第5話 有名な鍛冶師の短剣です
ライガー将軍は私の方を見た。
「ミア殿?」
「あ、はい。ミアです」
「なぜ、ミア殿がここに?」
少し不審そうな表情をライガー将軍は見せる。
「あ、え~と、明日の獅子王様たちへの献上品を考えていて獣人族の方たちが何を好むかの調査で町を歩いていたんです」
私は別に隠すことではないので正直に答える。
「そうか。ミア殿はこのカシン王国に来るのは初めてなのか?」
「はい。初めてです。なのでこの国や獣人族のことを知りたいと思っています」
「なるほどな」
「ライガー将軍様はなぜここに?」
「私は手入れを頼んでいた剣を取りに来たのだ」
ライガー将軍は店員に視線を移す。
「私が頼んでいた短剣の手入れは終わっただろうか?」
「はい。ライガー将軍様。こちらでございます」
先ほどの店員は一本の短剣をテーブルの上に置いた。
その短剣は装飾の美しい鞘に収まっている。
あの短剣の装飾はどこかで見たことがあるわ。
ライガー将軍は短剣を鞘から抜いて光に当てるように持ち上げる。
キラリと短剣が光った。
「やはり父上からいただいたザキの短剣は見事だな」
その言葉で私は思い出した。
そうだわ!あれは有名な鍛冶師のザキが作った短剣だわ!
ザキというのはこのカシン王国に住む鍛冶師だがその鋭くも美しい剣は他国でも高値で取引されている物だ。
実戦用としても有能な物だと以前ディオンから聞いていた。
「そのザキの短剣はライガー将軍様のお父様からいただいた物なのですか?」
私が尋ねるとライガー将軍は短剣を鞘へとしまった。
「ああ。先代国王でもある私の父上が私が成人した時にくれた物だ」
そうよね。ライガー将軍は獅子王の王弟だもんね。
それぐらいの剣を所持していても不思議はないわよね。
「あの、タクオス獅子王様も剣などの武器を好まれるのでしょうか?」
私は献上品のヒントになるかもとライガー将軍に聞いてみる。
するとライガー将軍は鋭い視線を私に向けた。
「なぜそんなことを聞くのだ?」
「え?あ、あの、もしそうなら献上品は武器類が良いのかと思いまして」
なぜ鋭い視線を向けられたか意味の分からない私は素直に答える。
なんだろう?聞いてはいけないことだったのかな?
「そうか。ミア殿は献上品を考えていたと言っていたな。もし可能なら少し私と話をしないか?」
「え?は、はい。喜んで」
ライガー将軍は店員に剣の手入れのお金を支払って私を見る。
「私について来てくれるか?」
「はい。分かりました」
私はライガー将軍と一緒にお店を出た。
店の前にはライガー将軍の黒馬がいた。
「ミア殿は歩きか?」
「はい」
「それなら一緒にこの馬に乗って欲しい。帰りはちゃんと送って行くので」
知り合ったばかりとはいえ相手はこの国の将軍。
しかも国王の弟なのだから危険はないわよね。
私はそう判断してライガー将軍の馬に乗った。
ヒラリとライガー将軍も馬に乗り私を乗せて黒馬は走り出した。
どこに行くのかしら?
しばらく走ると馬は町の中央にある大きな宮殿に着く。
そのままライガー将軍は宮殿の門を馬で通過した。
馬に乗っているのがライガー将軍なので門番も馬を止めたりしない。
ここって離宮よね?
ライガー将軍が馬を止めて私を見る。
「ここはタクオス獅子王様たちのいる離宮ですよね?」
「そうだが今日のところは私の滞在する離宮の部屋に来て欲しい」
え?ライガー将軍の部屋に行くの?
私は自分の部屋に来いというライガー将軍の言葉に驚いた。
本当なら知り合ったばかりの男性の部屋に行くのは相手がこの国の王弟の将軍でもお断りする話だが私を見つめる金色の瞳に濁りはない。
「内密な話なのだ。ミア殿」
私は覚悟を決める。
それに何かあったら私には「奥の手」がある。
「分かりました」
私はライガー将軍にそう返事をした。