第24話 ギオンは妾妃を持ちません
「確かにミアとは一緒だったが俺はまだ手を出してないぞ」
ギオンはラムセスに向かってそう言った。
ラムセスは僅かに笑う。
「ギルバード様は意外と真面目ですからねえ。でも相手は人間族とはいえマクシオン商会の会長ですから妾妃にするぐらいならそんなに反対は出ないと思いますが」
私はラムセスの言葉に驚いた。
少なくともこのラムセスという人物はギオンと一緒にいた私の正体を知っているのだ。
「マクシオン商会に伝令を出すためにお前にはミアの正体は話したが他の者に言うなよ」
「承知しました」
「それに俺は妾妃を持つ気はない」
ギオンは不愉快気な顔になる。
妾妃は持たないってことはやっぱり私と結婚したいってのは冗談だったのね。
まあ、でも竜王族が人間の女性を妾妃とはいえ持つというのはあまり好ましくはないもんね。
私は少し寂しい気持ちになる。
それに私もマクシオン商会の会長を辞める気はないし。
「ミアは俺の正妃にするつもりだ」
「は?」
ラムセスはギオンの言葉に驚いたようだ。
もちろん私も驚いた。
ちょっと待って!私がギオンの正妃って、そんなの無理よ!
妾妃なら国民も納得するかもしれないけど竜王族の王子の正妃が人間族の女なんて竜族の国民が納得するわけないじゃん!
しかもさっきギオンは妾妃を持つ気はないと言っていた。
王族だからと言って妾妃を持たなければならないことはないが唯一の妃が人間族の女では皆反対するだろう。
「それはミア様を正妃に迎えて他に妾妃を迎えないということですか?」
「そうだ。俺はミアだけでいい」
「それはなりません!ギルバード様」
ラムセスは強く反発する。
その反応は当たり前だ。
「ギルバード様はレッドドラゴン種なのですよ?次代の竜王になるかは置いておいたとしてもレッドドラゴン種の血を絶やすことはできません!」
「別に竜族と人間の間にだって竜族の者は産まれるだろう?」
「確かにそうですが異種族婚をした者の子供が竜族の子供である確率はかなり低くなります。そしてその子供がレッドドラゴン種である確率はさらに低くなるのですよ?」
「そんなことは分かってる。だが別にレッドドラゴン種が滅んだとしてもそれはそういう運命なんだろうよ」
「ギルバード様!」
「いいか、ラムセス。俺は好きな女以外との間に子供を作る気はない。これだけは譲れない」
ギオンはキッパリと言い切った。
好きな女って私のこと?ギオンはそんなに私のことが好きなの?
私は熱烈な告白を聞いたようで顔が赤くなった。
でもちょっと嬉しいな。
たとえ実際にはそんなことは実現不可能でもギオンのことは私も好きだしギオンの気持ちは嬉しい。
「はあ。まったく貴方という方は昔からご自分の意見を変えたことはないですよね」
「それが分かってるなら俺が本気かどうかも分かるだろう?」
「そんなにミア様に惚れたのですか?」
「ああ。自分でも驚いている。でもまだミアは人間としても成人してないから結婚自体は先になるだろうが」
「お相手の方はギルバード様との結婚を承諾しているのですか?」
「いや、まだだ。だから今ミアを口説いているんだ」
そう言ったギオンは嬉しそうな笑みを浮かべる。
対照的にラムセスは「頭痛の種ができた」と言った表情だ。
そして私はそろそろ透明人間でいられる時間が少なくなってることに気付く。
ギオンの気持ちを聞けて嬉しいけど一度戻らないといけない。
王宮内で透明人間から元に戻ったら大変なことになる。
それにまだまだシャナールとして調査しなければならないから時間を見てまた王宮に来よう。
私は一度王宮から抜け出して自分の服を隠した所まで戻った。
すると私の体は元に戻る。
とりあえず今日の調査はここまでにして今回のことで分かったことを整理しようっと。
私はそう思いながらマクシオン商会に戻った。