉の真意はまだ定かではないけど獅子王家がカシン王国を治める時代が終わってるなんて獅子王家のライには認められることではないわ。
だがそこで私はその言葉を言ったエリオットのことを思い出す。
エリオットもそう話したところで獅子王家の人間がその話を受け入れられる訳はないと言っていた。
エリオットはライのようにその話を聞いた獅子王家の人間が憤慨すると分かっていたのだ。
まずは真実を詳細にエリオットたちから聞くことが大事だろう。
「ライ。落ち着いてください。エリオットたちの言ったことはまだ真実なのかは分かりません。とりあえず二人に会って話を聞いてからいろいろ判断しても遅くないと思いますが」
「そ、そうだな。その二人に何か魂胆があるのかもしれないが話の詳細を聞いて正しい情報を聞かねば正しい判断は出来ぬ」
金の瞳に怒りの色を湛えながらもライはエリオットたちの話を聞くことには同意してくれた。
さすが国の将軍をしているだけはあるわね。怒りながらも感情に流されずまずは「正しい情報」を手に入れようと考えるなんて。
戦で一番大事なことは「正しい情報」って私のお父様も言ってたし。ライは将軍だから「情報の正しさ」の重要性を知ってるんだわ。
シャナールとして活躍していたお父様は依頼の仕事で一番厄介な案件は「戦」に関する情報だと言っていた。
もし誤った情報を依頼主に伝えてそれが原因で戦禍が広がる可能性もある。
だからシャナールの仕事をする時には何よりも「正しい情報」を依頼主に伝えることを心がけるように私に何度も注意していた。
情報に自分の想いや考えは入れてはいけないと。
「それでそのザキの双子は私だけで話を聞きに来いという話なんだな? ミア」
「はい。他の獅子族の者には秘密でと」
「うむ。兄上にも話せぬか。仕方ない、今日はこの後にカミオンからの話を聞かないとなので遅くなってしまうから明日の朝にザキのところに私を案内してくれるか?」
「分かりました。では明日、またここに来ます」
ライはカミオンとの話もあるので今日はザキの所に行くのは無理だと判断したようだ。
私はライと約束を交わしてライの部屋を出て廊下を歩いて離宮の出口に向かう。
歩きながら先ほどのカミオンのことを私は思い出す。
ライのいとこって言ってたけどさっきの二人の話を少し聞いた限りでは何やら誰かを見張っていたとか不穏な言葉を言っていたわよね。
もしかしたら獅子王家の秘密に関係することもあるかもだからここは二人の話を聞いてみようかしら。
辺りに誰もいないのを確かめて私は自分の血を舐めて透明人間になった。
服を隠して完全に透明人間になると廊下を戻り再びライの部屋にやって来る。
するとちょうどカミオンがライの部屋にやって来た。
ナイスタイミングだわ!
カミオンがライの部屋に入る時に扉を開けたので私はカミオンと一緒にライの部屋に侵入にした。
ライはソファに座っている。
「やあ、ライガー。あの可愛い子ちゃんとはもうやること終わったのかい?」
「カミオン。冗談もその辺にしとけ。本題に入れ。使者を使わず直接お前が俺に会いに来たってことは重要な案件が起きたんだろ?」
カミオンの冗談を受け流しライの表情は真剣な表情だ。
それまでニヤついていたカミオンもライの前のソファに座り真剣な表情になった。
「まあね。ライガーから頼まれてマレオの行動を見張っていたんだけど、マレオが姿を消した」
「姿を消しただと!?」
え~と、マレオってライの異母兄に当たる人物よね。
確か野心家だったから獅子王にすることはできないってライが言ってたはずだけど姿を消したってどういうこと?
「確かなのか?」
「ああ。最後に目撃されたのは王都にある奴の屋敷の一つからどこかに外出したところだ。屋敷の者には夜には帰ると言って出たらしいが行き先は言わなかったそうだ。そして夜になっても帰らず王宮や他の屋敷などにも探りを入れてみたが姿が確認できないんだ」
「姿を消したのはいつだ?」
「今から五日前だ」
ライは何かを考えるように黙り込んだ。
「とりあえず俺の権限でマレオは離宮で病のため静養中と表向きにはしているがそう発表してもマレオは姿を現さない。普段の奴なら俺が勝手にそんなことすれば顔を真っ赤にして怒鳴り込んでくるはずなのにな。何か裏がありそうだろ?」
「そうだな。他に何か奴についての情報はないのか?」
「一つだけ。姿を消す前にマレオの元に見知らぬ蛇族の男が訪ねて来たという報告があった」
「蛇族だと!? 奴らは暗殺を得意とする獣人族じゃないか!」
え? 暗殺を得意とする獣人族がいるの? 蛇族って言ったわよね。
しかもその人物がマレオを訪ねて来たなんて何か物騒な話になってきたわ。