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精霊少女の世界旅  作者: 雨森 裕也
第2章 城塞都市ガリスタ編
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スゥの体を洗おう

私が戻ってくるとスゥはレイラに撫で回されていた。


「スゥ、私が戻ってくるまでいい子にしてたかな?」


スゥはレイラの腕から抜け出すと、私の手の上に飛び移った。


『ちゃんとしてたよ。レイラが僕のこと撫で回してくるんだ、なんとかしてよ。』


「この子、本当にいい子だね。嫌がってても全く攻撃して来ないんだもん。」


(攻撃してくる可能性だってあるはずなのに、スゥのことが怖くないのだろうか?まあ虎っていうことになっているだけで、この状態のスゥは怖いというより可愛いけどね。)


『嫌がってるって分かっているならやめて欲しいんだけど。ユミルから何か言ってくれない?』


「スゥの毛ってモフモフしていて気持ちいいよね。触っているとずっと触っていたくなっちゃうよね。」


『そんなことはいいから、注意してくれない?少しならいいけどあんなに撫でられるのは、撫でられてるだけでも大変なんだよ。』


『ちゃんと注意はしておくよ。私だってスゥのこと大切に思ってるんだから。』


「でも申し訳ないけど、スゥの嫌がる事はやめて欲しいな。少し撫でるくらいならいいんだけど、ずっとされると嫌がると思う。」


「ごめんね。初めての感触だったから、つい夢中になっちゃって。」


私も夢中になってしまう気持ちは分かるからこれ以上は言えなかった。スゥも私が注意した事で満足してくれたようだ。


「そうだ、スゥちゃんを洗うための道具準備するの忘れてた!今から持ってくるから、そこで少しだけ待っててよ。」


レイラはそう言い残して走り出して行った。


(お風呂に入る前に見た時は何か悩んでそうだったけど、今みるとそんな風には見えないな。何も無いんだったらその方がいいんだけど。)


『悩み事はあるよ。』


『やっぱりそうなんだ。それで、どんな悩みなの?』


『それは彼女に直接聞いた方がいいんじゃないかな?僕から聞いても意味ないよ。』


スゥに聞いても教えてくれない。一体どんな悩みを抱えているんだろう?


「遅くなってごめん。これで体を綺麗にしてあげてね。」


(レイラが持っているものはブラシだろうか。人間が体を洗う時に使う物とは全然違うんだね。)


「これは猫に使うためのブラシなんだけど、虎と猫ってあんまり変わんないからこれで大丈夫だよね?もし無理そうだったら言ってね。他のも持ってくるから。」


「ありがとう、使わせてもらうね。」


私はレイラから道具を受け取り、階段を登って部屋に戻った。


『悩み事が何か気になっているのに、聞かなくてよかったの?』


『気にはなるけどそれはまた後で。せっかく道具持ってきてくれたんだから使ってみないとね。それに、スゥも早く体洗って欲しいでしょ?』


私だってもう洗う気満々だ。スゥを桶の中に入れると、左手にはブラシ、右手にはシャンプーを持って準備をした。


『それもそうだね。』


準備したのはいいけど、そこから私は動けずにいた。


『そうは言ったけど、どこから洗えばいいんだろう?このシャンプーはどれくらい必要かな?』


当然私にはこういう経験が1度もない。こんな機会があるとは思わなかったから、勉強もしたことがない。色々な分野の本を読んできたが、その中には他の動物の体の洗い方などは書かれていなかった。


『仕方がないから僕が一から丁寧に教えてあげるよ。雑に洗われるのは嫌だからね。』


私はスゥの指示に従いスゥの体を洗い始めた。スゥは私に細かく指示を出していく。


(スゥはずっと人間とは関わらずに生活してきたのに道具の使い方は分かるんだ⋯⋯、ちょっとスパルタすぎるような気がするけど。)


『シャンプーかけすぎだよ!』とか、『強く擦りすぎ!』とか、他にも色々指摘してくる。初めてなんだからもっと優しくして欲しいと思う。


『ダメだよ!これから毎回洗うことになるんだから最初にちゃんと覚えた方がいいよ。最初から甘くしてたら絶対その後もそうなっちゃうだろうから、しっかりやらないと。それに僕はそんなにスパルタじゃない、これくらい丁寧に洗うのは普通だよ。』


(そうなのかな?スゥはずっと1人でいたから世間ではどれくらいが普通なのかなんて分かんないと思うんだけど。)


『文句言ってないで、ちゃんと体洗ってよ。』


(思っただけで言ってはないんだけど⋯⋯。)


『僕なら分かっちゃうんだからどっちでも一緒だよ。嫌なら思わなかったらいいんだよ。』


『それは難しいんじゃないかな?』


スゥは言い返すことが面倒になったのか、私の方を嫌な顔でじっと見つめてくる。


『⋯⋯ちゃんと体洗ってあげるからそんなふうに見ないでよ。』


スゥには色々と教わっている側だからなかなか文句を言うこともできない。そんなに言うなら自分でやれば?などと言って突き放してしまうこともできるが、私はそんな事はしない。


スゥなら1人でもできそうなものだが、最初から私がやるつもりだったんだから最後までやり遂げなければならないと思った。


『ユミル、ありがとね。こんな面倒な僕でも嫌いにならないでいてくれて。』


「当然だよ。むしろ自分の気持ちをちゃんと伝え合える関係になれる方が嬉しいよ。これからも嫌なことがあれば言って欲しいし、やりたい事や欲しい物があればどんどん言ってね。」


私はスゥの体を綺麗に洗い終えて、水をできるだけ桶に落としてからタオルで体を拭いた。


「これで終わりだよ。どうかな、綺麗になった感想は?」


スゥは自分の体を鏡を使って見回すと、表情が変わった。


『初めてだったけど妥協せずに頑張った甲斐があったんじゃないかな。上手にできてる、文句はひとつも出てこないよ。』


「じゃあ体も洗い終わったし、一緒にこれを返しに行こう。」


『それよりも本当の目的はレイラの悩み事の相談に乗ることでしょ?』


私達は扉を開けて廊下を歩きながら話し続ける。


『そうだね。気になるというのもあるけど、やっぱり力になってあげたいからね。私にできる事だったら手伝おうと思ってるよ。』


階段を降りて食事のスペースに来たがレイラの姿はなかった。厨房ではローランドが皿を洗っていたが、1人だけだった。


どこにいるのかも心当たりがないので、レイラのお父さんに聞くことにした。


「すみません。レイラはどこにいるの?」


「この時間なら自室に戻っているだろう。レイラの自室は、三階の前から四つ目の部屋だからな。話したいことがあるなら行ってみるといい。」


「ありがとう。」


私は丁寧にお礼を言ってから急いで三階まで上がり、レイラの部屋のドアを優しく叩いた。すぐにドアが開けられ、レイラが顔だけ外に出してきた。


「ユミルじゃん。こんな時間にどうしたの?悩み事の相談にでもきたの?」


「そうだね。ちょっと聞きたいことがあって。長くなるかもしれないから部屋入っていいかな?」


悩んでいるのはレイラの方だよね、とは言わなかった。最初から聞こうとすると簡単には教えてもらえないかも、と思ったからだ。


見た感じだと誰にも相談していなさそうだし、誰かに相談しにくい悩みは多くの人が持っているものだ。だが、相談しにくいだけでしたくない訳では無く、誰かに打ち明けたいと思っている人の方が多いだろう。


だから先に彼女の部屋に入るという選択肢を取ったのだ。これならレイラも少しは話しやすくなるだろうから。


私はレイラの許可を得て部屋に入り、進められた椅子に座った。

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