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第1話 旅の始まりは竜王の国からです

「ディオン。王都のアイルスはまだ着かないの?」


 私は自分の栗毛の馬に乗りながら私の少し前を馬に乗って歩いている青年に声をかける。

 青年は私の声が聞こえたのか自分の馬の歩くスピードを落として私の横に自分の馬をつける。


「ミア様。王都のアイルスまではもう少しですよ。お疲れになられましたか?」

「別に疲れてはないわよ。退屈なだけ。だってアインダル王国に入国してからもう三日も移動してるのに」


 私は乗馬は幼い頃から得意なので馬に乗ること自体に不満はない。


 どちらかというと馬を駆けて先を進みたいが商隊を引き連れての旅で使用人の中には歩いている者もいるので馬で先に行くことはできない。


「ミア様。ご出発前に申しましたとおり、商売をしながらの旅には時間がかかります。商品を持っての移動ですからね」

「そんなこと分かってるわよ。一度聞けば私は理解できるわ。私はもう14歳なんだから」


 私はディオンにふくれっ面を見せる。


 それに私は前世での26年間の記憶があるんだからね。

 この世界では14歳だけど前世の年齢を足したら40歳なんだから!


 子供扱いしないでちょうだい。

 あ、でも40歳じゃ単なるおばさんになっちゃうわね。


 ダメダメダメダメ!!今のはナシ!!

 年齢を足すのはやめるわ。

 ここは普通に成人としての知識を持っているってことにしましょう。


 そう。私はこの世界に前世の記憶を持って転生した。


 前世では日本に住んでいたが26歳の時に車に轢かれてあっけなく死亡。

 あの時、横断歩道を歩いていた私を轢いた車の運転手の顔は今でも覚えている。


 あのくそ親父!絶対生まれ変わったら復讐してやる!と心に誓っているが私の執念が実って転生はしたけどここは日本ではない。


 日本どころか地球でもない。異世界だ。

 よく小説で異世界の物語は読んでいたがまさか自分が異世界に転生するとは思わなかった。


 そしてこの世界での私の名前はミア・マクシオン。マクシオン商会の会長の一人娘として生まれた。


 母は幼い頃に亡くなりマクシオン商会の会長であった父も半年前に亡くなり私はマクシオン商会を継いで会長になった。


 だがこの世界の成人は男女ともに18歳。現在14歳である私は会長ではあるが未成年であるため商会を継ぐのには後継人が必要だった。


 その後継人が今、私の隣りで馬に乗っているディオン・ルード。38歳の茶髪に茶の瞳の男性。


 まあ、見た目はそれなりの整った顔をしているし、ディオンは私の父の右腕としてマクシオン商会を動かしていた人物で信頼も実力もある。

 私には年の離れた兄貴的な存在だ。


 マクシオン商会は商人の間では知らない者はいないぐらいの大きな商会だったのでいろんな国の王族や貴族などとも取引があった。


 そのため会長が代替わりした挨拶をしがてら商売をしながらの旅に出ることになってこのように商隊を引き連れての旅に出発したんだけど、私は自分の考えが甘かったことを知る。


 父が生きてた頃は私は自分の生まれた「商人の町」から出たことがなかったから、この世界の国々のことは地図上でしか知らなかった。

 旅に出て分かったのはこの世界は広いということだ。


 いや、もし飛行機とか鉄道とかあったら別だったかもしれないがこの世界では基本的に馬や馬車や徒歩での移動が中心だった。


 最初の訪問国であるアインダル王国の国境の検問所を通ってから三日かけて移動してもアインダル王国の王都のアイルスには着かない。


「はあ、世界がこんなに広いとは思わなかったなあ」


 私が愚痴るとディオンは苦笑交じりに私を見る。


「先代の会長も一度、商売の旅に出るとなかなか帰って来なかったはずですが?」

「それは分かってるけどさあ………。なんか、面白いこと起こらないかなあ」

「旅は安全が第一ですよ。何も起こらないことが一番です」


 ディオンは私を諭すように言う。


 確かにディオンの言っているとおりだと思う。

 商隊にとっては途中で盗賊とかに会わないようにするのが普通。

 私の商隊も護衛の傭兵を雇っている。


「ねえ、ディオン。今の『竜王』ってどんな人?」

「竜王様ですか?そうですねえ。今のルクセル竜王は在位して間もないですが商人の情報では政には可もなく不可もなくっていうのが主流ですね」


「つまり凡人ってこと?」

「まあ、言葉を選ばなければそういうことでしょうか」


 商人たちの情報網は馬鹿にはできない。商売での鉄則は情報をいち早く得ること。

 情報を制する者こそ勝者となることは私自身がよく知っている。


 だから私の裏の商売も成り立つんだもんね。


 私はディオンに気付かれないように小さく笑う。


「でも今の竜王様はレッドドラゴン種と聞いてますから力は強いと思いますよ。竜族の中ではレッドドラゴン種が一番強いですから」

「へえ、レッドドラゴン種なんだあ。今は希少な存在だって聞いたけど」

「そうですね。レッドドラゴン種は他のドラゴン種に比べてかなり希少な存在ですね」


 ディオンの説明に私は少し竜王に興味を示す。


 そう。この異世界では私のような人間以外に様々な異種族が暮らしている。

 人間の他に竜族、獣人族、魔族、翼人族、海龍族、妖族などがいる。


 彼らは基本的にこの大陸を中央部分で分断するシャガー大河の東側に自分たちの国を作って住んでいる。


 人間は大陸の西側の『勇者王』が治めるグドリアーナ帝国に基本的には住んでおりシャガー大河を挟んで他の異種族とは距離を置いて暮らしている。


 だが商人の取引相手は人間だけでなく異種族も含まれる。


 どちらかといえば異種族の国々を回って商売した方がいろんな珍しい品物も手に入るため商人は好んで異種族と取引をしていた。


 マクシオン商会も例外ではない。

 そのために今、私たちは竜族が住んでいるアインダル王国に来たのだから。


「王都に入る前に一度休憩を取りましょう。皆の者!一時、休息をとる!止まれ!」


 ディオンはそう言いながら商隊の先頭の方に馬を走らせる。

 商隊はディオンの命令で歩みを止めて休憩に入る。

 商隊の休んでいる場所の右側には小さな森があった。


「ディオン。ちょっと森の中を散策してくる!」


 私は自分の馬から降りて森の方へ向かう。


「ミア様!お一人では危険ですよ!」

「大丈夫!いざという時は『奥の手』を使うから!」


 私がそう言うとディオンは仕方ないなという顔で私を見たが私を追ってくることはなかった。

 ディオンには私の『奥の手』のことを話していたからだ。


 私は新しい物を見るのが好きだ。

 新しい物は自分の探求心を刺激する。


 アインダル王国に来たのは初めてだから森の中にも珍しい植物があるかもしれない。

 そう思って私は森の中に入って行った。


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