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精霊少女の世界旅  作者: 雨森 裕也
第1章 精霊の住処編
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お父さんの実力を改めて知る

商人マトラスは精霊の住処で一泊して起きるとまだ日は登っていない。


同じ部屋で寝ているトールを起こさないようにそっとドアを開けて部屋を出た。階段を降りて1階に行くが、誰もいない。


(早く起きすぎたのだろうか?)


マトラスがそんなことを思っているとトールの妻であるルナさんが階段から降りてきた。


音がして振り返ったところで目が合ってしまった。本当に可愛い嫁さんだ。トールが羨ましいと思った。そうやってじっと見つめていると、ルナさんは困った顔をする。


「どうしたんですか?」


ルナさんが心配して声をかけてくる。僕はそれに反応することができなかった。


そのまましばらく沈黙が続く。すると今度は近づいて同じように声をかけてくる。


青色の髪から良い香りがする。甘い花の香りだった。精霊の住処でしか育たないマスキノの香りだろう。


(僕は何を考えているんだ、友達の妻だぞ。その友達も上で寝ている所だというのに!)


そんなことを思っているところで、ユミルが階段から降りてくることに気がついたルナさんの視線が外れた。



ユミルは6時に目を覚ました。体を起こし、床に足をついてベットに座った状態で両腕を上げて伸びをする。そのまま3秒ほどたち、腕を下ろして立ち上がる。


手早く服を着替えると、そのまま部屋を出て、階段を降りて1階に行く。この前までは7時起きだったが、最近は6時に起きて朝から剣の練習が日課となっている。


1階へ行くと、お母さんとマトラスさんの距離が妙に近かった。お母さんに限って不倫ということはないと思うけど、少しだけ不思議に思った。


お母さんと目が合った。


「練習してきます。」


と言って家を出ようとすると、


「じゃあ僕も行こうかな。」


マトラスさんがついてくることになった。


私は家を出て大きく空気を吸い込む。まだ空気は冷たく、吸い込むと目が冴えてくる。マトラスさんは自分の馬車に剣を取りに行っている。


私は魔法袋から剣を取り出して、上から下に振り落とす。何回かすると、戻ってきたマトラスさんは隣で剣を振るった。様々な角度から剣を振っている。


お父さん程では無いが、いい太刀筋だ。勝負しても勝てないだろう。パワーやスピードが同じになったとしても技術で負けている。


「少し手合わせするか?」


私を見てそんなことを言ってくる。


「力の差がありすぎじゃないですか?お父さんとすればいいと思います。」


「君のお父さんと僕では差がありすぎるよ。君との方がまだマシかもしれないほどにね。」


「そうですか?お父さんは凄すぎてどれくらいの差があるのか分からないんですよね。私から見るとマトラスさんも凄いですけど。」


「僕なら一生やっても、あそこまで上手くはならないよ。でも君ならあれ以上になれるかもしれない。」


「私にもなれますか?私が上手くなっている間も、お父さんは成長しています。最近、いつまで経っても追いつけないような気がしてしまうんです。」


「君のお父さんはまだ剣すら握っていない時期だよ。焦る必要は無い。最初の1年ほどでここまでできるだけでもかなり凄いよ。」


「そうですね、ありがとうございます。お陰で頑張れそうです。まずはあなたに勝つことを目標にしましょう。」


私はマトラスさんの正面に剣を構える。1度深呼吸をして声を出す。


「いきます!」


そうは言ったが、すぐには飛び込まない。隙が見当たらないのだ。今近づいても反撃されて負ける未来しか見えなかった。


しばらくはお互い無言で相手の動きを観察していた。


私が左右に動くとその場で体だけをこちらに向けてきて近づいてはこない。


だが、その時間も終わりを迎えた。


「そっちからこないなら、こっちから行くぞ。」


そう言って少しするとマトラスさんはすごい速度で近づいてきた。


10メートルほどあった距離が一瞬のうちに詰められる。私は正面で剣を構えて一撃目を防ごうとする。


一撃目は防ぐことができた。できたと言っても、わざとそれに合わせてくれたようだったのだが、その直後左からの蹴りに私は反応することができなかった。その蹴りは私の脇腹に当たった。


かなり加減されていて怪我はしなかったが、横に飛ばされてしまった。私は上手く受身をすると言った。


「急に蹴ってくるなんてずるいですよ。」


「ごめんね。でも勝負は剣だけではなく体術や魔法だって使っていいんだよ。わざわざ剣だけの勝負で勝つ必要はないんだ。それを君に知ってもらいたっかたんだ。」


マトラスさんの言うとうりだ。勝負は剣だけでするものではないだろう。剣だけでなく魔法も使えば、いつかお父さんにも勝つことができるかもしれない。そう思えばさらに希望が見えてきた。


「そうだとしても急に蹴るのは危ないですよ。今度は魔法も使うのでもう一度勝負してください。」


「いいよ、初めからそのつもりだったしね。いつでもきていいよ。」


マトラスさんからの許可が出ると、私は氷の魔法を同時に三本発動させた。


正面、足元、右側に1本ずつ飛ばした。そこまでの時間は1秒ほどだ。私自身も正面に突っ込んだ。私は左側に回避すると予想した。


そうすることで右利きのマトラスさんは正面にいる私から遠い位置に剣を持つことになる。そこで剣が遠くに離れた瞬間を狙って剣を当てようと考えた訳だが、そう上手くいくことは無く、マトラスさんは左下に避けてそのまま剣で私を切りかかってくる。


