第15話 これからはライと呼びます
会長用のテントで待っているとテントの外から声が聞こえた。
「ミア殿。ライガーだが入ってもよろしいか?」
その声はライガー将軍に間違いない。
私は自分も既に目立たない町娘が着るような服に着替えていたのでその言葉に返事をする。
「はい。どうぞ」
テントの入り口が開きライガー将軍が入ってきた。
その姿に私は驚く。
獅子の鬣のような黄金の髪を茶髪のカツラで隠して黄金の瞳も茶色へと変わっている。
顔立ちはライガー将軍なのだがまるで別人だ。
「あ、あの、ライガー将軍様ですよね?」
思わず私は確認するように尋ねてしまった。
「え?ああ、そうだが。そんなに違うように見えるだろうか?」
「え、ええ。茶髪のカツラは分かりますけど、瞳の色はどうやって変えたんですか?」
「ああ、これは以前妖族の者が獅子王に献上した品物の中に入っていた瞳の色を変える薬を使ったのだ。有事の時は獅子王を変装させて逃がさなければならないこともあるからと献上してくれたものだ」
そこで私はギオンたちの事件を思い出した。
ルクセル竜王も妖族の薬師から瞳の色を変える薬をもらって色を変えていた。
きっとそれと同じ薬に違いない。
確かにライガー将軍の言うように何かが起こって王を逃がさないといけなくなったら変装した方がいいだろう。
もしかしたらこの瞳の色を変える薬は本来そのような目的の為に開発されたものかもしれない。
それにしても茶髪で茶の瞳だったから最初は驚いたけどよく見るとライガー将軍のオーラは隠しきれてないわよね。
そこに立っているだけでも他者を圧倒するような王者のオーラは姿を変えても健在だ。
これでは変装の意味があまりない気がしないでもない。
「ミア殿は準備はできているのか?」
「ああ、はい。いつでも出発できます。ライガー将軍様」
私がそう返事するとライガー将軍は「コホン」と咳払いをした。
「そ、その、私をライガー将軍と呼ぶと身分がバレるので他の呼び方をしてくれないだろうか?」
「え?ああ、そうですよね。では何とお呼びすればいいですか?」
するとライガー将軍の頬が僅かに赤くなる。
「わ、私のことは、ライと呼んでくれ」
「ライ様ですね」
「いや、ただのライで…」
そんなに気安く呼んでいいのかしら。
でもライガー将軍がいいって言うんだからいいわよね。
これからはライガー将軍のことはライって呼ぼうっと。
「分かりました。ライ」
「っ!」
ライは自分の口元に手を当てて何かを堪えるような表情をしている。
あれ?なんか私変なこと言ったかな。
「どうかしたんですか?ライ」
「い、いや、私をライと呼んでいたのは私の母上だけでな。母上のことを思い出したのだ」
へえ、そうなんだ。でもそんな特別な呼び名を私が呼んでもいいのかな。
「私がライと呼んでもいいのでしょうか?お母様しか呼ばなかった呼び名なんですよね?」
「そうなのだが…ミア殿にはそう呼ばれたい…」
「え?何ですか?」
ライがもごもごと話すので言葉の後半が私には聞こえなかった。
「い、いや、何でもない。ライと呼んでくれ。それと、私も、ミア殿を敬称を付けずに呼んでいいだろうか?」
「もちろんです。ライ。私のことはミアと呼んでください」
「っ!」
再びライは自分の顔を自分の手で隠すようにした。
いったいどうしたんだろう?
しかしすぐにライは手を顔から外す。
少し顔が赤く見えるがライの表情は普段のものに戻っていた。
「では出発しようか。ミア」
ライに初めてミアと敬称無しで呼ばれて私の心臓がドクンッと高鳴る。
な、なんか、名前を呼び捨てにされるって親密になった気分ね。
思わず私は顔が赤くなるがライにバレないように小さく深呼吸した。
「はい。行きましょう、ライ」
私は何事もなかったかのように表情を整えてライと町の中に向かって歩き出した。