第14話 竜王への謁見です
私たちは謁見の間に通される。
謁見の間も他と同様にやたらと広い部屋だ。
ホントに竜の姿になっても大丈夫なようにとは言ってもこんなにでかい部屋が必要なのかしらね。
私はそう思いながらも中央の玉座に座る人物を見ないように頭を少し下げて進み玉座の前に来た。
私が一礼をするとルクセル竜王が声を発する。
「頭を上げよ」
その言葉に私は頭を上げて初めてルクセル竜王の姿を見てハッとする。
見た目は30代半ばくらいの男性だがその髪は燃えるような赤い髪に赤い瞳をしている。
ギオンと同じ赤い髪に赤い瞳だわ。
確か、ルクセル竜王ってレッドドラゴン種だったわよね。
もしかしてこの赤い髪と赤い瞳はレッドドラゴン種の特徴なのかしら。
そうするとギオンもレッドドラゴン種ということ?
私は頭でギオンのことを考えた。
「お前が新しいマクシオン商会の会長か?」
ルクセル竜王の言葉で私は我を取り戻す。
いけない、今はルクセル竜王との謁見に集中しないと。
「はい。私の名前はミア・マクシオンです。マクシオン商会の新しい会長になりましたので以後お見知りおきいただけると幸いです」
「ふむ。マクシオン商会はいつも良き働きをみせてくれた。随分とお前は若そうだが商売の腕は大丈夫なのか?」
ルクセル竜王は胡散臭そうな表情で私を見る。
まあ、私はまだ人間としての成人もしてないから仕方ないわね。
でもちょっと失礼な人ね。
「はい。父より商売に関してのことは引き継いでおります。今日はルクセル竜王様への献上品をお持ちしました」
私がそう言うと私についてきた使用人たちが箱をルクセル竜王の前に置く。
「そうか。中身は何だ?」
「はい。翼人族の国の『空の織物』と魔族の国の『魔蜂の蜜酒』でございます」
「ほお。『空の織物』に『魔蜂の蜜酒』か。それは珍しい物だな」
『空の織物』は翼人族でも織れる技術を持つ者が少ない虹色に光る織物で『魔蜂の蜜酒』も魔族の国で作られる希少価値の高い品物だ。
なかなかこの二つの品物を取り扱う商人は少ないだろう。
マクシオン商会は異種族の国々との取引きで信頼された商会だから希少な品物も手に入る。
「ありがたくいただこう。私は酒が好きなのでな」
ルクセル竜王は『魔蜂の蜜酒』がお気に召したようだ。
良かったわ。気に入ってもらえて。
竜族は基本的にお酒好きということは聞いていたからそれを参考にしたのだ。
どうやらルクセル竜王もお酒が好きだったようだ。
「それでしばらくは商売をこの国でするのか?」
「はい。その予定です」
「そうか。マクシオン商会は国民の間でも人気が高いからな。存分に商売せよ」
「ありがとうございます」
そして私たちは謁見を無事に済ませて王宮を出た。
「いかがでしたか?初めての竜王様へのご挨拶は?」
ディオンが私に聞いてきたので答える。
「そうね。ちょっと緊張したけど贈り物も気に入ってもらえたし、最初の感触としては良かったんじゃない?」
「そうですね。ミア様は立派に受け答えされていましたし。問題ないかと」
「あと、ディオン。知ってたら教えて欲しいんだけど……」
「何でしょうか?」
「ルクセル竜王はレッドドラゴン種って聞いてたけど、赤い髪に赤い瞳ってレッドドラゴン種の特徴なの?」
私はルクセル竜王の姿を見てギオンもレッドドラゴン種なのかが気になった。
この竜族の国でも希少な存在と言われるレッドドラゴン種。
ギオンはそのレッドドラゴン種なのか。
「必ずしもそうではありませんが、赤い髪に赤い瞳を持つレッドドラゴン種はレッドドラゴン種の中でも力の強い者だと聞いたことがあります」
「力の強いレッドドラゴン種の特徴ってこと?」
「はい。ルクセル竜王はレッドドラゴン種の中でも竜王になるぐらいの方ですからね。それであの外見なのでしょう」
それってギオンは竜王に匹敵するような力の持ち主ってことになるのかな。
ギオンが何者か知らないけど今度会ったら聞いてみようかしら。
森でギオンがなぜ襲われたのかも気になるし。
「ディオン。明日は用事で一日出かけて来るわ」
「分かりました。商売の方は私がやっておきます」
「よろしくね」
私は明日ギオンに会うのが楽しみだった。
だってギオンのような男性とデートなんて前世も含めて初体験だもん。
私の心はウキウキしていた。
だが、同時に王宮でロイバルト王子の言っていた会話も気になっていた。
ギオンとのデートが終わったら少しロイバルトの身辺を調査する必要があるかもね。
もしかしたら先代竜王の死に関わっている可能性もあるし。
ギルバード王子にはまだ会ってはいないけど、ロイバルトに暗殺されたら困るし。
ギルバード王子はマクシオン商会の「シャナール」に仕事を依頼してきた人物だ。
シャナールの顧客が減るのも困るのだ。
私はそんなことを考えながら「商人の広場」に戻って来た。