第42話 証拠は揃いました
私たちは保管庫を出てオルヴァにお礼を言って帰ることにした。
「オルヴァ様。ありがとうございました」
「なに、ギルバードの未来の嫁の頼みとあらばこれくらいなんともないわ。早くギルバードと結婚して子供の顔を見せておくれ」
私はオルヴァの言葉に顔が赤くなる。
オルヴァの中では私とギオンが結婚するのは決定事項になっちゃってるわね。
そしてオルヴァはスルヴィスを見る。
「スルヴィス。お前さんもそろそろ結婚したらどうじゃ?もう昔のことに縛られんでもいいじゃろ」
昔のこと?スルヴィスが結婚しない理由でもあるのかな。
「私は今の生活が気に入っています。馬や牛の世話をしていると独りでも寂しくないですし」
「それはそうじゃが……」
「オルヴァ様。愚かな後継者争いを繰り返したいのですか?」
「うむ……」
スルヴィスはにこやかな笑顔だがオルヴァはどこか哀し気な表情だ。
「まあ、お前さんが幸せならワシが口を出すことではないな」
「今日はありがとうございました。また会える日を楽しみにしています」
「ああ。気を付けて帰るんじゃぞ」
オルヴァはそう言って王族の居住区域の方に行ってしまった。
なんだろう、今のオルヴァとスルヴィスの会話は。
スルヴィスは過去に何かあって結婚もしないで独身なのかな。
それに「愚かな後継者争い」ってロイバルトとギオンとセランドールの争いのことと何か違う気がする。
私はスルヴィスと王宮から外に出た。
王宮は外から入る人物は厳しく検査されるけど中から出る人物はほとんど検査されない。
なので私が袋に入れた帳簿のことを気付かれずに済んだ。
「ねえ、スルヴィス」
「なんだい?」
「貴方はただのギオンの幼馴染なの?」
「ん?そうだよ。それがどうかしたの?」
「オルヴァ様の態度を見てるとなんかスルヴィスを気遣っている気がするんだけど、オルヴァ様とも昔から知り合いなの?」
「まあね。ギオンの幼馴染なんかやってると他の王族とも会う機会があったしね」
「それだけ?」
スルヴィスは私にいつもと同じ笑顔を向ける。
「ああ。私はギオンとラムセスの幼馴染で牧場の経営者さ。それ以上でもそれ以下でもない」
スルヴィスの言葉はどこか自分自身に言い聞かせるような感じだった。
私は気にはなったがあんまり話したくない過去を聞くのは良くないと判断してその日はスルヴィスと別れた。
マクシオン商会の会長のテントに戻って王宮で手に入れた帳簿を確認する。
保管庫ではじっくりと確認できなかったからだ。
え~と、日付は約三年前ね。先代竜王が亡くなった時期と同じね。
「青い貴婦人」を購入するようにとルクセル王子から命令があったと書いてあるわね。
購入理由は「セルヴィス竜王の誕生日の祝いのため」か。
先代竜王ってセルヴィスって名前だったのか。
そこで私は気付く。
先代竜王の名前は「セルヴィス」でスルヴィスとは一字違いだ。
これって偶然かな。でも竜族の名前で多い名前かもしれないし。
私の名前だって人間族の国の「グドリアーナ帝国」では多い名前だもんね。
名前が似ているってだけじゃ、スルヴィスが先代竜王のセルヴィスと関係あるのか分からないな。
まあ、スルヴィスが何者かはとりあえず置いておいて、シャナールとしてギオンに報告しないとね。
先代竜王がルクセル竜王に「毒殺」された証拠はこの帳簿とチャールの家で手に入れた手紙で証明できるだろう。
だけどその前にギオンが殺されてしまっては大変だ。
ギオンには報告と一緒に視察を中止するかもしくは襲撃に備えるように助言した方がいいだろう。
私は急いでマクシオン商会のシャナールとして依頼主であるギルバード王子への報告書を書いた。