第7話 獅子王は三兄弟です
「まずはこの王家に伝わる古代剣の「獅子王の剣」について少し説明をする」
「はい」
ライガー将軍は剣をテーブルの上に置いた。
「この剣はカシン王国を最初に築いた初代獅子王が所有していた剣の一つだ」
へえ、初代獅子王が持ってたならかなり古い時代のものよね。
だって獣人族も人間族よりは寿命が長いって以前ディオンも言ってたし。
それにカシン王国は異種族の獣人族の国だから人間が存在する以前に建国されたはずだ。
以前ギオンから聞いた人間族は他の異種族より後に生まれたという話を私は思い出す。
そんな古い時代の剣が残ってるのも奇跡に近いわよね。
それだけでカシン王家がこの剣を大事に受け継いできたことが分かるわ。
「先ほども話したがこの剣を抜くことができるのは獅子王のみだ。逆に言うとこの剣を抜けなければ獅子王に即位することは通常できない」
「え?でも現在のタクオス獅子王様は剣が抜けなくても獅子王様でいらっしゃいますよね?」
「ああ、そうだ。兄のタクオスが現在獅子王であることは間違いない。だがタクオス兄上が獅子王に即位したのには特別な事情があるのだ」
「特別な事情ですか?」
「ミア殿は現在のカシン王家の人物たちを知っているだろうか?」
「すみません。不勉強なものでカシン王家にどのような人物がいるかよく分かりません」
私は失礼を承知で正直に答えた。
本来なら各国の王家の主要人物は覚えておかないといけない内容だが私は父が予想外に早く亡くなってしまったのでこの世界の知識がまだまだ不十分なのだ。
ライガー将軍が「王家の人間も知らないとは」と怒るかと思ったがライガー将軍はそんな私を怒ることはなかった。
「ミア殿は正直者だな。知ったかぶりをされるより正直者のミア殿が私は好きだ」
そんな意味で言ったわけじゃないことは百も承知だがライガー将軍の「好き」という言葉に私は胸がドキドキしてしまう。
落ち着きなさい!ミア。
別にライガー将軍は恋愛の「好き」って言ったんじゃないんだから!
私は自分に言い聞かせるが若干顔が赤くなってしまった。
そんな私を見てライガー将軍もハッとしたような顔をして慌てて声を発する。
「い、いや、今の言葉に深い意味はないので誤解しないで欲しい。すまん!」
「い、いえ、分かってますから大丈夫です!」
私も慌ててライガー将軍に言葉を返す。
ライガー将軍の頬も若干赤くなっている気がした。
「と、とりあえず話を続けよう。獅子王を中心に王族関係者について説明すると現在のタクオス獅子王には弟が二人いる。一人はこの私でもう一人はタクオス兄上と私の間にマレオという者がいるのだ」
私も冷静さを取り戻しライガー将軍の言葉を聞いて頭に入れる。
タクオス獅子王は三兄弟ということね。
「タクオス兄上と私は母親が同じだがマレオ兄上は私たちとは別の母親から生まれた者だ」
なるほど。マレオだけ異母兄弟ってことか。
「そしてそのことが影響したのか、昔からマレオ兄上はタクオス兄上や私のことを嫌っていたのだ」
異母兄弟で仲が悪いってことはよくあることよね。
それ自体は珍しいことではないわ。
「そして私たちの父である先代の獅子王は次の獅子王を誰にするか決める時に自分の三人の息子を一人ずつ部屋に呼び出しこの「獅子王の剣」を抜けるかどうか試験をした」
そうか獅子王になる者はこの「獅子王の剣」を抜けるんだから先代獅子王はそれで跡継ぎを決めようとしたのね。
でもそれなら「獅子王の剣」を抜けたのはライガー将軍ってことになるのかな?
先ほどライガー将軍は自分は「獅子王の剣」を抜けるがタクオス獅子王は抜けないと言ってたことを思い出し私はそう考えた。
「もしかして「獅子王の剣」を抜けた人物は……」
「そうだ。私だけだった。タクオス兄上もマレオ兄上も抜けなかったらしい。当然、父上は私を跡継ぎにと考えたが私は父に言ったのだ。自分は獅子王にはなる資格はないと」
え?「獅子王の剣」を抜けたのに獅子王になる資格がないってどういうこと?
ライガー将軍は正式なこの国の王子だったはずだし何か獅子王になれない理由があったのかしら。
「それはどういうことですか?」
「獅子王になる以前に私は獅子族である資格がないのだ」
は?獅子族である資格がないってライガー将軍は獅子族じゃないってこと?