第21話 獅子王の剣のからくりを教えてくれません
「まあね。代々のザキが全て双子だったわけではないですよ。ただ私たち兄弟は鍛冶師の技術を学んだ時にそれぞれ得意分野があったってだけで」
「それが剣を作ることと鞘や装飾を作ることだったってことですか?」
「そういうことです」
レイオットは微笑みながら私の言葉に答えてくれる。
「鍛冶師ザキが双子だと知らない人も多くて私とエリオットは性格がだいぶ違うので『会う度に違うことを言う変わり者』だとか『態度がころころ変わる気難しい人間』とか噂されてしまって…」
なるほど。鍛冶師ザキが気難しいとか変わった人物っていう話はこの二人が双子だったから生まれた噂だったのね。
確かに性格は全然違うけど見た目だけなら見分けがつかないのも納得だわ。
「それで依頼人との揉め事も多くなってしまったので私たちは兄弟だけでこの街に移り住んだんです。まあ、その前にもあちらこちらと放浪しましたが」
「仕方ねえだろ。だけどそのおかげで剣もまともに使えない奴らからの依頼が減ったんだから良かったじゃねえか。鍛冶師ザキの剣を所持してるだけで自慢になるからって金だけで俺たちから剣を買おうとするなんて俺たちを何だと思ってるんだ」
エリオットは昔のことを思い出したのか不機嫌そうだ。
そうね。世間では鍛冶師ザキの剣は高値で取引きされるから商売目的や自分の自慢のために買い求める人間がいるのは分かるわ。
「ミアとか言ったよな。剣の目利きができるってことは商人か何かなんだろ? お前もザキに会いたかったのは剣を購入するためか?」
「いいえ、違います。エリオットさん」
「じゃあ、何の用事だったんだ?」
私はエリオットに質問されて一瞬、理由を話そうか迷う。
獅子王の剣がなぜ獅子王にしか抜けないのか。もしくはなぜ現在獅子王ではないライだけが抜けるのか。
その答えを求めて鍛冶師ザキを探していたけれどこの情報は獅子王家に関する極秘情報だ。
迂闊に話せることではないがここでザキである二人に聞かなければ話は先に進まないのも事実。
「実は獅子王家に関係することで聞きたいことがあって鍛冶師ザキを探していたんです」
「獅子王家?」
レイオットもエリオットも顔を見合わせる。
私は慎重に二人に聞いてみた。
必要な情報は獅子王の剣を獅子王以外の者が抜けないからくりだ。
現獅子王のタクオス獅子王が獅子王の剣を抜けないことを話すかはこの二人の反応を見てからでいいだろう。
ライも言っていたがそのからくりをザキが知っているとは限らないのだから。
「獅子王の剣のことは知ってますか?」
「そりゃ、もちろん。俺たちの先祖が初代獅子王に献上した剣のことだろ?」
エリオットは当然という顔で私を見る。
「そうなんですけど。その剣がなぜ獅子王の剣と呼ばれるかは知ってますか?」
「それは獅子王のみがその剣を抜けるからそう呼ばれていると思いますが」
今度はレイオットが答えた。
とりあえずこの二人は獅子王の剣の意味を知ってるのね。
それなら単刀直入に聞いた方がいいかも。
「もし知っていたら教えて欲しいんですけど獅子王の剣はなぜ獅子王にしか抜けないのでしょうか? 何かからくりがあるならそれを教えて欲しいんです」
レイオットとエリオットはお互いの顔を見ている。
するとレイオットが静かな声で私に向かって逆に質問してきた。
「なぜそのからくりを知りたいのですか? あなたは獅子王家の関係者ですか?」
「私は獅子王家からそのことを調査するように依頼された者です」
「そうですか。そのからくりについて私たちは知っていますがあなたにお話しすることはできません。獅子王家に直接関係する者ではないあなたには」
「それなら獅子王家の人間を連れて来ればお話していただけますか?」
私に話ができないならライを連れて来れば話してくれるかもと私は食い下がる。
レイオットは獅子王の剣のからくりは知っていると言った。
ならばそれを聞き出す方法を考えればいい。
「そうですね…それならば……」
「いいや、レイオット。今の獅子王家の関係者に話したところで俺たちの話を信じる訳ないだろ? 獅子王家の誰が来ても無駄足さ」
今の獅子王家の者に話しても信じないってどういうことかしら?
「それはどういう意味ですか? エリオットさん」
「言葉通りの意味さ。既に獅子王家がこのカシン王国を治める時代が終わってるって話したって獅子王家の者がその話を受け入れる訳ねえだろ」
え? 獅子王家がカシン王国を治める時代が終わってるってどういうことなの!?