第7話 エドは変わり者です
「エド!」
私はエドに声をかける。
するとエドが私の方を見た。
「ミア。この男はどうした方がいい? 炎で焼いた方がいい? それとも氷漬けにした方がいい? 真空の刃で切り刻むこともできるけど」
え? 炎で焼くとか氷漬けとか切り刻むとか怖すぎるんだけど。
冗談で言ってるのよね?
しかし、エドの顔は真剣そのもの。
とても冗談で言ってるようには思えない。
「どれもダメよ! そんなことしたらその男の人が死んじゃうじゃない!」
「本をダメにしようとした罪は重い。それにミアに暴力を振るおうとするなんて万死に値すると思うけど」
エドの瞳には怒りの炎が宿っている。
エドって本好きなのかな。
万引きしたのも本だったしね。それでもこの男をエドに殺させるわけにはいかないわ。
たとえ横暴な言いがかりをつけてきた客でも命を奪うわけにはいかない。
でもエドが納得するような理由をつけないとエドはこの男を許さない気がすると私は直感的に感じた。
「エドが助けてくれたから私はケガをしてないし本も水に濡れていないから被害が出たわけじゃないわ。それにここで火の魔法や水の魔法とか使ったらそれで本を傷めるかもしれないでしょ?」
私はあえて男の命が大事ということよりここで魔法を使ったら本を傷めるかもしれないと主張した。
もしエドが人の命より本を大事に思う人間ならこの理由の方がエドを止めることができると思ったからだ。
「……それもそうか。じゃあ、ここで魔法を使うのはやめる」
「納得してくれたなら良かったわ。この男は警備兵に引き渡すから」
「分かった」
そこへ騒ぎを聞きつけてディオンがやって来たので私はディオンに事情を話しその男を警備兵に引き渡すようにしてもらった。
無事に警備兵にその男を引き渡した後に私はエドに声をかけた。
「助けてくれたお礼は言うけどむやみやたらに魔法は使わない方がいいと思うわよ、エド」
「……ミアが望まないことはしないと約束したから魔法を使うのは必要最低限にするよ」
エドはそこで笑顔を私に向けた。
その笑顔に私の胸がドクンっと高鳴る。
エドって変わった人だけど笑顔は素敵なのよね。
私はエドに見つめられて思わず赤面してしまう。
「ミアは優しいね。やっぱり俺が好きになったのは間違いなかったな」
「すすす、好き!?」
突然のエドからの「好き」発言に私は動揺する。
エドとは昨日会ったばかりでしかも万引きをするところを捕まえたのは私だ。
そんな私を好きになる要素があったのだろうか。
「わ、私は貴方を万引き犯として捕まえた人間よ? そんな私のどこを好きになるのよ?」
「う~ん、俺のこと本気で怒ってくれたからかな? ミアの怒った顔を見て素敵だなって思ったんだ。そしたらミアが好きになった」
はあ? 私の怒った顔が素敵って……やっぱりエドって変な人だわ。
「私の怒った顔が好きなの?」
「怒った顔も好きだけどどうせなら笑った顔が見たいかな。どうすれば笑ってくれる?」
「あのねえ、笑えと言われて笑えるものじゃないのよ。そういえばエドはここに何をしに来たの? まさかまた万引きしに来たわけじゃないでしょうね?」
私が軽く睨むとエドはニコニコしながら首を横に振る。
「ミアに睨まれるとゾクゾクするけど、残念ながら今日の目的は本じゃない」
睨まれてゾクゾクするとか。
エドってかなりヤバい人なのかしら。
私は自分が先ほどエドに対してトキメキを感じたことを少し後悔する。
「じゃあ、何しに来たのよ?」
「実はマクシオン商会にいるシャナールに依頼に来たんだ。オルシャドールの使いとして」
え? オルシャドール殿下の使いって……まさかエドが魔王なの!?




