第40話 オルヴァに会いました
次の日。私はスルヴィスと王宮の入り口に来た。
今日はスルヴィスが一緒だから「透明人間」にはなれない。
「ねえ、スルヴィス。どうやって王宮に入るの?」
「大丈夫。ちょっと待ってて」
スルヴィスはそう言うと王宮の入り口で人の出入りを管理している役人に何かを話す。
私にスルヴィスの声は聞こえなかった。
「しばらく待ってれば来るから」
スルヴィスは私の所に戻って来てそう言った。
来るって何が来るんだろ。
しばらく待っていると王宮から一人の男性がやって来る。
この人って確か……。
「やあ、ラムセス。久しぶり」
「貴方が来るなんて珍しいですね」
そうだ!この人はギオンの側近で幼馴染のラムセスだわ。
「忙しいのに悪いけどオルヴァ様に会いに来たんだ」
「オルヴァ様に?」
「ああ。王族の居住区域に勝手に私たちでは入れないからね。ラムセスに連れて行ってもらおうと思って」
「それはかまわないですが。この方は?」
ラムセスは私を見る。
私はラムセスのことを知ってるがラムセスとちゃんと顔を合わせるのは今回が初めてだ。
「ああ、彼女はミア。ギオンの奥さんだよ」
誰が、ギオンの奥さんよ!まだ結婚してないわよ!
「もしかしてマクシオン商会の会長のミア様ですか?」
「はい。ミア・マクシオンです」
「そうでしたか。私はラムセスと申します。ギルバード様の側近をしています」
ラムセスは私に丁寧に挨拶してくれる。
「ギオンは今は何してるの?」
「ギルバード様は今執務中だ。私だって仕事中だったんだぞ」
スルヴィスの問いにラムセスは若干怒った感じで答えるが瞳に怒りの光はない。
どうやらラムセスとスルヴィスが幼馴染で仲が良いのは本当のようだ。
「すまんすまん。オルヴァ様に会ったら帰るからさ。案内頼むよ」
「分かった」
ラムセスが歩き出したので私とスルヴィスはその後について行く。
やがて王族の居住区域に入る。
入り口で見張りをしている兵士がいるがラムセスが一緒にいるので止められることはない。
王族の居住区域の中をドンドンと奥まで進んだ。
「オルヴァ様はこの時間は専用の中庭で過ごされているはずだ」
「ありがとう、ラムセス。後は私たちで用事を済ますよ」
「そうか。では私は悪いが仕事に戻るから」
ラムセスは足早に去って行く。
ラムセスは忙しいのね。あのギオンにこき使われてそうだもんね。
「じゃあ、ミア。行こうよ」
「ええ」
私たちが中庭に入ると小さな池の側で長椅子に寝そべっている人物がいる。
髪の色が白い。
見た目も70代に見えるくらいのおじいさんだ。
そして「グオー」といびきをかいて寝ている。
随分、無防備な人ね。
「相変わらず昼寝中か。こんにちは!オルヴァ様」
スルヴィスがオルヴァの肩を掴んで揺らす。
「ん?誰じゃ?」
オルヴァは目覚めて私たちを見る。
その瞳は銀色だった。
うわあ、綺麗な瞳ね。
これがホワイトドラゴン種の特徴かしら。
「なんじゃ、スルヴィスじゃないか。何しに来たんじゃ」
「ちょっと聞きたいことがありましてね」
「ワシはお前に用事はない。昼寝の邪魔するな」
「オルヴァ様。今日はオルヴァ様の好きなモノを持って来たんですよ」
「ワシの好きなモノじゃと?」
そこでオルヴァは私に気付いたようだ。
「誰じゃ?」
「初めまして、オルヴァ様。ミア・マクシオンと申します」
「マクシオン?マクシオン商会の人間か?」
「はい。マクシオン商会の会長です」
「その会長さんが何の用じゃ?」
「オルヴァ様に教えてもらいたいことがありまして。これはお近づきの印です」
私は持って来た「地獄の猛火」を渡す。
「こ、これは!?「地獄の猛火」じゃないか!」
オルヴァは驚きながらも受け取った。
「オルヴァ様。ミアが聞きたいことがあるんだってさ。話を聞いてくれるかな?」
「ん?そうじゃな。お前のことは好かないが彼女の質問には答えてやろう」
オルヴァが私を見る。
その銀色の瞳は全てを見透かしているような瞳だ。
「実は以前「青い貴婦人」を大量に購入した売買記録の書類がどこにあるか教えて欲しいんです」
「青い貴婦人をじゃと?」
「王宮の売買記録の書類を管理している管理簿が火事でなくなったって聞いたのですがどうしてもその売買記録の書類が必要なんです」
私の真剣な声にオルヴァは目を細めた。