第32話 王子たちの出生の秘密です
「それと例の「妖族」の薬師から薬を貰ってきました」
セランドールはそう言ってポケットから小瓶を取り出した。
小瓶の中身は赤い液体だ。
ルクセル竜王はそれを受け取る。
「おお、悪いな。私が直接取りに行ければいいんだが、竜王になってからなかなか暇ができなくてな」
「仕方ありませんよ。父上がお忙しいのは分かっています。それより早くお飲みになった方がいいですよ。瞳の色が変わり始めています」
え?瞳の色が変わる?
私はルクセル竜王を見ると以前はギオンと同じ真っ赤な瞳だったのに今は赤黒くなっている。
最初は光の反射のせいでそう見えるのかと思ったけど違うようだ。
ルクセル竜王は部屋にある鏡を覗き込む。
「本当だな。忌々しいことだ。定期的に薬を飲まないと「赤い瞳」を保っていられないとは不便なことだ」
ルクセル竜王はそう言って赤い小瓶の蓋を開けて中身を飲んだ。
すると赤黒い瞳が綺麗な赤い瞳に変わっていく。
どういうこと?ルクセル竜王の本来の瞳は赤い瞳ではないの?
「私の母上が妖族からこの妙薬を手に入れたから今まで私がブラックドラゴン種であることを隠せていたが。最近は薬の効果が短くなっているからな。私の正体がバレる前にレッドドラゴン種は根絶やしにせねばならぬ」
私はルクセル竜王の言葉に衝撃を受けた。
ルクセル竜王ってレッドドラゴン種じゃなくてブラックドラゴン種だったの!?
自分の母親が妖族からこの瞳を赤くする薬を手に入れたらしいからルクセル竜王は幼少期からこの薬を使って周囲の人に自分をレッドドラゴン種だと思い込ませていたのね。
「父上は幼い頃からお薬を飲んでいらっしゃいますから効き目が弱くなってきても仕方ないかと」
「そんなことは分かってる。まったくあのくそ親父が母上に余計な言葉を言わなければ良かったんだ」
「そうでしたね。確か先代は『レッドドラゴン種以外に王位を譲る気はない』って言ったんでしたっけ?」
「そうだ。歴代の竜王でレッドドラゴン種以外にも竜王になった者はいるのに馬鹿げたことを言い出すから私はレッドドラゴン種のフリをしなければならなくなった」
ルクセル竜王は苦々しい表情だ。
先代竜王は自分と同じレッドドラゴン種に王位を譲るつもりだったのね。
だからレッドドラゴン種のギオンを王位につけようとしてルクセル竜王に先手を打たれて殺害された可能性が高い。
「しかもあのくそ親父は私の妻のレオラに手を出して自分の子供を産ませるなどとんでもない暴挙に出やがって」
「そうですね。ギルバードの母親のレオラは最後のレッドドラゴン種の純粋な血を受け継ぐ女性でしたね。自分の息子の妻に手を出すなど信じられませんよ」
「レオラとくそ親父は同じレッドドラゴン種だったからな。産まれたギルバードがレッドドラゴン種なのは当たり前だ。あのくそ親父はレッドドラゴン種ってことにこだわっていたからな」
ええ!?ギオンってルクセル竜王の息子じゃなくて先代竜王の息子だったの!?
先代竜王がルクセル竜王の妃に手を出してその結果ギオンが産まれたとは驚いたわ。
でもそれならルクセル竜王が先代竜王やギオンを恨んでいる理由は分かる。
そして先代竜王は自分の息子であるレッドドラゴン種のギオンを王位につけようとしてルクセル竜王に殺されることになったのね。
「だが、ロイバルトも馬鹿よのう。自分が王家の血を引いてないなど知らずにギルバードを殺せば自分が王太子になれるなどと思っているのだから」
ルクセル竜王は人の悪い笑みを浮かべる。
ギオンがルクセル竜王の子供ではなく先代竜王の子供だということは分かったけどロイバルトは王家の血を引いてないってどういうことかしら。
「ロイバルトは自分が母親の不貞で産まれたなんて夢にも思っていないですよ」
セランドールも僅かに笑う。
ロイバルトは妃が不貞をして産まれた子供なの?
「まったくマリアンヌの実家が有力な家柄だったからロイバルトが産まれた時は私の子供ではないと分かっていたが私の子供と認めてやっただけなのにな。しかしそれもお前の働きでマリアンヌの実家の権力を奪うことに成功した。セランドール、やはりお前は優秀な私の息子だ」
「恐れ入ります」
なるほどね。ロイバルトは不貞の子供だと知っていてもルクセル竜王が実子と認めたのはロイバルトの母親の実家が権力を持っていたからか。
でも今の話だとセランドールはそのロイバルトを産んだ妃の実家の権力を奪うことに成功したのね。
それなら今後ルクセル竜王がロイバルトを「自分の子供ではない」と王家から追放もできるってことか。
そこで私はルクセル竜王の狙いが分かった。
ロイバルトにギルバードを殺させてロイバルトに罪を被せてロイバルトも処分してセランドールを王太子にするという筋書きなのだろう。
とにかくまずはギオンをロイバルトから守ることとルクセル竜王が先代竜王を殺害した証拠を見つけてルクセル竜王を処罰するのが大事ね。
たぶんルクセル竜王に赤い瞳になる薬を渡している妖族の薬師を見つければ証拠も見つかる可能性は高い。
「それでは父上。私は失礼します」
セランドールがルクセル竜王の部屋を出て行くので私も一緒に部屋の外に出た。
そろそろタイムリミットが来る。
一度戻って妖族の薬師を探してみよう。
私は王宮の外に向かった。