第8話 獅子族の特殊能力が使えません
「それはライガー将軍様は獅子族ではないという意味ですか?」
私は恐る恐る聞いてみた。
「いや、獅子族の血を引いているということだけで考えれば私は確かに獅子族だ」
獅子族の血を引いてるなら何も問題はないんじゃないの?
「それならなぜ獅子族である資格がライガー将軍様にはないなんておっしゃるのですか?」
「それは……ミア殿は獅子族の『特殊能力』を知っておられるか?」
特殊能力?そういえばディオンは獣人族はその種族しか使えない特殊能力があるって言ってたわよね。
他の種族の血が混ざるとその種族特有の特殊能力が使えない子供が産まれる可能性があるから獅子族なら獅子族と結婚するのが普通だって。
でも私は獅子族がどんな特殊能力があるかまではディオンに聞いていない。
「いえ、すみません。獣人族は種族によってその種族しか使えない特殊能力があるということしか知りません」
私が謝りながら正直に話すとライガー将軍は僅かに口元に笑みを浮かべる。
その笑顔に再び私の胸がドキンッとした。
「やはりミア殿は正直者だな」
「い、いえ、不勉強ですみません」
心の動揺をライガー将軍に悟られないように私はなるべく落ち着いた声を出す。
「獅子族が持つ特殊能力は『黄金の雷』と呼ばれるものだ。まあ、簡単に言えば雷撃のようなものを発生させて相手を攻撃したり身を護ったりできる」
へえ、『黄金の雷』なんてライガー将軍のためにあるような特殊能力ね。
見た目が黄金の獅子のようなライガー将軍がその力を使ったら怖いけどきっと美しい気がするわ。
私は自然界で発生した雷を見た時のことを思い出す。
夜空に走る稲妻は怖いという思いとともに私の目には美しいと感じた。
「だがこの能力が使えるのは獅子族でも男のみなのだ」
獅子族の男性だけが使えるのか。
しかし次に発せられたライガー将軍の言葉に私は衝撃を受ける。
「しかし私はこの黄金の雷の特殊能力が使えないのだ」
「え?使えない!?」
私は驚きを声に出してしまう。
だってライガー将軍は自分は獅子族の血を引いてるって言ったのに獅子族の男が使える特殊能力が使えないってどういうこと?
まさかこの姿でライガー将軍が女ってことはないわよね?
頭が混乱した私はライガー将軍を疑いの目で見てしまった。
その私の視線の意味に気付いたのかライガー将軍は慌てたように私の考えを訂正してくる。
「ご、誤解しないで欲しい!私は女ではなくちゃんとした男だ!」
「そ、そうですよね!」
ああ、びっくりしたわ。
このライガー将軍が女だったらどうしようかと思っちゃった。
「私は確かに先代獅子王の息子であり母親も純粋な獅子族だった。しかし私はなぜか幼い頃から獅子族の男なら使える特殊能力が使えない。そんな者が獅子族として獅子王になることはできないと私は獅子王になることを辞退したのだ」
ライガー将軍の顔が僅かに暗くなる。
そうか、そんな理由なら獅子王を辞退したライガー将軍の気持ちも分かるわね。
じゃあ、その代わりにタクオス獅子王が獅子王になったってことかしら?
「ではタクオス獅子王様はライガー将軍様の代わりに獅子王になられたのですか?」
「私の代わりというとタクオス兄上には失礼になるかもだが私が獅子王になれないならタクオス兄上かマレオ兄上のどちらかが獅子王にならなければならない。だがマレオ兄上は獅子王になるには少し性格に難があってな……」
マレオって人は性格が悪かったのかしら?
「身内の恥を晒すようだがマレオ兄上は野心家でな。もしマレオ兄上が獅子王になったら武力で他国を攻める可能性もあったのだ」
「そうなんですか」
異種族同士はそれぞれ自分たちの国を作り他の異種族を排除しようとはしない。
だがそれはあくまで今までがそうだっただけで野心家の国王が王位に就いたら他国を攻めないとは言い切れない。
カシン王国がギオンのいるアインダル王国と戦になったら双方の被害は大きいだろう。
それにそんなことになったら私たちの商売も無事にできなくなってしまう。
「なので父上と相談してタクオス兄上を獅子王にすることにした。そしてタクオス兄上が獅子王の剣を抜けないという事実を隠すために私が護衛の名目でタクオス兄上と行動を常にともにできるよう将軍職に就いたのだ。そうすれば必要な時に私が獅子王の剣を抜いてタクオス兄上に渡すことができるからな」
なるほど。そういう事情があったのか。
「この話をミア殿にしたのは実はミア殿に頼みたいことがあるからなのだが……」
ライガー将軍はその黄金の瞳で私を見る。
吸い込まれるような美しく輝く黄金の瞳を見つめながら私は決心する。
私に頼みたいことってなんだか分からないけど私にできることならこのライガー将軍の力になってあげたいわ。