第41話 青い貴婦人の購入記録がありました
「確かに以前「青い貴婦人」を大量に購入したことがあったのぉ」
「その書類が保管されている場所は分かりますか?」
「無論知っているとも。だが王宮の売買記録などの書類は関係者以外は閲覧できんはずじゃが」
オルヴァは不審な顔で私を見る。
う!そうよね。王宮に関係ない私が王宮で購入した物の売買記録を見せてくれって言うのは不自然よね。
どうやって説明しようかな。
私が悩んでいるとスルヴィスがまたしても爆弾発言する。
「ミアはギルバードと結婚するから部外者じゃないですよ、オルヴァ様」
「なんじゃと!?あのギルバードと結婚するじゃと?」
ちょっと!まだギオンと「結婚する」なんて言ってないんだけど!
私がスルヴィスに抗議しようとしたらスルヴィスは目で合図してくる。
ここは話を合わせろってことね。
「そうですよ。まだ彼女は成人前なので正式な発表はしてませんけどね」
「そうじゃったのか。しかし、あのギルバードが結婚とはのぉ。だが、ミア殿は人間族なのではないのか?」
オルヴァはそう質問してくる。
オルヴァの疑問はもっともよね。
普通は竜族の王子の妃が「異種族」とは考えにくい。
「オルヴァ様もギルバードの性格を知っているではありませんか。あのギルバードが「異種族」だからと言う理由で好きな女と結婚しないってことはないでしょう」
スルヴィスはさも当たり前のように話す。
私の脳裏に以前聞いたギオンの言葉が蘇る。
ギオンは「好きな女以外と結婚する気はない」とラムセスに話していた。
実際どうなるかは分からないがギオンは私を「正妃」にするつもりでいるのだ。
「そうじゃな。あの男は変に真面目なところもあるし、基本的に自分が決めたことは有言実行の奴じゃからな」
オルヴァは納得したような顔だ。
う~ん、ギオンがいないのに私がギオンの結婚相手とか言っちゃっていいのかな。
オルヴァは仮にも王族の一人のようだから後で「嘘でした」ってことで通じるのかしら。
それにしてもスルヴィスは顔色ひとつ変えないで嘘つくなんてたいした男ね。
「では「青い貴婦人」の購入記録は何かギルバードに関係することなのか?」
「ええ。ギルバードの未来にも竜王家の未来にも関係しますよ」
スルヴィスの言葉にオルヴァは真面目な顔になる。
「そうか。お前が言うならそうなのであろうな。よし、ワシが書類の保管庫に案内してやろう」
「え?オルヴァ様がですか?」
「保管庫のどこにあるかを話したところでお前さんたちが保管庫に出入りはできんからな。ワシなら顔パスじゃ」
「それじゃあ。お願いします」
オルヴァは長椅子から立ち上がり歩き出す。
私もスルヴィスもその後を追った。
王族の居住区域を出てしばらく進むと大きな建物があった。
「ここが保管庫じゃ。これ、鍵を開けよ」
「は!オルヴァ様」
入り口にいた兵士が扉の鍵を開けてくれる。
オルヴァの言っていた「顔パス」というのは本当のようだ。
中に入るとものすごい量の書類が棚に置いてある。
うわあ、さすが王宮の売買記録の帳簿ね。
どんだけあるのかしら。
「こっちじゃ」
オルヴァは棚の隙間を器用に歩いて行く。
私も遅れないようについて行った。
「ほれ、これじゃよ」
オルヴァが一つの帳簿を棚から取り出した。
本当にオルヴァは書類がどこにあるか記憶しているのね。
「これだけの書類がどこに何があるってどうやって記憶したんですか?」
「ん?たいしたことはない。ワシは王宮で売買されるモノの決裁を任されておるんじゃ。その時に帳簿に書いた内容とその帳簿をどこに置いたか覚えてるだけじゃ」
オルヴァは簡単なことのように言うがその記憶力は凡人ではありえない。
これがホワイトドラゴン種の「力」の一つなのね。
私は感心しながらもオルヴァに渡された帳簿を見る。
その帳簿には確かに「青い貴婦人」がいつ誰の命令で購入されたかが書いてある。
さすがにこの帳簿を持ち出すことはできないからある場所を覚えておいて後で取りに来るしかないわね。
私がそう考えているとオルヴァが言う。
「必要ならその帳簿を持って行くがいい」
「え?いいんですか?だって王宮の売買記録ですよ」
私は驚いてオルヴァに言った。
「かまわんよ。それはもう数年前の帳簿じゃし、こんなたくさんの帳簿があればその中の一つが無くなっても誰も気付かん」
いや、それはそうかもだけど。
本当に大丈夫かな。
「帳簿が無くなったことでオルヴァ様に迷惑がかかりませんか?」
今日オルヴァが書類の保管庫に見慣れぬ人物と入ったことは兵士が見ている。
ルクセル竜王にバレてオルヴァが処罰されたりしたら大変だ。
「ワシのことは大丈夫じゃ。ルクセルにワシを処刑する根性はないからな。それにそれがギルバードの未来に必要なら持っていけ」
「ありがとうございます」
私はオルヴァに頭を下げた。
とりあえずこれで先代竜王の「毒殺」を証明できるわね。