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精霊少女の世界旅  作者: 雨森 裕也
第1章 精霊の住処編
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魔物と魔族について知る

私は手紙を読む。

内容は次のようなものだった。


ユミルへ

私たちがアルメニア王国に行ってから一週間が経ちました。ユミルの事だから1人でも難なく生活しているでしょうね。今回手紙を出したのはあと一週間で家に帰ることができそうにないからです。今アルメニア王国では魔物が大量発生していて、その討伐を手伝うことになったのです。いつ収まるか分からないので、いつ帰ることができるのかも分かりません。その為ユミル1人では心配だと思い、1人あなたのお世話をしてくれる人をつけることにしました。その人が手紙を持ってきてくれた人です。彼女の名前はセリアと言います。セリアとは昔からの友達で、とても優しい人であなたの面倒もしっかりと見てくれると思うから困ったことがあれば遠慮無く言っていいからね。私たちのことなら心配はいらないから安心して家で待っててね。

ルナより


私は手紙を読み終わると呟いた。


「そうですか。無事に帰ってきますよね。」


私は残念に思った。将来は1人で旅に出たいと思っているが、親が嫌いな訳では無い。むしろ大好きだ。だからそれまではずっと一緒に過ごしたいと思っている。それに、まだ一人暮らしは早かったようだ。もっと自立してからにしよう、と考えている。


「そんなに心配かしら。あなたの両親は二人とも強いし大丈夫よ。少ししたら無事帰ってくるわよ。」


そんな保証はどこにも無い。いくら強くても無敵では無いのだ。更なる強敵が現れるかもしれないし、大量の魔物に対応できずにやられてしまう可能性だってある。


「自分よりも強いからって心配しない理由にはなりません。それにお父さんは私が産まれる前に大怪我をしているのですよ。」


私は直接見た訳では無いが、魔王と戦った時に負った傷のせいで一年近く目を覚まさなかったとお父さんに聞いたことがあった。またそんなことにはなって欲しくないと思っている。


「でも、そんな強敵、滅多に出てくる者じゃ無いでしょう?」


それでもセリアは変わらず、心配しているような様子が無い。


「滅多に出てこないからといって今回出ないとは限りません。それに、どちらにしても心配なのは変わりませんよ。」


この時、セリアは私のお父さんやお母さんのことなどどうでもいいと思っているのではないかと思ってしまった。


「そうね、あなたの言う通りだわ。でも、帰ってくるまでずっとそんなことを考えている訳にもいかないでしょう?心配するのもいいけど、程々にね。それで何か変わる訳でもないのよ。そろそろ昼食の時間だから、二人で一緒に食べましょう。」


そう言って、家の方に進んでいく。


それでようやく気がついた。セリアは心配していないわけでは無く、手紙の内容を受け入れた上で精霊王と剣聖の力を信じて無事に帰ってくることを祈っているのだと。


「そうですね。」


私は走ってセリアの隣まで行くと、笑ってみせた。今まで心配していたのが馬鹿らしく思えてくる。私の両親は強いし、何も心配することは無い。必ず2人で私の元に帰ってきてくれるだろう。


私たちは一緒に昼食をとることにした。


「あのさ、どうやったらあんなに早く魔法を上達させられるの?コツがあるのなら教えて欲しいなー。」


少し考えたが、私が何か特別な練習方法をしているとは思えなかった。強いて言うならお父さんに教えてもらった強化魔法を常に行っているからだろうか?それによって魔力制御力が鍛えられて精霊魔法もスムーズに発動できるようになったのかもしれない。でも、普通は途中で体が耐えられなくなって倒れてしまうようだし、言っても理解されないだろう。

おかしな奴だと思われて、それでおしまいだ。


「そんなものありませんよ。毎日練習してればどんどん上達していきますよ。」


その答えにセリアは大きなため息をついた。


「毎日と言うほどやっていないでしょ?まだ生後3週間なんだから!」


(確かに練習を始めてまだ2週間しか経っていないし、毎日と言うには短すぎたかもしれない。ずっと続けているから多少年上の人に比べると練習量は多いだろうけど、まだ年長者には及ばないだろう。練習量だけが理由ではないのは明らかだ。)


