第4話 詮索はしません
「クソ!」
黒服の男の一人がそう言って逃げ出した。
もう一人の男もその後を追って逃げ出す。
ギオンは彼らを追うことはしなかった。
ギオンは地面に倒れている黒服の男の一人の覆面を取って何かを確認している。
私は恐る恐るギオンに近付く。
「死んだの?」
「ああ。子供が見るものじゃない」
ギオンはそう言って私が黒服の男を見るのを遮った。
「助けてくれてありがとう」
私がお礼を言うとギオンの赤い瞳が僅かに揺れ動いた。
「いや。こいつらは俺を狙ったんだ。巻き込んですまない」
ギオンを狙った?何か狙われる動機があるのかな。
「ギオンは襲われる理由が分かっているの?」
私の言葉にギオンはフイッと顔を私から逸らす。
「まあ、いろいろな」
ギオンは近くの木に繋いであった黒い馬の方に行く。
きっとギオンの馬だろう。
そしてギオンの後ろ姿は「それ以上の詮索はするな」と語っていた。
私も商売柄いろんな事情を抱えた人たちと話すことがあるからこれ以上の詮索はやめようと思った。
ギオンが狙われていたとしてもギオンが敵を倒さなかったら私も巻き添えで殺されたかもしれない。
だからここは素直にギオンに感謝しよう。
「襲われた理由は聞かないけど私の命を守ってくれたのは変わりないから今度は私が貴方にいつか恩を返すわね」
私の言葉にギオンは驚きの表情になる。
「別に恩なんて感じることはない。巻き込まれて迷惑をかけたのは俺の方だ」
「いいえ。貴方が敵を倒してくれたから私は今生きてるわ」
私はギオンの赤い瞳を真っすぐに見つめる。
その瞳には優しそうな光が宿っていた。
「フッ、お前はやっぱり面白い娘だよ。それよりそろそろ自分の仲間の所に帰った方がいいんじゃないか?」
あ、そうだ。あんまり遅いとディオンに怒られちゃう。
「森の出口まで送ってやる」
ギオンはそう言うと私の体を軽々と持ち上げて自分の馬に乗せた。
「きゃっ!」
私は驚いたが慌てて馬の上でバランスを取る。
ギオンもヒラリと馬に乗った。
そして森の中を走り始める。
当然私はギオンと体が密着することになる。
私の心臓はバクバクと音を立てる。
私はこの世界に転生してからも前世でも男性と付き合ったことがないからこんなに家族以外の男性と体を密着させたことはない。
どうか心臓の音がギオンに聞こえませんように。
私がそう思っているとあっという間に森の外に出る。
「ここでいいか?」
ギオンの声が耳元で聞こえてさらに私は狼狽える。
「へ、平気よ。あそこで休憩してるのが私の仲間たちだから」
少し距離はあるが自分の商隊の姿が見えて私はホッとする。
ギオンに馬から降ろしてもらって私は商隊の方に行く前にギオンを見送る。
ギオンは自分の馬に再び乗ると「じゃあな」と言って街道を走り去って行った。
その進行方向は私たちが目指す王都アイルスの方向だ。
ギオンは王都に住んでいるのかもしれないわ。
だったらまた会うこともあるかもしれない。
私が商隊に戻るとディオンに声をかけられる。
「ミア様。何かございましたか?」
「いいえ。何もなかったわ」
正体不明の敵に襲われたとかギオンに会ったことを話すとディオンが心配するのが分かっているから私は黙っていた。
そして休憩を取った私の商隊は王都に向かって出発をした。