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第36話 薬師の居場所が分かりました

「へえ、随分と物騒な話だね。でもそれって本当の話かい?」


 スルヴィスはにこやかに酒を飲みながらフォルトに話す。


「ああ、間違いない。私は医師になる時に妖族のマリンダ王国まで行って薬の知識を学んだことがある」

「マリンダ王国まで行ったのかい?」

「まあな。医師には薬の知識は欠かせない。そこで妖族からいろんな薬を教えてもらった時に毒薬についても学んだんだ」

「そうだったのか。でも噂で聞いたが毒薬って「鬼神王」の許可が無いと売買できないんじゃなかったっけ?」


 スルヴィスは首を傾げるようにする。


「ああ、そのとおりだ。だからあの薬師も鬼神王から売買許可を取ってるはずだとは思うんだが……」

「何か気になることが?」

「鬼神王からの毒薬の売買許可は一年に一度更新しなきゃいけないんだが、その薬師は私が知り合ってからアイルスを長く離れた時がない。どうやってマリンダ王国まで行き来してるか分からなくてな」


 私は頭の中でこの世界の地図を広げた。

 竜族のアインダル王国と妖族のマリンダ王国はかなり距離的に離れた場所にある。

 何か特別な移動手段があれば別だが普通の移動手段ではかなり時間がかかるはずだ。

 なのにその薬師は長い期間アイルスを離れていることはないってことは鬼神王の許可を得ずに毒薬を作っている可能性が高い。


「きっと、何か方法があるんじゃない?それとその薬師の名前と店の場所って教えてくれないかな?」

「スルヴィスが薬師に用事があるのか?」

「ああ、こないだ産まれた子馬の体調が悪くてね。妖族はいろんな薬を作るんだろ?馬に効く薬もあるかもしれないから聞いてみようと思ってさ」


 怪訝そうな顔をしたフォルトにスルヴィスはもっともらしい理由を言う。


「そうなのか。それは心配だな。薬師の名前はチャール・ドレドって言って店は普通の民家のような外見だが第三通りのファッカスの宿屋の角を曲がった突き当りの家だ」

「ファッカスの宿屋の角ね。ありがとう、行ってみるよ」

「チャールに会ったら私の紹介だと言えば薬を見せてくれると思う」

「ありがとう。フォルト」


 そう言ってスルヴィスは私の隣りの席に戻って来た。


「ミア。話は聞こえたかい?」

「ええ。チャールという薬師ね。フォルトの話が本当ならかなり怪しいわね」

「そうだね。とりあえず今夜は店もやってないだろうから明日一緒に行くかい?」


 私は考える。

 店の場所が分かれば私の「透明人間」の能力で探った方がチャールが隠していたい情報も得られる可能性が高い。

 スルヴィスと一緒にいたら私は「透明人間」にはなれない。


「大丈夫よ、スルヴィス。チャールのことは私だけで探ってみるわ」

「それはダメだ」


 私が一人で平気だと言うとスルヴィスは真剣な目で私に言う。


「ミアを一人で危険なことさせて何かあったら私はギオンに申し開きができない。ギオンには既に一生かかっても返せない恩があるからね。これでギオンの想い人まで傷つけてしまったらこの命で償っても償いきれないよ」


 え?一生かかっても返せない恩があるの?それってなにかしら?


「ギオンと何かあったの?スルヴィス」


 私が尋ねるとスルヴィスは少し暗い表情になる。

 スルヴィスと知り合ってから彼がこんな顔になるのを見たことがない。


「ミアはギオンの背中の傷を見たことあるかい?」


 そう問われて私は最初にギオンに出会った時に見たギオンの背中の傷を思い出した。


「ええ。知ってるわ」

「あの傷は昔私を庇って負った傷なんだ」

「スルヴィスを庇ったの?」

「ああ、昔、ちょっとした事件があってね。その時に私は殺されそうになったことがあったんだ。だけどギオンが私を自分の身体で庇ってくれた」


 まあ、そんなことがあったのね。

 だから一生かかっても返せない恩があるってことか。


「事件ってどんな?」

「それは秘密。でもだからこそギオンの大切なミアを危険に晒すわけにはいかない」


 スルヴィスをお酒を一口飲む。


 スルヴィスの心配は嬉しいけど「透明人間」のことはスルヴィスには言えない。


「じゃあ、マクシオン商会のシャナールの力を借りるわ」

「シャナール?」

「ええ。マクシオン商会にはお抱えのシャナールがいるの。その人物に探ってもらうわ。マクシオン商会のシャナールはその道では優秀で有名なのよ」

「へえ、知らなかったな。分かった、それならそのシャナールに任せるけど、何か分かったら私にも教えてくれる?」

「いいわよ」


 まあ、そのマクシオン商会のシャナールは私なんだけどさ。


「それにしても……」

「ん?なに、スルヴィス」

「ギオンの背中の傷を見たってことはミアはギオンの「裸を見る関係」ってことだよね」

「そんなことあるわけないでしょ!たまたま見ただけよ!単なる偶然よ!」

「ハハハ、冗談だよ」


 私が顔を赤くして怒鳴るとスルヴィスはいつものように人をからかうように笑う。


 もう、真剣な顔をしていたと思ったらすぐにおちゃらけたり、どっちがスルヴィスの本当の姿なのかな。


 私とスルヴィスは酒場を出てその日は帰ることになった。 


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