「お父さんやお母さんの教え方が上手いんですよ。それと生まれ持った素質ですかね。何せ2人の英雄の子供ですから。」


強い人たちの遺伝子を貰っているのだから練習すればこの位強くなる方が普通のことだろう。特に今の時期は成長が早いはずなので、この位早くないと私が困る。


「あなたのお父さんの剣術と身体能力強化魔法、それにルナの精霊魔法が加われば誰も勝てないわよ。」


「そんなことありませんよ。確かに2人が合わさればかなり強いでしょう。しかし、魔王を超えることはできません。6人の英雄が集まってやっと勝つことができる化物ですから。他にももっと強い奴がいるかもしれない。ですから、私はそれよりも強くなりますよ。魔王ですら簡単に倒せるくらい強く、それなら2人も安心して旅に出してくれるはずですから。まだ2人には言っていませんが、ここから出られるようになったら旅に出ることが夢なんですよ。そして世界を見てみたい。」


セリアは黙って私の話を聞いてくれた。


「それなら頑張らないとね。私も応援しているわ。」



それから一週間経ってもお父さんとお母さんが家に帰ってくることは無かった。その間にセリアと仲良くなっていた。


「帰ってきませんでしたね。もう今日も終わりそうです。まだ魔物との戦いは続いているのでしょうか。」


最後の方は独り言のつもりだったのだが、その言葉にセリアが反応する。


「私には王国の状況は分からないけど、帰ってこないということはそういうことなのでしょうね。」


もう既に魔物にやられて死んでしまったということも可能性としてはあるが、考えないようにする。


「そうですよね。2人は王国に住む沢山の人の為に戦っているんですよね。」


そう言いながら家に入っていった。セリアもそれについてくる。普段は全員別の部屋があって、睡眠もそれぞれの場所でしている。セリアにはお母さんの部屋を使ってもらっていたのだが、今日はセリアが私の部屋で寝ると言いだした。両親がいなくて寂しかった私はその頼みに応えた。


「じゃあ、今日は寝る前に1つ話をしましょうか。」


「なんですか?急に。」


もう寝る時間なのに何の話をしようと言うのか。


「急に、では無いわよ。今あなたのお母さん達が戦っている魔物についての話だから、関係がないことも無いの。ユミルは魔物についてどれくらい知ってる?」


(関係の無い話でもないのか。まあ、そんなことを抜きにしても魔物については詳しく知りたいと思っていたけど、私が読んだ本では詳しく書かれてなかった。)


「ほとんど知りません。見たことも無いですし。知っていることは、今から3年前に急に現れて人間、精霊などに向かって攻撃をしてきたことですね。そしてそんな魔物を使役しているのが魔族であり、そのリーダーが魔王と呼ばれている。これくらいですね。」


この情報は歴史書で断片的に知ったものだった。それ以外にも英雄の物語にも登場するが、悪い動物という表現で、魔物という名前ですらない。


「そう、それなら1から説明した方がいいわね。さっきユミルが言った通り魔物は3年前に何の前触れもなく急に現れたの。そしてどんどん増えてきて、魔王がやられた今でも増えている。魔物というのは動物のような見た目だけどとても凶暴で人を見るとすぐに襲ってくるの。」


「どうして襲ってくるのですか?」


「それは魔物が人間や精霊などを殺す為に産まれてきた存在で、殺すことに快楽を覚えるように作られているから、らしいわよ。魔族が作り出したんだと思うけど、殺す為に産まれてきたから大体知能は低いのに、一匹だけでもかなり強くて、その中でも強い魔物は1人で討伐できる人は限られてくるわ。」


「そんなに強いんですね。普通の人なら簡単に殺されてしまいますよね?」


「そうね。魔物の被害は無くならないわ。戦うのが苦手な人たちは何も抵抗できずに殺されてしまうのでしょうね。さらに、その上には魔物を使役している魔族と言う奴らがいるのよ。魔族の中で最弱でも魔物とは比べ物にならないくらいの強さを持っている。しかも魔族は魔物と違って知能があって人間の言葉を喋ることもできるの。」


「人間の言葉を喋ることができるのですか?」


別の大陸から急に現れたのに最初から人間の言葉を喋ることができるのはおかしいだろう。


偶然同じだったのか、実は全く違う言語で偶然言葉が通じているような気になっているのか。でもそんなことは無いだろう。偶然では無い、何か別の理由があるのだろう。


「それはまだ分かっていないの。不思議なことだけど、今はそういうものだと思うしか無いわね。話に戻るけど、そんな魔族の中でも特に強いのが魔王や四天王と呼ばれている奴らよ。四天王はその名の通り4人いて全員が化物よ。私も昔少しだけ戦ったことがあるけど、全く勝てる気がしなかったわ。勇者が来てくれなかったら死んでいたわよ。それよりも強い魔王というのはどれくらい強いのか分からないけど、あの人たちが集まっても勝つのが難しい相手なのだからかなり強いのでしょうね。想像もしたくないわ。」