左利きである私は反応しても間に合わず、マトラスさんは寸止めした。私の考えは読まれ、逆にそれを利用されてしまった。しかも自分がやろうとしていた方法で負けたのだ。


とても悔しい思いだった。


「負けてしまいました。悔しいです。」


「まだ1歳にもならない少女には流石に負けられないよ。」


「凄かったぞ、ユミル。」


この声を聞いて私は振り返る。そこにはお父さんが家にもたれかかって立っていた。


「そうでしたか?何もできずに負けてしまいましたけど。」


「こう見えてアイツは優秀なやつだからな。アイツ相手で反撃に反応できただけでも、今のところは上出来だろう。」


(お父さんの話を聞く限りではマトラスさんは人間の中でも強い方だということになるのか。強いひとにしか会わないから感覚が狂っていたようだ。あれで普通だったら流石に焦っていたことだろう。)


「よかったです。じゃあ次はお父さんとマトラスさんとで勝負してみてくれませんか?駆け引きや、技の勉強になりますし、単純に見てみたいんです。」


私はお父さんにお願いしてみた。


「聞いたか、マトラス。俺の娘が俺達の戦いを見てみたいといっているぞ。」


お父さんはやる気満々でそう言うが、マトラスさんは嫌そうだった。


「勝負しても相手にならないよ。」


私が期待の目でマトラスさんを見つめていると、しばらく悩んでいたが、結果的には頷き承諾してくれた。


お父さんは剣を持ち、何度か素振りをして右手1本で剣を構えている。対するマトラスさんは片手で剣を持ち、左手は下げられている。


これから始まるという所で、別の場所から声がかかった。


「朝食ができたわよ。一緒に食べましょう。」


お父さんは1度私を見るとこう言った。


「残念だが、食べ終わってからだな。」


3人まとまって家に入っていった。



朝食は手早く済ませて、3人ではなく4人で家を出た。


お父さんとマトラスさんは先程と同じように剣を構える。距離は10メートル程度でどちらも一瞬でゼロにできてしまう距離だ。


お母さんが合図を出すと、マトラスさんは左手で魔法を放つ。魔法陣もなく、無詠唱だった。


お父さんは左前に行って回避しながらも近づいていく。


マトラスさんは合計4つの魔法を放ったが、全て避けられ、ほとんど意味をなさなかった。


剣の間合いに入ったお父さんはすかさず剣を振るう。一撃で首を取るほどの勢いだった。ギリギリでマトラスさんはそれを止めたが、踏ん張りがきかず後ろに1歩後退する。


下がったことで剣が離れると、すぐに間合いを詰めて魔法を使わせる時間は与えない。お父さんは剣を左右交互に振り、マトラスさんはかろうじてそれを防ぐことができているが、押されていることに変わりはない。


そんな時間は長くは続かず 、マトラスさんは敗北した。


「やっぱり勝てないよ。勝とうと思えばもう少し早く終わらせれただろ?」


「誰かと勝負をするのは久しぶりだったからな。つい嬉しくなって長引いてしまったな。」


「2人とも凄いですよ。私じゃあんなに持ちません。」


そう言って2人を称えた。


それからは2人からの指導を受けて、剣の練習をした。


時間はあっという間に過ぎて夕食の時間になった。もちろん途中で昼食を食べたが、それ以外の間はずっと剣を振っていた。夕食を食べ終わるとマトラスさんは帰って行ってしまうだろう。


夜の8時に出ると、ちょうど日が明ける前に森を抜けることができるらしい。普通の森なら夜に通るのは危険だがこの近くの森はモンスターがいるのだ。モンスターの活動が少ない時間帯の方がむしろ安全だということだ。


最後の夕食が終わって結界に向かって歩いている。お別れまでもう30分もないだろう。歩きながら2人は話していた。


「次来る時は1年と少したってその十日後にしないか?お前にもユミルの誕生日を祝って欲しいからな。」


「分かった。次はプレゼントも持ってくるよ。」


「そろそろお別れだな。お前には自分の夢があるしずっとここにいる訳にはいかないもんな。」


「そうだね。でも、一年後にも会うことになるんだからそんなに悲しくはならないね。君とは違って仕事が忙しくて1年なんてあっという間だよ。」


それからしばらくお父さんは1年間であった私の話ばかりしていた。照れくさいからやめて欲しかったが、改めて聞いてみると、2人が私をとても大切にしてくれていることが分かり、嬉しかった。


結界の前まで来て別れる間際、私はマトラスさんに別れの挨拶をした。少しの間だったが、たくさんのことを教えてくれた。剣術だけではなく、王国についても。


その感謝の気持ちも込めてお辞儀をする。


マトラスさんは結界を抜けて帰って行ってしまった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

自分のペースで書き進めて行きますが、これからも読んでくれると嬉しいです。

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