第3話 赤毛の男は強いです
「ミアはなんでこの国に来たんだ?」
ギオンの問いに私は少し考えて答える。
「私は商人の商隊と一緒に旅をしているの。この国には商売をするために来たわ」
私は嘘ではない最低限の話をする。
本当はその商隊の主人なのだがそれがバレると攫われて人質にされる危険もある。
商人は裕福であるという考えがこの世界では主流だからだ。
まだ知り合ったばかりのギオンがどういう人物かは分からない。
特に山賊とかという感じは受けないが。
むしろ粗暴な割に高貴な雰囲気がする。
商人の父親から「人を見る目を持て」と散々言われた。
商人は相手が信用できる相手かが重要なのだ。
「そうか。商売をしに来たのか。じゃあ、他の連中は?」
「森の外で休憩中よ」
「お前は一人で森の中に入って来たのか?」
「ええ、そうよ」
「意外に度胸があるんだな」
ギオンはそう言って笑みを見せる。
まあ、私が一人で行動してもディオンが怒らないのは私には「奥の手」があるからなのだが。
普通は少女を一人で森に入らせる大人はいないかもしれない。
森の動物も危険なモノもいるし、盗賊たちだっているかもしれない。
「まあね。私はそれだけ大人ってことよ」
私はわざと胸を張って答える。
「ハハハ、ミアは面白い奴だな」
ギオンはお腹を抱えて笑ってる。
そんなに可笑しかったかしら。
しかし、次の瞬間私はギオンに身体を抱きしめられた。
「っ!!」
「シッ!静かに」
驚いた私が声を上げようとした瞬間、ギオンの真剣な声が私の耳元で囁いた。
え?なに?どうしたの?
私は硬直して動けないでいるとその瞬間森の中から5人の黒服に覆面をした男たちが現れた。
彼らはみんな剣を持っている。
「人の逢瀬を邪魔しちゃいけないって親に習わなかったのか?」
ギオンはゆっくりと私から離れてその黒服の男たちに向き直った。
その声は冷淡でどこか怒りを感じるような声だった。
黒服の男たちはジリジリとギオンと私に近付いて来る。
私はギオンの背中に庇われながら冷静に考える。
ギオンも腰に剣を差しているがまだ抜いてない。
それに普通に考えれば相手は5人でギオンは一人。
私は最悪逃げ出して「奥の手」を使えばいいかもしれないがそれではギオンが犠牲になってしまう。
ギオンを犠牲にするなんてできない。
でも私は剣術はあまり得意ではないし、今は剣を持っていない。
なんとかディオンに報せることができないか。
私はそう考えていると黒服の男の一人がギオンに剣で襲いかかった。
「きゃあ!」
私は思わず叫んで目を瞑った。
「ぎゃあああ!!!」
恐ろしい悲鳴が聞こえた。
私は怖かったが必死に目を開けてみると地面に血を流し倒れているのはギオンに切りかかった黒服の男だった。
ギオンの右手には剣が握られていてその剣先から血が滴り落ちている。
ギオンが黒服の男を斬ったのだ。
「さあ。お次は誰だ?」
ギオンのどこまでも冷静な声に私は背筋がゾクリとするのを抑えられなかった。
私からはギオンの背中しか見えないが彼から出されるオーラに圧倒される。
黒服の男たちは一瞬怯んだようだが再び襲いかかる。
今度は一度に二人だ。
だがギオンはその動きを予想していたかのように自分はほとんど動かず二人の男の剣を軽く弾き飛ばし男たちを斬り捨てた。
「ぐわああ!!」
「ぎゃああ!!」
斬られた二人の男たちは血しぶきをあげて倒れ動かなくなる。
私はその時に気づいた。
ギオンが動かない理由は私が背後にいるからだ。
ギオンは私を守っているのだ。
この男たちの狙いがギオンなのか私なのかは分からない。
だけどギオンが動けば私が男たちに危害を加えられる可能性が高い。
「さて、まだやるか?」
ギオンは余裕を湛えた声で残りの二人の黒服の男たちに言う。
男たちは明らかに動揺していた。
私もまさかギオンがこんなに強いと思わなかったから驚いた。