第19話 ジオのお兄さんに会いました
「あなたたちは誰! ジオの知り合いなの?」
私は男たちに質問する。
男の一人がニヤリと笑った。
「ああ、そうだ。俺たちはその坊やの知り合いなんだ。その子供の身内に頼まれてその坊やを探していたんだ。子供を俺たちに渡してくれ。姉ちゃん」
こいつらの言っていることは嘘ね。
その話が本当ならジオがこんなに怯える訳ないもの。
ジオは私の服の裾をギュッと握って怯えた瞳で男たちを見ている。
「ジオ。この人たちはあなたの知ってる人たち?」
「ううん。知らない」
小声であるがジオはキッパリと否定した。
「ジオは知らないって言ってるわよ。ジオの家族の所には私がジオを連れて行くからあなたたちはどこかに行って!」
「チッ!うるせい女だな!サッサとガキを置いていけば見逃してやろうかと思ったのによ!」
男は腰の剣を抜いた。
どうしよう!ライは広場の騒ぎでここに私のいることは分からないだろうし。
なんとかジオだけでも逃がさないと。
ジリジリと後ずさりしながら私は男たちの隙を伺う。
男たちは自分たちが三人もいるせいか余裕の表情で私たちに近付いて来た。
「おりゃあ!ガキを渡しやがれ!」
剣を持った男が剣を振り上げた。
殺られる!
私は思わずジオを抱き締め目を瞑ってその場に蹲る。
次の瞬間、男が悲鳴を上げた。
「ぎゃああ!」
な、なに!? 何が起こったの?
恐る恐る目を開けると私を剣で斬ろうとした男は剣を手から落として自らの腕から血を流して呻いている。
男の腕には短剣が刺さっていた。
「こんな所で何を遊んでいたんだ?ジオ」
まだ無事な二人の男たちの後ろから声が聞こえる。
慌てて二人の男が振り返ってそちらを見た。
私もその人物を見る。
外見は10代後半に見える金髪に緑の瞳の男性がそこには立っていた。
そしてまるでおもちゃを扱うように二本の短剣をクルクルと回しながら私たちを見ている。
「エリオット兄ちゃん!」
ジオは嬉しそうにその男性に向かって叫ぶ。
エリオット兄ちゃん? じゃあ、この人がジオのお兄さんなの?
ジオが猛虎族って言ってたからてっきりジオのお兄さんがザキかもって思ったけど勘違いだったのかしら。
いえ、まずはこの状況から脱出するのが先ね。
「クソ!よくもやりやがったな!てめえぇ!」
二人の男は剣を抜いた。
その瞬間、二人の男たちの胸にエリオットが持っていた短剣が突き刺さる。
「ぐあああっ!」
「がはあっ!」
二人の男たちはその場に倒れ込んだ。
死んだわけではないようだが深手を負ったのは確実だ。
この人凄い腕前ね。
短剣だけで相手を戦闘不能にさせちゃうなんて。
「命だけは取らないでおいてやるよ。弟に人を殺すところはあまり見せたくないもんでね」
エリオットは余裕の笑みで男たちに言い捨てるとゆっくりと私に近付いてきた。
どこか冷たい印象を抱かせる表情だがかなりのイケメンだ。
「ジオ。一人で行動するなと言ったろ。帰るぞ」
「うん。ごめんなさい。エリオット兄ちゃん」
ジオはエリオットの方に行こうとして私の顔を見た。
「エリオット兄ちゃん。このミアお姉ちゃんにジオは助けてもらったんだよ」
その時、初めてエリオットは私と視線を合わせた。
「そうか。弟のジオが世話になったな。ありがとう。これはささやかなお礼だ」
エリオットは自分の懐から袋を出しお金を取り出すと私に渡してきた。
「いえ、お金はいりません。そんなつもりで助けた訳じゃないので」
「なら、何か他に望みはあるか?助けられてお礼をしないのは俺の主義に反するんでね」
特に何かを欲しいということはないがジオのお兄さんならこの人もきっと「猛虎族」よね。
それならザキを知らないか聞いてみようかしら。
「望みっていうのはないんですが、あなたは「猛虎族」ですよね? 鍛冶師のザキって人物を知りませんか?」
私が尋ねた瞬間、エリオットの緑の瞳が鋭いものに変わった。
「なんでザキを探しているんだ?」
「え、え~と、ちょっとザキに聞きたいことがあって…」
「聞きたいこととは?」
「それはちょっと本人にしか言えないので。ザキを知っているんですか?」
エリオットは少しの間黙っていたがやがて口を開く。
「ミアとか言ったな。ジオを助けてくれたお礼がザキに会うことならザキに会わせてやるからついて来い。ジオ、行くぞ」
ぶっきらぼうに言い放つとエリオットはジオを抱っこして歩いて行ってしまう。
私は一瞬ついて行こうか躊躇したが少なくともエリオットは敵ではないし、本当にザキのことを知っている可能性が高い。
本来ならライも一緒について来て欲しかったがエリオットはどんどん歩いて行ってしまう。
いいわ、とりあえず私だけでもザキに会えれば。
ライには後で報告してあげましょう。
私はエリオットの後を追った。