第31話 再び王宮侵入です
私は再び王宮の前までやって来た。
今日も「透明人間」のスキルを使って調査をする予定だ。
私は自分の指に針を刺し血を舐める。
私の身体は透明になっていったので服を隠して王宮の入り口を駆け抜ける。
もちろん誰も気付かない。
さてっと。まずは前回調査できなかったロイバルトを調べるか。
私は王族の住居区域でロイバルトの部屋を探した。
すると廊下を黒髪に黒い瞳の男性が歩いて来た。
どこかで見た青年だ。
あ、そうだ。この人はセランドール王子だわ。
ロイバルトとギオンの異母弟でこの国の第三王子がこのセランドールだったはずだ。
セランドールは一つの部屋の前で止まる。
そこの扉には兵士はいない。
セランドールは扉をノックした。
「誰だ?」
「私です。セランドールです。ロイバルト兄さん」
え?ロイバルトが中にいるの?
「入れ」
「失礼します」
セランドールが扉を開けたので私は滑り込むようにして部屋の中に入った。
その部屋は本棚が置いてあり書庫のような場所だ。
そしてロイバルトがいた。
なんでこんな所にロイバルトがいるんだろ?
しかもセランドールはロイバルトがここにいるって知っていて来たのよね。
「セランドール。父上はまだ気が変わらないのか?」
「そうですね。父上はギルバード兄さんを王太子にする予定に変更はないみたいですよ」
え?この二人の「父上」ってルクセル竜王よね。しかもギオンを王太子にしようとしてるなんてセランドールはそのことを信じているのかな。
「まったく父上も周囲の奴らもレッドドラゴン種だからという理由だけでギルバードを竜王にするなんて間違っている!」
ロイバルトは憤ったように拳を握り締める。
「そうですよ。政治的な能力はロイバルト兄さんがギルバード兄さんより上です。次代の竜王に相応しいのはロイバルト兄さんですよ」
セランドールは静かに微笑む。
待って。このセランドールはロイバルトの味方なの?
「お前が父上の心の内を教えてくれた時は半信半疑だったが、父上の態度を見ているとギルバードを王太子にしようとしているのは確かなようだな」
「そうでしょう?私も父上からギルバード兄さんを王太子にしたいと聞いた時は我が耳を疑いましたよ」
セランドールがルクセル竜王からギオンを王太子にしたいって気持ちを聞いてそれをロイバルトに話したからロイバルトはギオンの命を狙い始めたってこと?
でもルクセル竜王の本心は違う。
ルクセル竜王はセランドールも騙しているのかしら。
「しかしなかなかギルバードを仕留められない。あいつは竜の姿じゃなくとも剣の腕が立つ。まったく忌々しい奴だ」
「そうですね。でもそろそろ仕留めないとヤバいかもですよ。ロイバルト兄さん」
「どういうことだ?」
「今度、王宮で行われる父上の誕生日の祝いの席で父上はギルバード兄さんを王太子に指名するらしいです」
「なんだと!?」
私もセランドールの言葉に驚く。
そんなことはないはずなのに、なぜそんな嘘をセランドールはつくの?
それとも嘘をついているのはルクセル竜王なの?
「今度、ギルバード兄さんは視察の予定が入っています。その時がラストチャンスですよ。ロイバルト兄さん」
「そうか……分かった」
そう言ってロイバルトは部屋を出て行った。
私は少しセランドールの様子をみようと思った。
「フフ、ロイバルトはギルバードより単純で助かるなあ。さて私も次の仕上げにかからないとか」
セランドールは人の悪い笑みを浮かべて部屋を出る。
私はそのタイミングで一緒に廊下に出た。
そしてそのままセランドールについて行く。
どう考えてもこのセランドールが怪しいものね。
それにもう少しギオンの視察の情報が欲しいかな。
だってあのロイバルトの様子じゃその視察の時にギオンを襲撃しそうだもんね。
セランドールが辿り着いた先はルクセル竜王の部屋だった。
セランドールが扉をノックして中から入室許可の声が聞こえた。
私も一緒に中に入る。
中にはこないだと同じようにルクセル竜王がいた。
「なんだ?何か用か、セランドール」
「はい。父上。例の件についてのご報告です」
「ああ、そうか。ロイバルトがギルバードを仕留めたのか?」
「いえ、まだですが今度のギルバードの視察の時がラストチャンスだと話して来ました」
「そうか。ギルバードは意外と用心深いから毒殺するチャンスがない」
ルクセル竜王は悔しそうな顔をする。
「父上。言葉をお控えください。どこに間者がいるか分かりません」
「ん?ああ、そうだったな。やはりお前は優秀だ。お前だけが私の息子だからな」
「恐れ入ります」
え?セランドールだけがルクセル竜王の息子ってどういうこと!?