第12話 竜族は竜です
私とディオンは馬に乗り、ルクセル竜王への献上品を乗せた荷馬車と共に王宮へとやって来た。
王宮は遠くから見ても大きな建物だったが近付くとその巨大さをさらに実感する。
城門の所でディオンがマクシオン商会の者だと言うと門番は中に入れてくれた。
門を入ってからも中は広々としている。
指示された場所に馬を預けて一緒に来た数人の使用人が献上品を荷馬車から降ろした。
「マクシオン商会の方ですね?ルクセル竜王様との謁見の予定を聞いておりますのでご案内します」
王宮の入り口から一人の男性が私たちを王宮の中へと案内してくれる。
王宮の廊下を歩いていながら私はある特徴に気付く。
廊下は幅も広いがまず天井が異常に高い。
こんなに天井を高くする必要あるのかな?
私は疑問に思いながらも案内をしてくれる男性について行く。
すると一つの部屋の中に通されてそこでしばらく待つように言って男性は部屋を出て行った。
そしてその部屋もなぜか天井は異常に高く、そしてソファなどが置いてあるのだがやはり妙にだだっ広い部屋なのだ。
何なの?この無駄に広い王宮は?
「ねえ、ディオン。ちょっと聞きたいんだけど」
「何ですか?」
「何でこの王宮って天井がすごく高くて部屋もだだっ広いの?」
私が疑問を口に出すとディオンは答えてくれる。
「それはここが『竜族』の王宮だからですよ」
「え?それは私だって分かってるわよ。馬鹿にしてるの?」
私が不機嫌そうに言うとディオンは苦笑する。
「いえ、私が言いたいのは言葉通りのことではなく、『竜族』というモノがどのような一族かをミア様はご存じですか?」
竜族がどんな一族か?
竜ってぐらいだから人間とは違う種であることは分かる。
力の強い竜族以外は体に鱗の部分があるし。
「どういうこと?」
「竜族は基本的には私たち人間族に近い姿をしていますが、本来はその姿ではなく『竜』の姿が彼らの姿なのですよ」
「それって羽があって鱗に覆われた火を吐いたりするドラゴンということ?」
「まあ、火を吐いたりするかはともかくそういうことです。力の弱い一般の竜族は小さな竜の姿ですが王族ともなると竜の姿の体は大きいわけです」
「そうなの?」
私は頭の中でファンタジー小説に出て来るようなドラゴンの姿を思い浮かべる。
「はい。普段はもちろん王族の方も竜の姿ではなく人型で過ごしていますが、何かがあって本来の竜の姿になるか分かりません。なので竜の姿になっても建物が壊れないように天井も高く部屋の広さも大きいのです」
「へえ、そういうことか」
竜族って呼ばれるだけあって本来の姿は竜なんだね。
でも私は今まで竜の姿の竜族を見たことはない。
「でも竜の姿の竜族って見たことないんだけど」
「まあ、竜族にとっては竜の姿は『戦闘形態』の一つですからね。滅多なことでそんな本気を出さなければならない戦いにはなりませんから」
「戦闘形態?本気で戦う時は竜の姿になるということ?」
「そういうことです。私も先代について竜族の国には何度も来ましたが実際に竜の姿の竜族に会うことはなかったです」
「そうなんだ。でもディオンは見たことないのになんでそこまで知ってるの?」
私が聞くとディオンは溜息をつく。
「ミア様。商売相手のことを知るのは商売の基本ですよ。竜族のことを知らずに竜族相手の商売はできません。ミア様ももう少し学んでください」
「悪かったわ。確かに私の不勉強だったわ」
私は素直にディオンに謝る。
異種族との商売をするための勉強はまだ始めたばかりだったのだ。
お父様がもっと長生きしてくれたらお父様と一緒に商売の旅に出ていろんなことを教えてもらえたのだろうが仕方ない。
「いえ、私も言い過ぎでした。先代がこんなに早くに亡くなられるとは思っていませんでしたので先代もミア様にはいずれご自分からお話してお教えするつもりだったのでしょう」
ディオンは少し悲し気な表情をする。
お父様が亡くなって悲しかったのは私だけではない。一緒に商売をしていたディオンが悲しくないわけはない。
「平気よ、ディオン。私はお父様のように立派な商人になりたいの。あと、裏の商売もね。だから私に足りないことは何でも言ってちょうだい」
「分かりました。ミア様は本当にお強い方ですね」
ディオンは微笑んだ。
そこへ先ほどの男性がやって来てルクセル竜王の会議が長引いているのであと一時間くらい謁見までかかると伝えに来た。
あと一時間か。そうだ、ちょっと王宮の中を見てみようかな。
その男性が部屋を出て行った後に私はディオンに言った。
「ちょっとトイレに行って来るわ」
「王宮の中であまりうろうろしてはダメですよ」
「分かってる。トイレ行って戻って来るだけだから」
私は部屋を抜け出した。
さて、何か先代竜王の死に関するような情報でも手に入るといいんだけどな。