第25話 異種族婚には壁があります
マクシオン商会に戻るとディオンがいた。
「ミア様。どこに行ってたかは予想はつきますがギルバード様とのことはいかがなされるのですか?」
ディオンの心配は私がギオンと恋仲になって結婚するようなことになった場合の今後のマクシオン商会の商売をどうするのかということだろう。
ギオンの気持ちは王宮で聞いてはいるし私としてもギオンのことは好きだ。
でも結婚となれば話は別だ。私はマクシオン商会の会長だし、ギオンは竜王族の第二王子。
身分も違えば種族も違う。
ただ好きという感情だけでは結婚はできない。
私は前世の日本のことを思い出す。
日本で生きていた頃は特に身分や人間以外の種族の存在について考えることはなかった。
だがこの世界ではまず異種族という壁が存在し、それ以外にも身分差という壁もある。
「心配しなくていいわよ。ディオン。私は自分の身分や異種族婚の問題はちゃんと分かっているから」
「そうですか……私もけしてミア様が結婚を望むならどのようなお相手でも頭から反対する気はありません」
ディオンはそう言って私の想いを尊重してくれる。
異種族婚は禁止されているわけではないがそれに伴う影響があるのはあのラムセスという男性が言っていたとおりだ。
異種族婚で産まれる子供はどちらかの種族に偏って産まれることが多い。
もしギオンと私の子供であれば竜族か人間族かに分かれる。
そして竜族の血を引いてもその子供がギオンと同じレッドドラゴン種である可能性はさらに低い。
ルクセル竜王はレッドドラゴン種でも三人の王子の中でレッドドラゴン種はギオンだけということを考えればもしかしたらレッドドラゴン種は遺伝しにくい血なのかもしれない。
「ありがとう。ディオン。でもギオンとのことは置いておいたとしても竜王族に関しては「裏」の仕事で少し調査する必要があるのよ」
「そうでしたか。承知しました」
ディオンはそう言って部屋を出て行った。
「シャナール」への依頼内容はディオンも知らないが私が「裏」の仕事と言っただけでディオンはそれ以上詳しいことを聞いては来ない。
私は改めて自分の机に座って今回のことを考える。
ルクセル竜王はなぜギルバード王子を殺そうとしているのか。そしてルクセル竜王はロイバルト王子と繋がっているのか。
先代竜王を殺害したのはルクセル竜王の可能性が高いがなぜ先代竜王を殺害する必要があったのか。
その動機と思われる先代竜王はなぜ息子のルクセル竜王に王位を継がせず孫のギルバード王子に継がせようとしたのか。
もしルクセル竜王が先代竜王を殺したのならその証拠も欲しいところだ。
「とりあえずまた王宮に忍び込んで情報を集めるしかないわね」
マクシオン商会はまだしばらくはこのアイルスで商売を続けるつもりだ。
その間に調べられればいいだろう。
「でもギオンは先代竜王がなぜ殺されたと思ったのかしら?」
ギオンには自分がマクシオン商会の会長ということはバレているがまだ「シャナール」が私だとは思っていないだろう。
なんとか誤魔化しつつギオンが先代竜王が殺されたと思っている理由が聞けないだろうか。
私はそんなことを考えながらこの日は就寝することにした。
次の日のお昼頃。
私は他の商人との取引きの話をしていてそれも一段落がついた。
「やっぱりいろんな商品の取引をするのは大変ねえ」
「他の商人たちもマクシオン商会と取引を願う者は多いですからね。お疲れ様でした、ミア様」
ディオンがそう言って私に果物のジュースをくれた。
冷たいジュースで喉を潤して私は一息をつく。
そこへテントの外から声が聞こえる。
「ミア。いるか?」
その声は間違いなくギオンの声だ。
私は慌ててテントを出る。
テントの外にはギオンがいた。
「ギオン!あ、え~と、ギルバード様だっけ」
私が言い直すとギオンは苦笑する。
「俺は「ギオン」だ。今まで通りそう呼んでくれ」
「でも……」
「ここにいるのはお忍びみたいなものだからな。こんな姿で「ギルバード」なんて呼ばれたら周囲の連中に正体がバレるだろ」
「それは分かるけど……お忍びって毎日するようなモノなの?」
ギオンとは昨日も会っている。正確には一昨日から昨日にかけてだが。
そんなに王子というのは自分の自由になる時間があるのだろうか。
私はそんな疑問を持つ。
「まあ、固いこと言うなよ。俺の側近は優秀だからたいがいの仕事は代わりにやってくれるんだ」
「それって自慢にも何にもならないわよ」
「ハハハ、別に自慢はしてないさ」
ギオンは面白そうに笑う。
きっとギオンの側近ってあのラムセスって人のことよね。なんかこき使われて可哀そうな気がするわ。
「それで今日はどうしたの?」
「ああ。実は今日は知り合いの牧場で子馬が産まれたから見に来ないかと誘われてな。良かったら、ミアも子馬を見に行かないかと思ってさ」
「まあ、子馬?私は動物が好きだからぜひ行きたいわ」
「仕事は大丈夫か?」
「うん。今日の分は終わったから。私にも優秀な側近がいるから後は私がいなくても大丈夫よ」
ディオンには悪いが私はギオンと出かけたいのでそんな風に答えた。
「そうか。じゃあ、行こうぜ」
「ええ」
私はギオンの馬に乗って出発した。