「魔族や魔物はどこから現れているのですか。急に現れたって言ってたけど、街の中に突然生まれたりする訳ではないんだよね?それならかなり多くの被害が出ちゃうけど、そんな話は聞かないから。」


この場所は人間界の情報があまり入ってこないが、さすがに多くの被害が出た自然災害や事件なども含む国に大きな影響を与えるほどの話は伝わってくるのだ。


「それは魔物の発生と同時期に発見されたダンジョンと呼ばれるものが原因よ。そこで、大量の魔物が産まれているの。発見したダンジョンでは魔物が出ていかないように冒険者や近くの地域にある騎士団などが中に入って魔物を討伐しているの。でも全てのダンジョンを見つけた訳では無いから、まだ発見されていないダンジョンからは今も魔物が出てきているのよ。道に出てきている魔物を見つけて討伐するのも冒険者の仕事よ。ダンジョンは山の中、水の中、森の中など色々なところにあるから見つけるのが難しくて、発見した者に賞金を与えるくらいよ。」


「人が襲われてとても危険なものですからお金には換えれませんよね。」


「そうね。でも、ダンジョンにはマナが豊富でマナが結晶化した魔晶石と呼ばれるものを生み出しているの。精霊の住処にある生命の果実と呼ばれるものと同じようなものでとても貴重な物なのよ。だから魔物の出現は悪いことだけではないのよ。魔物の素材もかなりいいものだしね。まあ、悪いことの方が多いのは確かだけど。」


「魔物はダンジョンから来ていると言っていたけど、魔族も魔物と同じようにダンジョンから来ているんですか?」


「魔族は別の大陸から来ているの。でも、それなら魔族が魔物を使役していることが不思議なのよ。お互いは争わず、協力して人間を滅ぼそうとしているように感じるのよ。人間同士が協力し合うのは分かるのだけど、あんなに戦いに飢えているような奴らが協力し合うのはかなり変だと思うの。魔族がいる大陸に近づくほど強い魔物が出てくるダンジョンがあるから魔物は魔族が創り出したものなんて言われているけど、私はそうは思わない。確かに魔族はかなり強力な化物揃いだけど、魔王を倒したのに魔物の出没数が増加傾向にあるのは魔族が原因では無いからだと思うの。」


(言われてみればその通りだ。ただ戦う為に産まれてきたのなら協力なんてせず、お互いが争うはずだろう。しかし、魔王が倒れても魔物はこれまでよりも多く発生していて、お互いは争わず人間と戦争している。魔族が魔物を創り出すことに専念しているのか?だから魔族は出現しなくなったんじゃないだろうか。こんな憶測だけで考えても分からないだろう。王国の人たちが集まって考えて分からないことを私が考えても分かるはずもない。)


「確かに変ですよね。何か理由があるのでしょうか?」


念の為セリアにももっと詳しい事を知っているのか聞いてみたが、返ってきたのは予想通りの返答だった。


「魔族や魔物についてはまだ分かっていないことだらけなのよ。」


「そうですか。」


(まだ現れてから3年しか経っていないし、分からないことの方が多いのが普通なのだろう。)


「魔晶石が生命の果実と同じようなものというのは本当のことなのですか?そもそも生命の果実とはどんなものなのでしょうか。」


生命の果実がどんなものなのかは知らないが貴重なものだということはお母さんから聞いたことがあった。人間界では需要が高く、滅多に見ることが出来ないようだ。


「ええ、本当よ。普通の木は水や太陽の光などで成長するけれど、生命の果実はマナを使って成長するから果実の中に沢山のマナが凝縮されている、マナの塊のようなものよ。魔晶石はマナが結晶化したものだから同じようなものでしょう?生命の果実は食べるだけで傷が治ったり、痛みが消えたり、疲労が取れたりするし、とても美味しいからね。それだけじゃなく普通の食べ物と違ってすごく長持ちするの。生命の果実は回復に使うことが多くて、結晶は魔法具にすることが多いのよ。この辺りには生命の果実が沢山生えているわよね。」


(まさかそんなに凄いものだったとは思わなかった。しかし、私の家の近くに生えているのが生命の果実の木だったとは驚きだ。私はそんなものを普通に食べようとしていたのか。)


「長いこと話してしまったわね。そろそろ寝ましょうか。ユミル、おやすみなさい。」


(もう日付が変わってしまったし、早く寝た方がいいだろう。話を始める前から普段なら既に眠っている時間だったのに、長々と話してしまった。話が終わると急に眠気が襲ってきて私は瞼を閉じた。)


「はい、おやすみなさい」


私はすぐに深い眠りへと落ちていった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

自分のペースで書き進めて行きますが、これからも読んでくれると嬉しいです。

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