第47話 攻撃は雷です
「危ない!ミア!」
ギオンは私を抱き締めたかと思うと跳躍して竜の姿をしたルクセル竜王から離れた場所に着地する。
その瞬間に黒い雷が私が元いた場所に落ちた。
バチバチッと激しい雷がルクセル竜王の身体から発生している。
なるほど。竜の姿の時の攻撃は雷のようなモノで相手を倒すのか。
火を吐く「ファイヤードラゴン」じゃなくて「サンダードラゴン」ってことかな。
私はギオンに抱きしめられながらそんなことを思ってしまった。
最初に王宮に来た時に「竜の姿」になってもいいように部屋も廊下もだだっ広く作られているとディオンから聞いたが確かにそれは正解だ。
ルクセル竜王は竜の姿になったがルクセル竜王の私室も大きく作られているので建物が壊れたわけではない。
ただ家具類はルクセル竜王の身体から発生している黒い雷で破壊されたけど。
スルヴィスやラムセスも黒い雷を避けるようにルクセル竜王から離れた場所にいた。
『許さんぞ、貴様らだけは!この私を馬鹿にしおって!』
竜の姿のルクセル竜王の声が響く。
竜の姿でも普通に話せるようだ。
「クソッ!仕方ない。スルヴィス、ミアを頼む!」
ギオンはそう言って私の身体をスルヴィスに渡した。
私は今度はスルヴィスに抱かれる形になる。
「ギオン!いったいどうするの!?」
「奴が本気ならこちらも本気を出すだけだ!」
私の問いにギオンは答えた。
ギオンの身体が強い光に包まれた。
私は思わず目を瞑った。
強い風が巻き起こり私は目を開ける。
そこにはルクセル竜王と同じくらい大きな赤い鱗に覆われ翼を持つ竜の姿があった。
ギオンが本来の姿に変身したのね!
そしてルクセル竜王と同じくギオンの身体からは赤い雷が発生していた。
『ルクセル竜王よ。お前が罪を認めるなら命までは取らないと考えていたがお前が罪を認めず俺の愛する者たちを傷つけるなら容赦はしない』
ギオンの唸るような声が響く。
「ミア。私にしっかり捕まって。これから竜同士の戦いになるから」
私の身体を抱き締めているスルヴィスが私に向かって言う。
「竜同士の戦いってあの雷をぶつけ合うの?」
「そうだよ。あれはただの雷じゃない。竜が持つ「気」が具現化したものだ。大丈夫、レッドドラゴン種のギオンの方がブラックドラゴン種のルクセル竜王より力が強いからギオンは負けないよ」
そうだ、レッドドラゴン種は最強のドラゴン種だったはず。
だけど私はギオンの言葉に引っかかりを覚えた。
「ルクセル竜王が罪を認めるなら命は取らないと考えていた」とギオンは言った。
確かにルクセル竜王のやった罪は重い。
しかしスルヴィスは言っていた。ギオンはルクセル竜王の実子だと。
ギオンに父親を殺させてはいけない!
私は強くそう思った。
自らの手で父親を殺してしまったらギオンの心はきっと傷ついてしまう。
二人を止めることはできないかしら?
せめてルクセル竜王をおとなしくさせることができたら。
そうだ!あの方法ならイケるかも!
「スルヴィス!協力して欲しいんだけど!」
「協力?」
「あの「赤い縄」を今すぐ作れない!?」
「え?赤い縄をかい?」
「そうよ。ギオンに実の父親を殺させちゃダメよ!どんな罪人でもギオンの父親には変わりがないんだから!」
私は必死になってスルヴィスにお願いした。
ロイバルトを捕まえた時に「赤い縄」はレッドドラゴン種以外のドラゴン種の力を封印できると言っていた。
ならば赤い縄でルクセル竜王の力も封印できるはず。
だってルクセル竜王はブラックドラゴン種なのだから。
「赤い縄ならブラックドラゴン種のルクセル竜王の力を封じることができると思うの!」
「そうか!分かったよ、ミア」
そう言ってスルヴィスは自分の爪で自分の手を傷つける。
傷口から赤い血が流れる。
スルヴィスが何か呪文のようなモノを唱えると流れ落ちる血が「赤い縄」へと変化した。
これがあればルクセル竜王を止められるわ。
「でもどうやってルクセル竜王に近付くんだい?」
「私がルクセル竜王の気をひくからその隙にスルヴィスがルクセル竜王を赤い縄で捕まえて!」
「分かった。気を付けるんだよ、ミア」
「任せておいて!」
私はスルヴィスから離れてギオンとルクセル竜王の間に割って入った。
「ルクセル竜王もギオンも戦いはやめて!」