第16話 ライの手は温かいです
「ザキがいそうな場所の当てはあるんですか?ライ」
私はライと町を歩きながら聞いてみる。
いくらこの町にいるようだという情報があっても当てもなく町を歩いているだけではザキを見つけるのは難しいだろう。
「うむ。私もこの町にザキがいるらしいということしか分からないのだ。だからまずこの町に猛虎族の者を見かけた者がいないか町の人間に聞いてみようと思っている」
う~ん、それって本当に一からの捜索って感じよね。
そんなことでザキが見つかるのかしら。
かなり時間かかりそうだけどライや獅子王様はそんなに長くこの町に滞在できるのかな?
タクオス獅子王がこの町に来た表向きの理由は静養だと聞いている。
一国の王がいつまでも王都を離れて離宮で静養という訳にはいかない気がするわよね。
そもそも静養中の王の仕事は誰か代わりにやってたりするのかな。
「ザキを探すのは時間がかかりそうですけどその間ずっと獅子王様はこの離宮に居られるんですか?政務とかがあるのでは?」
「ああ。確かになるべく早く見つなければならないが、今現在の政務は王都にいる宰相がやっているから特別な案件ができない限りすぐに兄上が王都に戻る必要はない」
ライはそう説明してくれる。
なるほどね。宰相が政務を代理しているのね。
それでも時間が限られていることに違いないだろう。
「じゃあ、とりあえず人が多そうな所に行ってみますか?ライ」
「そうしよう。確か、今この町の西の広場で『火祭り』をやっているらしいからそこへ行けば人もたくさんいるだろう」
火祭り?火祭りって何かしら。
祭りって言うくらいだから屋台とか出てるような祭りなのかしら。
「火祭りってどんなお祭りかライは知ってるんですか?」
「この時期にこのカシン国の町で行われる祭りだ。カシン国の守護神火の女神ラーシラに祈りを捧げる祭りなのだ」
「カシン国の守護神は火の女神様なんですか?」
「ああ。この国の守護神ラーシラは火の女神であり太陽の女神でもあるとされている。私たち獅子族はその守護を受けている一族だ」
確かにライの本来の黄金の髪と黄金の瞳を見ているとまさに「太陽神」って感じだもんね。
獅子族がその女神の守護を受けてる一族ってのは納得するわ。
「では西の広場に向かいましょうか」
「うむ。では行こう」
私とライは町の西の広場に向かった。
ライの言った通りに火祭りの行く人たちなのか道は人が多い。
ライとはぐれたら大変よね。
気を付けないと。
私がライとはぐれないように一生懸命にライの後について歩いていたらライが突然立ち止まった。
危なく私はライにぶつかりそうになる。
わ!びっくりした。突然立ち止まって何かあったのかな。
「どうかしたんですか?ライ」
するとライが私の方を振り向いた。
そして自分の左手を差し出してくる。
「そ、その、人が多くて、ミ、ミアとはぐれると大変なので、手を繋いでもいいだろうか?」
「え!?」
私は驚いてライの顔を見るとライの目元が僅かに赤くなっている。
「ミ、ミアが嫌なら仕方ないが……」
「い、いえ!嫌なんてことありません!」
自分の心臓がバクバク音を立てているのが分かる。
しっかりしなさいよ!ミア!
たかが手を繋ぐくらいで緊張してどうするのよ!
ライは人混みではぐれないように気を使ってくれてるだけなんだから。
私はおずおずと自分の手でライの手を握る。
するとライはギュッと私の手を握ってきた。
ライの手は私よりも大きくて剣を握るからか少しごつごつした感じの手だ。
でもライの手はとても温かくてなぜか私はドキドキしながらも安心感に包まれる。
ただ手を繋いでいるだけなのにまるで心の中までライの温もりに包まれている気分だ。
「コホン!で、では行こうか。ミア」
「は、はい」
ライは口元に笑みを浮かべる。
自分でも分かるぐらい私は自分の顔が熱を持つのが分かった。
ライの笑顔って素敵よね。
それにライの手ってあったかいなあ。
私はいつまでもこの手を離したくないと強く思った。