第13話 二人の王子に会いました
私は目立たないように廊下を進んで行く。
なるべく人のいない方に進んで行くと庭園らしき所の入り口に着いた。
見張りの兵士などはいない。
王宮の庭園ってどんな所だろう。
私は好奇心に負けて少し庭園を見てみようと思った。
庭園の中は色とりどり花が咲いていた。
さすが王宮の庭園よねえ。こんなに多くの花が咲いてるなんて。
少し奥まで行くとビニールハウスのような建物があった。
あれは温室ってやつよね。珍しい植物があるのかな。
そこにも見張りの兵士とかはいない。
私が温室も見ようかと近付くと温室の中から僅かに人の声が聞こえた。
あれ?誰かいるのかな?
「いったいいつまであの男を始末するのに時間をかけているんだ?」
「も、申し訳ございません」
私は何やら物騒な言葉に身を固くした。
始末?それって誰かの命を狙ってるってこと?
私は少しだけ温室に入り中を見てみる。
中には二人の男性がいて一人は銀髪に青い瞳で豪華な服装からして高位の人物だと推測できる。
もう一人の黒髪の男性はその銀髪の男性に前に跪いている。
「あの男はレッドドラゴン種だから強いのは分かるが人型のあいつも仕留められないとはどういうことだ?」
「は!必ずロイバルト様の望む通りにギルバードの首を取ってまいります」
え?この銀髪の人ってロイバルトって言うの?
確かロイバルトって第一王子よね。それにギルバードっていうのは第二王子のことだわ。
もしかしてロイバルト王子がギルバード王子を殺そうとしてるの?
私は竜族の跡継ぎ問題の話を思い出した。
ルクセル竜王はロイバルト第一王子ではなくギルバード第二王子を後継者にしたがっているという話だ。
あの話が本当ならロイバルトがギルバードを亡き者にしようとする気持ちも分かる。
「そうしてもらいたいものだな。父上がギルバードを王太子に指名する前に始末しろよ」
「は!承知しました」
そう言ってロイバルトは私のいる入り口の方に歩いて来る。
私はすぐに温室の入り口から離れたが庭園の入り口に向かう方は温室からロイバルトが出て来たらおそらく私の姿が見えてしまうだろう。
だからといって今「透明人間」のスキルを使うわけにはいかない。
これからルクセル竜王との謁見があるからだ。
とっさに私は温室の近くにある庭園の他の方に伸びている小道を曲がった。
ここの小道の両側には背の高い植物があるため少し身を屈めれば私の姿を隠すことができる。
私はロイバルトに見つからないように身を屈めて小道を進んで東屋のような建物の近くで身を潜めた。
どうやらロイバルトは私に気付かなかったようだ。
私はホッと溜息をついた。
「そこで何をしているのかな?可愛い子猫ちゃん」
「っ!?」
私は突然の声にビックリして振り返ると東屋の中に男性がいた。
黒髪に黒い瞳のまだ若そうな感じの男性だ。
え、えっと、誰か分からないけど、何とか言わないと!
私は頭の中で理由を考えたがここは正直に話した方が逆に疑われないだろうと判断した。
「王宮に初めて来たんですけど道に迷ってしまって……」
「ふ~ん、王宮には何の用事で来たの?」
「あ、えっと。私はこれでも商人なんです。商売をするご挨拶に竜王様に会いに来ました」
私の言葉にその黒髪の男性は少し考えていたがやがて口を開いた。
「もしかしてマクシオン商会の関係者かい?」
「あ、はい。そうです」
「やっぱりそうか。今日はマクシオン商会の新しい会長が父上に会いに来るって言ってたもんな」
「父上?」
もしかしてこの人の言ってる父上ってルクセル竜王のこと?
もしそうならこの人も王子なのかな。
「ああ、私の顔を知らないのか。私はセランドール。この国の第三王子だよ」
セランドール!?確かにこの国の王子だわ!
「こ、これは失礼しました。王子殿下とは知らずに気安くお話をしてしまい申し訳ございません」
私が謝るとセランドールはにこやかに笑みを浮かべた。
「大丈夫。ここには私しか今いないから咎める者はいない。それに君は可愛い子猫ちゃんだから怒る気ないし」
可愛い子猫ちゃん?
まあ、随分とキザな感じの人だけどとりあえず敵ではなさそうね。
「ありがとうございます。これからルクセル竜王様への謁見がありますので失礼してもいいでしょうか?」
「ああ、かまわないよ。また会えたらいいね」
「失礼します」
私はセランドールに頭を下げた後に庭園の入り口に戻る。
既にロイバルトたちの姿はない。
私は頭の中で先ほどのロイバルトの言葉が気になったが今はルクセル竜王への謁見が大事だとディオンが待つ部屋に戻った。
「ミア様、どうでしたか?王宮は」
ディオンには私がただトイレに行っただけではないとバレていたみたいだ。
「そうね。少し面白いことがあったわ」
「面白いことですか?」
「まあ、別にたいしたことではないわよ。それよりそろそろ謁見の時間かしら?」
「そうですね」
ディオンがそう言った時に侍従がやって来てルクセル竜王との謁見の準備ができたと知らせてくれた。
さて、ルクセル竜王の顔を見てみようかしらね。