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第26話 姿を見せるのには意味があります

 ギオンは馬で王都の外に出た。

 しかしそれほど遠くない所に牧場らしき場所があった。

 牧場では馬や牛などがゆったりと草を食べていた。


「へえ。王都の側にこんな牧場があるなんて知らなかったわ」


 王都のアイルスに入るためには三つの大きな門がありそれらのどれかを通って王都に入るのだが私が王都に入る時にはこのような牧場は見なかった。

 なので私が入った門とは違う門を通って外に出たのだろう。


「王都は建物も多くて人も多いが元々アインダル王国はこのような牧場で馬や牛や羊などを育てたり畑を耕して農産物を作ってる場所が多いんだ」


 ギオンは馬のスピードを緩めて説明してくれる。


「なんか、これだけを見ると人間族とあんまり変わらない生活のような気がするわ」

「まあ、別に「竜族」だからって他の異種族や人間族とそうは変わらないぞ」

「他の異種族も似たような所なの?」


 私はまだ「商人の町」と竜族の「アインダル王国」しか知らない。

 本での知識はあってもそれがそのままその国の現状を表しているとは限らないのだ。


「そうか、ミアはまだ他の異種族の国には行ったことがないんだったな」

「そうなの。だから今回は少しゆったりとした商売の旅にしてるわ」


 今回の旅の目的は商売をするということも重要だが、一番の理由はマクシオン商会の会長が代わったことの挨拶と私自身がこの世界の国々を知るということだ。

 この世界にも飛行機とか列車があればもっと早く国々を回れるかもしれないが人間は基本的に移動は馬か馬車になってしまう。

 そのために私のお父様も一度商売の旅に出るとなかなか帰って来なかった。

 もしかしたらこの世界は人間にとっては広すぎるのかもしれない。


 そこでふと私は思い出した。

 「竜族」というのは普段は人間に近い姿で暮らしてはいるが元々の彼らの姿は「竜」だということ。

 本の中の挿絵で「竜」の姿は見たことはあるが本物の「竜」の姿を見たことはない。

 ギオンは竜族の王子なのだから当然「竜」の姿がギオンの本来の姿ということになる。


 私は馬上でギオンの顔を見る。

 ギオンは赤い髪に赤い瞳であることを除けば人間と変わらない。


「ん?どうかしたか、ミア」


 ギオンは私が自分の顔を見ていることに気付いて声をかけてくる。


「ギオンって竜族よね?」

「あのなあ、今更そんな質問するのか?」


 確かにギオンの正体がギルバード王子だって知っている段階で確認するようなことではない。


「いえ、そういう意味じゃなくて「竜族」は本来は「竜」の姿をしているって聞いたから気になって」

「まあ、その通りだがそれの何が気になるんだ?」

「ギオンの「竜」の姿を見てみたいなって思ったの」

「はあ!?」


 王宮の部屋や廊下などがだだっ広いのは本来の竜の姿になった時に建物を壊さないような設計になっているからと聞いてはいたので竜がそれなりに大きな姿なのは想像はできる。

 だけど普段はギオンのように人の姿をしているからこの姿からどうやって「竜」になるのか想像できなかった。


「ねえ、竜の姿を見せてくれない?」

「お前なあ。本来の竜の姿を相手に見せるという「意味」が分かって言ってるのか?」


 竜の姿を見せる意味?

 え~と、確かディオンは竜の姿になると竜の本気の力を出せるって言ってたよね。


「竜の姿になると竜の持つ「力」が使えるんでしょう?それぐらいは知っているわ」


 私は胸を張って答える。


「……もう一つの意味は?」

「え?もう一つの意味?」


 竜の力を使える以外に他に何か意味があるのだろうか。


「他に何か意味があるの?」


 ギオンは私の問いかけに長い溜息をつく。


 何だろう、何か大切な意味があるのかな。


「まあ、ミアは人間族だから知らないとは思ったがな……竜は最大の愛情表現を示す時にも愛する相手に自分の本来の姿を見せるんだ」

「え?力を使うだけじゃないの?」


 最大の愛情表現を示す時も本来の姿になることがあるってことは戦う以外の時にギオンが私に竜の姿を見せるならそれはギオンが私を「愛してる」という意味だ。

 私はそのことに気付いて顔が赤くなった。


「そ、それなら別に見せてくれなくていいわよ」


 私の慌てる様子を見てギオンは人の悪そうな笑みを浮かべる。


「もっと言うとな。その行為は姿を見せた相手と「子作りしたい」って意味もある」

「ええ!?」


 私は更に顔を赤くして驚く。


「ミアがどうしても俺の竜の姿を見たいなら見せてやってもいいが……その後の保障はできないぞ」

「見せなくていいから!」


 私は首をブンブンと横に振った。

 「その後の保障ができない」の意味が分からない私ではない。


「ハハハ、まだミアには手を出さないよ。少なくとも今はいろいろ周りがうるさいからな」


 ギオンの言葉に私はハッとなる。

 ギオンは周囲から命を狙われてる立場だし私を「正妃」に望むことでも周囲は黙っていないだろう。

 私は考える。私との結婚の話は置いておいてもギオンが命を狙われる今の状況はどうにかしたい。

 私は意を決してギオンに質問してみた。


「ギオンって自分の命を狙われる理由を知ってるの?」


 それまで笑っていたギオンの顔が真面目な顔になった。


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