第17話 歴史は国によって違います
「ねえ、ギオン。聞きたいことがあるんだけど」
「俺に答えられることなら何でもいいぞ」
私はギオンの言葉に引っかかりを覚える。
ギオンは「俺に答えられること」と言ったがそれは裏を返せば「答えられない質問には答えない」ということだ。
その言葉で私はギオンがただの人物ではないことが分かる。
さっきは自分と結婚すれば豪華な生活ができるって言ってたし、ギオンっていったい何者なんだろう。
まあ、でも今は竜族の歴史を聞くことが先ね。
「竜族の歴史について教えて欲しいんだけど」
「竜族の歴史か……。まあ、別にかまわないさ。竜族はこの大陸に存在する他の獣人族、魔族、翼人族、海龍族、妖族と同時期ぐらいから存在している」
ん?今の中に人間族は入っていなかったよね。
「ギオン、人間族はその中に入ってないの?」
「人間族は他の種族よりずっと後に生まれた種族なんだ。人間族以外の種族は今のように大陸の東側に住んでいて今みたいに交流はなくお互いに干渉はしないって感じだった」
「へえ、そうなんだ」
「竜族の初代竜王はレッドドラゴン種で圧倒的な力で他のドラゴン種を従えていた。だから今でもレッドドラゴン種は最強のドラゴン種と言われてる」
なるほどね。初代竜王からレッドドラゴン種の血が竜王家に流れているのか。
でも人間族って他の種族より後に生まれたなんて人間族の歴史では習わなかったなあ。
私は自分が「商人の町」にいた頃に人間族の歴史について勉強したが人間族は偉大な「勇者王」がバラバラに生活していた人間たちを集めて人間族の国であるグドリアーナ帝国を築くことから始まっている。
そして「勇者王」のおかげで他の異種族から人間は守られていると歴史書には書いてあった。
人間族の歴史書は「勇者王」に都合の良いように書かれているのだろう。
歴史なんてものは習う国や種族によって違うのは当たり前のことかもしれない。
だって自分たちこそ「特別」と思う種族は多いだろうから。
それに私は人間を守ると言っていた「勇者王」が大予言者ミアの「予言の子」を恐れて子供を虐殺したことを父から聞いている。
本当に「勇者王」が国民にとって「賢王」であるならばそんなことはしなかったはずだ。
「勇者王」って名前を改名した方がいいんじゃないかな。「虐殺王」とかにさ。
「だが、長年お互いに干渉してなかった異種族たちも人間族の商人が現れたことで関係が変化した」
「人間族の商人が現れたら何か変わったの?」
「ああ、人間族が大陸の西側に国を築いたことは竜族も知っていた。別に竜族の土地を脅かすことがなければ竜族にとって人間族が何をしようと関係ない」
「そういうものなの?」
「元々、人間族以外の異種族は自分たちの生活が守られれば別に他国に攻め込もうとかは考えない。人間族は違うようだがな」
ギオンはそう言って私を見てニヤリと笑う。
そうね。人間族は隙あらば異種族の土地も征服しようとしているとディオンが言ってたもんね。
「だが人間族の商人たちは別だ。彼らは他の異種族や人間族とか関係なくいろんな品物をこのアインダル王国に持ち込んで商売を始めた。そのおかげで異種族の国同士が交流することでお互いに利益になると判断されたんだ」
「なるほど。それで今みたいに商人たちが商売をしながら国々を回るようになったのね」
「そうだ。だからどこの国に行っても人間族の商人は大事にされる。物流が活発になって経済効果も大きいからな。だからミアも商人の先人たちに感謝しろよ」
「分かってるわよ」
自分が商売をすることで各種族の生活が良くなるなら商人冥利に尽きるってものだ。
「それで今の竜王様も商人を歓迎してくれるのね。今のルクセル竜王様ってどんな人か知ってる?」
「…………」
私がギオンに尋ねるとギオンは黙り込んだ。
ん?どうかしたのかな?ギオンはレッドドラゴン種だから竜王家に近い身分かなと思ったけど違うのかな。
「竜王なんてどうでもいいだろ?ミアの口から他の男の名前を聞きたくない」
「はあ!?」
ギオンの一言に私は呆れた。
「別にルクセル竜王様のことは何とも思ってないわよ」
「それでも気に食わない」
あんたは子供か!
「それよりミアのことを教えてくれよ」
ギオンは優しい赤い瞳で私を見つめる。
はあ、ルクセル竜王の情報が欲しかったけど仕方ないわね。
あんまりギオンの機嫌を損ねたくはない。