第39話 最高の知識を持つドラゴン種です
「それがいるんだよ。ミアはホワイトドラゴン種って知ってる?」
ホワイトドラゴン種?今まで聞いたことはないドラゴン種だわ。
「聞いたことないけどドラゴン種の一つでしょ?」
「まあ、そうなんだけどね。レッドドラゴン種同様に数が少なくてね。レッドドラゴン種が「最強の力」を持ってるとしたらホワイトドラゴン種は「最高の知識」を持つ者とされているんだ」
「最高の知識?」
「単純に言えば頭がいいってことさ」
へえ、初めて聞いたけどドラゴン種によって特徴があるのか。
「頭がいいから管理簿の内容を覚えているの?」
「ああ、そうさ。「知識」は記憶することから始まるからね。他のドラゴン種よりも「記憶力」がいいんだ」
「なら、その人に聞いて管理簿を新しく作成すればいいじゃない。なぜそれをしないの?」
管理簿の内容をその人物が記憶しているならその人物に聞いて管理簿を復元する方法が一番いいやり方の気がする。
火事が一年前なら復元するぐらいの時間はあったはず。
「それがあの人は……ああ、名前はオルヴァというんだけど、ちょっと変わり者でね。普通の方法じゃ自分の知識を教えてくれる人物じゃないのさ」
スルヴィスはちょっと困り顔だ。
変わり者ってどういうことだろう?竜王が命令しても教えてくれないのかな。
「そのオルヴァさんはどこが変わってるの?ルクセル竜王に命じられても自分の知識を教えないってこと?」
「そうなんだ。これはラムセスに聞いたんだけど、火事の後にオルヴァに管理簿の復元の依頼をしたらしいけど、あっさりと断られたらしい。オルヴァは竜王の命令なんて聞かないからな」
「それって処罰されたりしないの?」
「無理だね。オルヴァは竜王族の一人だし。ホワイトドラゴン種の持つ「知識」は貴重なモノだからね。ルクセル竜王だってオルヴァを処罰して失うモノの方が大きいから迂闊に手が出せないんだ」
ふ~ん、そんな人が竜王族にいたのね。
「オルヴァが変わり者って言われているのはある趣味のせいでね。だからミアに協力してもらえばオルヴァから書類の場所を聞けるかなって思ってね」
「ある趣味?変な趣味じゃないでしょうね?」
私はスルヴィスの言葉に警戒する。
「いや大丈夫だよ。ミアに危害が及ぶようなことではない。ただミアにあるモノを手に入れて欲しくて」
「私が手に入れられるモノなの?」
「うん。オルヴァはものすごい「辛い物」好きなんだ」
「辛い物?」
「そう辛ければ辛いほどいい。例えば「地獄の猛火」みたいな」
「地獄の猛火」とはこの世界で一番辛いと言われているスパイスだ。
食べた者は地獄の猛火で喉や内臓を焼かれるぐらいの刺激を受けるとされている。
希少な物なので取り扱う商会は限られている。
でも確かマクシオン商会の商品にもあったはずだ。
私は自分の記憶を辿る。
「それならマクシオン商会の商品にあった気がするわ。ディオンに確認しないと在庫があるか分からないけど」
「それが手に入ればオルヴァは教えてくれると思うよ」
「じゃあ、ディオンに聞いてみるわ。でもスルヴィスってそのオルヴァさんのことといい竜王族の人たちのことをよく知ってるわね」
「私はギオンやラムセスの幼馴染だからね」
そう言えばそうだったわね。
ギオンと幼馴染なら竜王族の関係図や王宮内の情報を聞いていてもおかしくない。
「商品があったらオルヴァさんって人に会いたいけどオルヴァさんは王宮にいるの?」
竜王族の人物なら王宮にいる可能性は高い。
「透明人間」のスキルを使えば王宮侵入なんて楽だけどそれではオルヴァと話ができない。
マクシオン商会の会長でもそう簡単に王宮内には入れない。
「そうだけど大丈夫だよ。オルヴァに会うのは私がなんとかするからさ」
「スルヴィスが?」
「ああ、だからミアは「地獄の猛火」を用意して」
「分かったわ。でも私もオルヴァさんの所に連れて行ってね」
「いいよ。じゃあ、明日また来るよ」
スルヴィスはそう言って帰って行った。
私はディオンを呼ぶ。
「どうかされました?」
「商品の中に「地獄の猛火」がなかったっけ?」
「ああ、僅かですがありますが」
「それをちょうだい。裏の仕事で必要なの」
「承知しました」
良かったわ、在庫があって。
でも「地獄の猛火」が好きなんて確かに変わり者だわ。
あのスパイスは微量でも口から火を噴くと言われるぐらいなのに。
あ、ドラゴンだから「火を噴く」ってことかな。
私はそんなことを考えていた。